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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第3章「テレセフの悪魔」

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59.城塞都市テレセフ

第3章開幕となります。


 シェイドに城塞都市テレセフの陥落を知らされ、グラルド卿はホカリナを離れて国境付近の山中を駆けていた。


 グラルド卿が全力で走る時、その速度は馬車をも超える。それは、『騎士術』によって自らの身体の動きを正しく把握し、最適な動かし方を実践できるからだ。

 とはいえ、常に体と脳を働かせ続ける手法である以上、その疲労は急速に溜まっていく。『騎士術』の運動最適化がその疲労が溜まるのも抑えてはいるが、それにも限界はあった。


「チッ、一旦本部に寄るしかねェか……」


『厳籠』討滅作戦の直後でなければ、城塞都市テレセフまでの道を走り切ることも、グラルド卿には可能だった。しかし、今回ばかりはそうもいかず、一度騎士団本部で小休止を入れることを余儀なくされる。

 強く舌打ちを飛ばしながら、グラルド卿は騎士団本部のある王都へと駆け足を向かわせた。


 騎士団本部は、予想通りに緊張状態であった。ギルストの主要都市であるテレセフが陥落したのだから、それも仕方あるまい。

 そして何より、グラルド卿も予想していることだが、今回のことには大悪魔が関わっている可能性がある。恐らくそのことには本部も気付いていることだろう。だからこその、この緊張感だ。


「――団長、緊急招聘に接し、グラルド参じました」


「グラルド隊長。来てもらって早速だけれど、君には先鋒を頼みたい。君も気づいてることかと思うが――、十中八九大悪魔関連だ。適当な寄せ集めの新兵を送ることはできない」


「あァ、分かってます。まァ色々あって激戦のあとでして、二十分休んだらすぐに向かいます」


「構わないよ。本来なら休ませたいところなんだけれど……他の『紫隊長』と連絡がつかないんだ。あいつら、マジで後で殴らないと」


 苦々しい表情と青筋を浮かべた騎士団長も、すぐにそれを隠してグラルド卿に向き直る。そして、手元の資料を渡して言った。


「現状、詳細は不明だが……分かっていることをまとめた資料だ。休憩と移動の間で目を通しておいてくれ」


「了解です。では、俺はこれで」


 受け取った資料は確かに薄かった。紙が三枚か四枚。あまり上質な紙ではない。正式書類を作るには時間が惜しかったか、字もなぐり書きが散見される。

 与えられる情報、状況が、集まれば集まるほどにグラルド卿の緊張感を跳ね上げていく。


「大悪魔――魔物の跋扈する最北の大森林を、一体で制圧したとかいう、ヤツか。俺も、直接は戦ッたことがねェ」


 思い出すのは敗北を予見させた黒の男の強さ。結局は勝てたのだから考える必要がない、と言うのは単なる結果論だ。状況が少し違えば、負けたかも知れないのだから。

 グラルド卿は、アロンから黒の男の正体について知らされていない。本来ならギルストとホカリナの貿易に関する会議が終わった後に諸々の話を共有するはずだったのだが、その暇もなしに次は城塞都市テレセフに向かわねばならない状況になってしまったのだ。


「ひとまず――資料読んでテレセフに走る。全部はそッからだ」


 

  ◇



 騎士団本部に指令を通達――。


 城塞都市テレセフ陥落に対し、避難民の救助、及び敵対存在の殲滅を成せ。

 出撃指定:一番隊、二番隊、及び『紫隊長』最低一人。

 一番隊、『紫隊長』はテレセフへ直行。敵対存在を確定の後、その殲滅。二番隊はテレセフ避難民の保護と並行し、城塞都市アーディオでの避難受け入れを援助。完了後、敵対存在の殲滅を援助せよ。



  ◇



 城塞都市テレセフの陥落。その報は当然ながらアロンの耳にも届いた。シェイドがグラルド卿に報告したのと、ほぼ同じころである。そして、その事実はギルストの要人の間に激震を走らせた。

 ホカリナとの貿易を開通するための会議が両国とも賛成の方向性で進んでいたこともあり、足早にその会議は締めくくられ、アロンは早々の帰国を余儀なくされる形となった。本来ならば、あと一日か二日のホカリナ滞在が予定されていたのだが、そんなことを言っていられなくなったのだ。


「一番隊と二番隊の騎士は護衛任務を解除。直ちに緊急招聘に従い、騎士団本部または城塞都市テレセフへ直行。それぞれ指令に従って動くように!!」


 アロンの声が鋭く響く。その表情には緊張が浮かんでいた。彼も不憫なもので、ここまでの騒動中ずっと気を張っていたというのに、その緊張を解いてゆっくり安堵を噛みしめるような時間は与えられず、そのままの流れで別の緊張へと放り込まれたのだ。

 ただ、彼にとって唯一の助けはフェナリが今度こそ、自分の隣にいるという事だった。ただ、問題はというと――、


「今度こそ私も!!」


「いや、今度こそ駄目だ!」


 こうなるのは二度目だ。自ら出陣を希望するフェナリと、彼女を危険に晒すまいとしてそれを却下するアロンの揉め事。今回も正論なのはアロンの側である。そもそも、表面上は王子の婚約者であり、将来の王太子妃でもあるフェナリが戦場に躍り出るだなんて、異常事態もいいところなのだ。

 とはいえ、フェナリもフェナリで引き下がらない。


「私の戦績を、アロン殿下もご存知でしょう。必ず、国のために華々しく散ってみせます!」


「散ってはダメだろう!?」


「では戦績を増やしてくるだけにしておきますから!」


「そういう話ではなく、危険が及ぶという時点で良くないというだな……」


「自惚れたことを言うなら、私がいることによってほかの騎士の方々の生存率は多少上がります」


「は……?」


「確かに、私のことを心配してくださっていることは理解しています。ですが、今回の城塞都市陥落は異常事態であり、騎士団の隊が二つも出動する危急の事とグラルド卿も仰っていました。今後のため、国のため、騎士の方々を多く失うことは避けるべきでしょう」


「――――」


 戦闘に関連することを話す場合、フェナリの頭脳はいつもとは比べ物にならない速度で回転するらしかった。実際、フェナリの言はアロンにとっても否定しがたいもので、ぱっと反論の言葉は出てこない。とはいえ、フェナリが言っているのも「騎士の生存率を上げるために自分の危険には多少目を瞑れ」という話であって、それが暴論であることも、同時に理解していた。

 どんなにアロンが妥協し、百歩千歩と譲ったとして、フェナリをはじめから前線に投入することは出来ない。しかし、騎士たちに囲まれたところでその騎士たちの援護をする形でフェナリを配置できれば、彼女の言通り、騎士たちの生存率は確かに上がるはずなのだ。

 騎士たちを失わず、しかし実戦経験を積ませる。それがどれだけ重要なことか、ひいてはどれだけ国益につながっていくか、という事を理解できない程、アロンは無知ではない。


「どうしようもない緊急事態以外、前線には出ないとお約束します。騎士の方々の援護程度、後衛でいいですから! それに、ホカリナの筆頭魔術師の方から、これも頂いています」


 最後の一押しだと感じたらしいフェナリが更に捲し立ててくる。そして、最後に取り出してきたのがムアに渡されたチョーカー。その片方であった。周囲から個人を特定されない効果を持つ『魔械』である。もう片方、ムアからは効果を知らされていない方については既に身に着け、襟に隠している。

 アロンにとっては初見となるそのチョーカーに、彼は慎重に観察しながら目を細める。


「ホカリナの筆頭魔術師殿……露店の店主だと思っていた、彼か」


「はい。こちらのチョーカーには簡易的な結界術が埋め込まれているらしいのですが、身に着けると私を私だと認識できなくなるそうです」


 だから騎士たちの中に入って戦ったとして、そこで戦っているのが伯爵令嬢であり第二王子の婚約者、ということになっているフェナリ・メイフェアスだとバレることはない。そう強調しながら、フェナリはアロンの説得を完了すべく、そのチョーカーをずいっと前に突き出した。

 アロンが言葉に詰まる。完全に趨勢がフェナリ側に傾いていくのを感じていた。


「……メイフェアス伯爵が、良い顔はされないだろう」


「お父様は私の実力を知りませんので、報告もするつもりはありません」


「悪魔と相対した者には、それはそれは恐ろしい多大なる代償が……」


「もしそうなら騎士団の隊を二つも向かわせないでしょう。少数精鋭だけで犠牲を最小限に抑えます」


「……」


 フェナリが、ここまでアロン相手に言葉を連ねたことがあっただろうか。しかも、フェナリはアロンに賛同するのではなく、その意見に真っ向から反駁している立場なのだ。

 戦闘が起こる、というタイミングにおいて、フェナリを突き動かしているものは何か。アロンは正直、分からずにいた。結局、彼女が首を突っ込む必要のない場面が幾らでもあるはずで、グラルド卿に任せておけばすべてがうまく収束するであろう場面も、幾らでもあるはずなのに――、


「何故、フェナリ嬢はそんなに戦場に行きたがる?」


 その問いは、少し言い換える必要があるかもしれない。「戦場に行きたがる」ではなく、「戦場に生きたがる」と。そう言うべきなほどに、フェナリの戦場に対する執念は強いものだった。

 

「私には、それしかないからです――。そう思って、生きてきました。私の人生が、私には戦うしかないのだと、語るのです。その人生を、私は否定したくない」


「――――」


「戦いによって失ったものは数多くあります。しかし同時に、その戦いばかりだった人生を否定したくなくなるほど、その人生から得られたものも、多い。これまでの人生を否定するというのは、私のこれまで得てきた大切なものをすべて否定することにもなりますから」


 だから、私は戦いに生きる。そのフェナリの言葉に、アロンが返せる言葉など、あろうはずがなかった。自分とは住む世界が違う、のだと。アロンは直感的に理解する。そしてそれを悔やんだり、苦しんだりするのではなく、静かに受け入れる。

 アロンは、決断をしなくてはならなかった。フェナリの人生を否定してまで、彼女の安全を守るべきなのか、否か。


「――私も、自分の人生だけは否定したく、ない」


 人の人生を否定することは、アロンにはできなかった。彼にとっても、王子として生きた人生はグラルド卿との出会いを与えてくれ、更にはフェナリに変えられた過去を与えてくれた。その人生がアロンから奪った己が幾らあるとしても、彼はその人生すべてを否定することなど、出来ないのだ。


「後衛だ。前線で戦う騎士たちを後ろから支援する。それだけ――それが条件だ」


「――ありがとうございます!」


 そうして、揉め事は終結した。


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