表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第3章「テレセフの悪魔」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/123

60.帰還と出立


 急遽帰還することとなったアロン率いるホカリナ遠征組はギルストの王都を経由し人員を刷新して、そのまま城塞都市テレセフへと向かうべく出立した。

 本来、アロンはホカリナとの会談の経過を国王に報告する義務があったのだが、それは別の文官に任せる形で、異例の遠征継続である。というのも、フェナリが悪魔との戦闘に参加することをごねたから――ではなく、城塞都市テレセフがアロンの担当区域であったからだ。


 ギルストには幾つもの都市が存在するが、それぞれは貴族たちの領地として各家の当主が治めている。そして、その貴族たちの報告を吸い上げ、更に広い範囲で資料を集める役目を持つのが第一王子と第二王子だ。王都を中心とした西側主要都市十二をアロンが、東側主要都市十七を第一王子が担当している。

 また、彼ら王子が担当しているのは単なる資料集めだけではなく、緊急事態が起こった時の対処もだ。その地を治めている領主の悪行が判明するなどして領主が追放される場合、一時的に担当する王子がその地の支配権を手にする。今回で言えば、悪魔による陥落という非常事態なのだから、担当であるアロンの出動は必須だった。


「――王子殿下。第一番隊後衛部隊、出立の準備整いました」


「分かった。すぐにでも出発しよう」


 アロンが率いるのは城塞都市における敵対存在殲滅戦の要である第一番隊、その後衛部隊であった。と言っても、彼自身は当然、前線に近づけるわけでもなく、後衛部隊の少し後ろから全体指揮を担当する。そして、アロンの眼前に並ぶ後衛隊の騎士たち、その中に一人だけ、異質な存在がいた。


「……では、進軍する」


 アロンの宣言と同時に、騎士たちから応ずる声が上がる。低く強い鬨の声が聞こえる中で、一人だけ少し声音の違う人物がいた。予備の騎士服で身を覆い、チョーカーを二つ首に巻いたフェナリである。彼女の姿を視界に入れ、アロンは苦い表情が出かけるのを如何にか抑えた。

 本来ならば騎士剣を提げるはずの場所には張りぼての模擬剣が差し込まれ、髪は後ろで括って動きやすいように。伯爵令嬢という身分である以上、彼女があまり着てこなかったようなパンツスタイルで身だしなみを整え、見かけだけは騎士に見えるように仕込まれていた。

 周りの騎士たちは一切違和感に気づかず、チョーカーを身に着けるタイミングで同席したアロンだけが彼女の存在に気づいている。ムアが作ったというチョーカーの効果ははっきりと確かめられたわけだが、しかしどうしても、アロンとして呑み込みにくい状況であることは違いなかった。


「城塞都市には一番隊前衛部隊が先着し、殲滅戦を開始している。我々は彼らの援護をするとともに、一部二番隊の避難経路確保にも協力する。一番隊と二番隊の橋渡し役でもあり、君たちこそが情報戦の要だ」


 しかし、状況に文句を垂れている時間はない。城塞都市の陥落、しかもギルストが戦争をする場合の防衛戦の要が、という状況だけでも十分に異常事態であり、危急の事態ではある。だがそれ以上に、それを為したのが悪魔だ、というのが問題なのだ。


 ――ギルスト史に於いて、悪魔の活性化は三度。


 その内、三度ともがギルストに甚大な被害を齎し、複数の都市を壊滅させた。その猛威が王都に届きかけた事案もある。その三度とも、事態の収束は成し遂げられ、国家が崩壊することが無かったことは現在のギルストが存在している事実が証明しているが、しかしギルストそのものが陥落していてもおかしくない被害であったことも、事実だった。

 悪魔の活性化は現状、理由も原因も分かっておらず、扱いは自然災害と同等だ。しかし、どれもが最初は一つの都市の陥落から始まっていた。


(まさか、今回が歴史上四度目となるなどとは考えたくもない、が……)


 最悪の可能性だって、考えなければならない。

 城塞都市テレセフの陥落を唯一の犠牲として、被害を最小限に抑える。その場で悪魔を全て殲滅し、これ以上の被害を生み出さないようにする。津波に対して堤防を築くが如く、悪魔の波濤をこれ以上広げないための堤防を築くのだ。


「何としても、城塞都市テレセフで全てを終わらせるぞ――!!」


 先頭で馬を駆けさせるアロンの叫びに、呼応する騎士たちの声が晴天に響いた。ただ、城塞都市テレセフの方角、空は雲に覆われていた。



  ◇



 城塞都市テレセフに常駐している衛兵たちは、撤退戦を余儀なくされていた。

 背後には避難が遅れている市民たち。目の前には中級程度と考えられる悪魔が二体。衛兵たちは実力がおよそ悪魔には及ばない程度が五人。数では勝っている以上、どうにか戦線は維持できているが、体力の消耗が激しい。これ以上戦い続けることは、不可能だろう。


「王都には……流石に報告が届いてる、よな……ッ」


「先輩たちが緊急用の鷹を飛ばしたんだ、そろそろ応援が……」


「応援が、いつ来るってんだ。俺たちは、今死にかけてんだぞ」


 衛兵たちが手に握るのは剣ではなく槍。それをいつこちらに攻撃を仕掛けてくるかも分からない悪魔に向けて構える。人間らしい見た目の部位もありながら、しかし全体的に異形の見た目になっている悪魔は、恐らく中級。こんなのが都市中を徘徊しているのであれば、恐らく首魁の悪魔は上級か、それ以上の――、


「後ろ向きに考えるな!! 数はこっちが勝ってる、囲んで倒すぞ!!」


「囲んで、って……っぐぁ!」


 五人の中では最年長のリーダー格が指示を飛ばすが、周囲の衛兵がそれに応ずる前に、悪魔は衛兵たちの懐にいた。その腹に鋭い爪を突き立て、中を抉る様に指を曲げる。

 苦鳴を漏らして、衛兵が二人倒れた。指を差し込んだ位置から考えれば、危うく致命傷は避けている。しかし、それでも戦闘力を大きく削ぐ攻撃だった。リーダー格の衛兵の表情がさらに厳しくなり、持っていた長槍が渾身の力で悪魔の腹に突き立てられる。――と、悪魔の羽根が長槍を跳ね返した。


「――っく!」


 跳ね返された長槍の柄の部分が衛兵の腹を凹ませる。胃液が逆流する感覚に、表情が危機感とは別に歪むが、その手のひらから長槍が離れることはなかった。それどころか――、

 苦悶の表情の衛兵の目の前で、ケラケラと嘲笑を浮かべている悪魔を視界に捉えた瞬間、言葉にし難い怒りで衛兵の掌には力が籠った。


 中級程度の悪魔は言葉を語ることが無い。しかし、愉悦という感情は持っているらしく、その表情には自ら強者だからという単純な理由で、常に嘲笑が浮かんでいる。

 人間を、馬鹿にするなと。人間を、嘲るなと。人間を、舐めるなと。そう激昂のままに叫びたい。しかし、それは出来ない。全ては力がないからだ。ここで、悪魔を軽々と蹴散らせるような力が、衛兵たちにはない。だから、自分たちの力を以て悪魔の嘲笑に反駁を叫べない。


 悪魔の羽根が、広がる。およそ人が二人分ほどの長さまで広がって、その先に付いた鋭い爪先は、残った二人の衛兵に向けられていた。彼らも、既にいくつかの傷を負っている。それでも、立っている。しかしその覚悟も、意志の強さも、何もかもを嘲笑するようにして、悪魔は嗤う。

 長槍一本で、衛兵たちの実力で、一切の抵抗すらできないような一撃が放たれて――、



「――ッ、と。まずは、二匹」



 その黒く濁った一撃は、白い一閃に塗り潰されて消えた。衛兵たちの目の前に人影が差しこまれ、同時に悪魔は二体とも、首を飛ばされていた。それを成し遂げたのは、大剣を振り下ろす大柄な男。その手に握られた大剣は、ギルストの、そして今は衛兵たちの、希望の象徴たる騎士剣――。

 

「っ、助かりました……『紫隊長』グラルド卿」


「ぐ、グラルド卿って――」


「遅れてすまねェ。他の騎士もこッから来る筈だ。俺は悪魔を殲滅する、お前らは避難民の救助を。聞いた話では、騎士団二番隊が避難経路確保の補助にあたッてるから、負傷者はそこで救護だな」


 口早に告げ、グラルド卿は大剣を提げて地面を踏みしめた。同時に地面が一部爆砕、彼の巨躯が射出されるような勢いで駆けていく。

 その様子に一瞬呆けたような、見惚れたような衛兵たちも、すぐに我を取り戻して避難民たちを率いて避難を開始した。


「外からは分からなかッたが……中に入れば気配があるな。ッてことは、こりゃァ結界か?」


 城塞都市の網目状の街路を進みつつ、グラルド卿は悪魔の気配を探る。テレセフの外からは感じにくかった気配だが、実際に中に入ってみれば幾つか悪魔の気配が感じられた。その点から、城塞都市全体に気配隔絶の結界が張られている可能性に思い至る。

 結界術というのは恐ろしく繊細だ。魔術の才に恵まれる人間は多いが、その中で結界術に適している人間というのは特殊魔術を手に入れる人間よりもさらに少ない。悪魔が結界術を扱っていたという記録は存在しないが、現状から考えれば悪魔によって結界が張られたと考えるのが妥当だろう。


「まさかッとは思うが……不可視の敵にも気を付けろッてことかよ」


 結界術で姿と気配を隠し、不可視の状態でこちらに攻撃を仕掛けられると、厄介だ。グラルド卿は『騎士術』によって結界があろうとその気配をはっきりと認知できる。流石にホカリナからテレセフの間程の距離があれば彼の気配探知にもかからない場合があるが、この距離なら間違いなく、『騎士術』がその結界を看破する。

 とはいえ、だ。問題はグラルド卿以外の騎士や衛兵たち。結界の精度は遠い距離が離れていたとはいえ、『紫隊長』の気配探知を掻い潜るほどのものだ。この精度の結界相手では、シェイドと同程度の実力がなければ看破できないだろう。つまり、大多数の騎士たちが不可視の敵を相手しなければならないという事。


「結界持ちが二体以上いるッてんなら――俺が先に殺しておかねェと、ッてわけだ」


 改めて、グラルド卿は標的を定める。

 ――城塞都市テレセフでの殲滅戦、開幕。


お読みいただきありがとうございました!

少し下にある☆の評価、リアクションやブックマーク、そして感想も是非ともお願いします。

この小説はリンクフリーですので、知り合いの方に共有していただくことが出来ます。pv数に貢献していただける方を大募集です!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ