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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第3章「テレセフの悪魔」

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61.城塞都市の領主


 ――グラルド卿が城塞都市テレセフに到着してから、約四時間が経過。


  ◇◆◇◆◇


 アロンの率いる、騎士団一番隊後衛部隊が城塞に到着したころ。城塞都市の正門前には既に幾つかの天幕が張られ、悪魔殲滅のための陣営が築かれていた。アロンはそれぞれの天幕に役割ごとの騎士たちを配分しつつ、その中央のひと際大きい天幕に歩を進めた。

 中央にあり、最も大きい天幕となれば、それは基本的に指揮を担う人間の座する場所である。そして、今は少なくとも、そこに座っているのは城塞都市テレセフの、領主である男。


 天幕に入る。幾人かの騎士や衛兵がアロンの方を見やって敬礼を向けてくるのに返しつつ、アロンはさらに奥へ。臨時で置かれているのであろう椅子と机があり、その椅子に掛けている中年の男こそ、城塞都市の領主だった。この男を、アロンは見たことがある。

 一番隊に所属し、いち早く城塞都市に到着していたのだろうシェイドが、領主の隣に控えていた。その場所にいるのは、彼が一番隊の騎士だから、という理由だけには留まるまい。


「お久しぶりです――ファドルド・()()()()()卿」


 アロンが領主、ファドルドに声を掛ける。そこでやっとアロンの存在に気づいたのか、半ば慌てながら彼は立ち上がった。シェイドが、表情を厳しくする。

 城塞都市テレセフを領地として治めてきた、領主ファドルド・バーカイン。数代前からテレセフの領主一族となったバーカイン子爵家の現当主であり、その名の通り――騎士シェイドの実父でもある。今回の騒動の中心地である城塞都市テレセフは、シェイドの故郷でもあるのだ。


「――王子殿下。此度は我々の不手際によりご足労をお掛けして申し訳ありません」


「いえ、そのあたりは構いません。それも……騎士団本部は今回の騒動について、『悪魔の活性化』ではないかと、考えているそうです。撤退戦に移行した決断は、英断でした」


 変な意地を張って多大な犠牲を支払い、結果として城塞都市テレセフを奪還することすら出来ないような状況に持って行かれるよりは、一度撤退して奪還戦を見据える。簡単なことだが、しかし実際にその決断をすることは難しい。

 ファドルドがその難しい決断を下したことは、国益を考えるアロンにとって、僥倖だった。


 形式上の挨拶を終えて、話は城塞都市の奪還戦の話へと入っていく。衛兵たちが机に地図を広げ、それを挟むようにしてアロンとファドルドが向かい合った。シェイドの位置はその丁度間辺りだ。ファドルドは父だが、アロンがいるこの場では彼が護衛するべき最優先は第二王子であるアロンなのだ。それを考えてか、彼の位置はどちらに危険が迫ったとしても対応できるような場所だった。


「まず、現状分かっていることをお話しします。――事が起こったのはここ。城塞都市の中央部です。ここから戦闘は移動し、現在悪魔の群れが集まっているのは恐らく、このあたり」


 そう言って、ファドルドが指し示したのは城塞都市の最北端にある小高い丘だった。全体的に都市開発の進んでいるテレセフだが、その付近は古くから貴重な薬草類が採れることもあり、手つかずの原生林となっていた。そして、ファドルドの話によればそのあたりに、洞穴があるのだという。

 ファドルドの見立てでは、その洞穴が悪魔の巣窟となっているのではないか、という事だった。というんも、その洞穴の確認に向かわせた衛兵隊が悉く帰還していないのだ。逃げ帰ることも叶っていないことから考えれば、恐らくその洞穴には多くの悪魔がいるか、または上級やそれ以上の悪魔がいるか――。


「どちらかと言えば、単純に多くの悪魔がいたほうが楽ですね。『紫隊長』グラルド卿は殲滅力に長けています。当然、彼は上級の悪魔を数体相手取ることも出来ますが――それ以上、大悪魔のような存在相手では、絶対は存在しなくなる」


「上級を数体相手取って優勢を取れるというのなら十分です。この洞穴の探索、及び恐らくそこにいるであろう悪魔の殲滅はグラルド卿にお任せしましょう」


 現状、グラルド卿は都市中を徘徊する悪魔を見つけ次第に殲滅している。しかし、騎士団が到着した今、彼が低級や中級の悪魔を相手取る必要性はない。それよりも、強い悪魔がいるであろう場所に配置した方が、彼の存在価値が高まるのだ。

 

 グラルド卿を洞窟の探索へと向かわせるべく、衛兵たちが伝令に走る。そして、話は次の段階へと移行した。


「――ところで。敵の主戦力は、分かっていますか」


「まだ、はっきりとは。ですが、一つだけはっきりしていることがあります。言葉を話す悪魔の女が一体――状況から見て敵側の首魁と思しき悪魔です」


「言葉を話す――少なくとも上級以上、ですか」


「事の発端はその悪魔が起こした騒動でした――が、その後彼女を発見したとの報告がありませんので、洞穴にいるとしたら、彼女かと」


 中央庭園で初めに人を殺したのは、その女の悪魔であった。その時の生き残りが証言するところによれば、その悪魔は言葉を操るのだと。

 中級悪魔では言語を理解できない。話せるだけで級位は上級以上で確定、かつ人の言語を理解できるだけの時間があったことも考えれば長い時間を生きてきた悪魔であろうことは、容易に想像できる。


「それだけの年数を生きてきた上級悪魔――グラルド卿以外には安易に任せられない相手、ですね」


 アロンの締めくくるような言葉に、ファドルドは重々しく頷く。その隣で、シェイドはグラルド卿の実力を誇るかのように大きく頷いていた。

 ひとまず、敵側で最も強い戦力にはこちらの最高戦力をぶつける。無難ではあるが、それだけ堅実な戦略だ。


「少なくとも上級以上の悪魔が一体。しかし、それと中級悪魔や低級悪魔だけ、というのでは――この被害は、あまりに異常です」


 ファドルドの言葉に、今度はアロンが重々しく頷く番だった。

 上級悪魔は確かに脅威だ。適当な集落を軽々滅ぼす力を持っている。しかし、それだけでまさか、城塞都市が一つ陥落するとは、正直考えられない。

 平和呆けしていたとはいえ、テレセフはギルストの重要な都市の一つ。常駐する衛兵の数も集落や村とは比べものにならないのだ。上級一体とそれ以下の悪魔によって陥落するなどとは、想定もされていない。


「――間違いなく、上級以上の悪魔が複数体は存在する」


「状況は、そう述べているも同然です」


「もしも、の話ですが……その複数体の悪魔が、それぞれ別の地点で活動した場合、流石のグラルド卿も、一人で複数地点の悪魔の対応はできません」


「少なくない被害が出るでしょうね」


 もしもの場合、とアロンはそう言った。しかし、その「もしも」でない場合のほうが希望的観測であることなど、彼も理解している。その上で、その最悪の可能性に「もしも」を被せて、目を逸らそうとしているのだ。

 グラルド卿が首魁と思しき悪魔に対処する。それは決定でいいだろう。しかし、他にも存在するであろう上級以上の悪魔には、他の騎士や衛兵で対処しなければならない。


 さて、そちらには誰を――、とアロンは思考して。


「その他の上級悪魔の対処、私にお任せいただけませんか」


 視界の左端に、腕をちょうど直線にして挙げているシェイドが映った。静かに、ただその瞳を燃やして。彼のその感情を、アロンは推し量るまでもなく理解できる。


「シェイド――上級悪魔の討伐実績は?」


「単体を相手取って二回、他の悪魔も相手取って四回、二体の上級悪魔を相手に一回です」


「ふむ、なら十分か。――ファドルド卿、構いませんね」


「構うも何も――息子がその務めを果たすなら、それが本望か否かに拘らず、誇りでありましょう」


「分かりました。シェイド、今から支度をし、十分後に出撃だ。一番隊の後衛部隊を一部つけよう」


「はい――ッ!」


 ファドルド卿の二人の息子――フェルドに続きシェイドも、テレセフ奪還戦に出撃することと、相成った。



  ◇



「五分後には出撃する!! 各自準備だ!」


 騎士団一番隊の後衛部隊。総指揮を執るのはアロンだが、その実戦指揮はまた別の人間が司ることとなっている。今丁度声を張り上げている男こそ、その指揮官だ。


 ――ライガン・ドズメント部隊長。


 若くしてその才を買われ――、というような過去は特にない。ただ堅実に積み上げてきた実力とキャリア、そして抜群のカリスマ性が、彼の武器だ。

 そのカリスマ性から指揮官の立場を与えられることが多く、実力ではシェイドに劣るが、その階級は彼よりも上だった。


 アロンからシェイドの後方支援のために一部の後衛部隊を出撃させるようにとの指示を賜り、ライガンは声を張り上げる。

 そして、選ばれたその一部というのが――、


「(なんで、フェナリ嬢がいるんだ……)」


 声には出すまい。表情にだって、出すまい。しかしその心中、アロンは自らの悪運を呪っていた。後衛部隊の準備ができたというので総指揮官として現場に足を運んだアロン、彼がその場に着いて、真っ先に視界に入ってきたのがフェナリだったのだ。

 チョーカーの効果もあって、彼女の存在に気づくのはアロンだけ。それが故にライガンに人員の変更を命じるのは難しかった。


「(シェイドは十分に強い。フェナリ嬢は無茶をせず、後方支援に徹するんだ)」


「(任せてください! 何が何でも悪魔を滅してまいりましょう!!)」


 他の騎士たちに悟られないようにしながらも、アロンは強く念を送る。しかし、フェナリには全くその意志が届いていない様子であった。

 心のなかで、アロンは何度目かもわからない溜息をつく。やはり自分は、彼女が危険へと近付いていくのを祈って見守るしかできないのだと、どこか諦めにも似た感情を抱えて、アロンはフェナリの出陣を見守っていた。



2025.07.07

「最西端」→「最北端」

表現を変更しました。後々のエピソードの表現との矛盾の解消です。

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