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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
閑話

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閑話3.ムアの手作りプレゼント

閑話3つ目、『ムアの手作りプレゼント』ということで、題名そのままのお話です。変わり者のムアが作った、プレゼントとは如何なものなのか……


 ――城塞都市テレセフが悪魔によって陥落させられた。


 その報によって、グラルド卿は即座にテレセフへと向かった。その出来事に後ろ髪を引かれる心持でありながら、しかし今は勝手に行動できないと自制し部屋に戻ったフェナリ。そわそわとして落ち着かなかった彼女のもとに、来客があった。


「いやぁ、怪物やら化け物やらいろいろあって、しかもその色々のせいで色々後始末をさせられて――ええ、ええ、本当に大変でしたけれども! やっと解放されて奥さんのもとに来ることが出来ましたよさあ! 約束を果たしていただきましょう!!」


「えぇっと、お疲れ様です……?」


 凄まじい喧騒を手土産に来訪してきたのはホカリナ筆頭魔術師ムア・ミドリス。その喧騒を単独で作り出す力量は言わずもがな、フェナリがその気迫というか舌劇というかに圧されているのも言わずもがな。しかし、一応はムアの方も正当な理由でここを訪れたらしかった。

 ムアの言う約束――恐らく、フェナリと彼が初めて会った時のことを言っているのであろう。例外的な『運命石』を生み出したフェナリに興味を持ったムアが、次会った時にはその『運命石』を調べさせて欲しい、と言って取り付けた約束だ。


「確かに、お約束はしましたが……多分、調べても何ともならないかと……」


 というか、正直言って調べられて正しい結果が出ればフェナリとしても困る。恐らくは何らか魔力以外の力を『運命石』に籠めたのだろう、という事までは分かっても、フェナリの持つ妖力とそこから波及する前世に関することには辿り着けまい。ムアが筆頭魔術師である、という事を考えても、流石にそのことまでは気づかない――だろうが、念には念を、という話だ。


「いえいえ、百年でも二百年でも研究を続ければどうにかなろうというのが私の見解ですとも。『運命石』をお預けいただければ、いつかは研究結果をお伝えいたしましょうですとも。とはいえまあ、残念ながら、その研究がそれだけ長引くことになってしまえば結果を奥さんにお伝えするのは難しくなりそうではあるものですが」


 それは、自分ならば百年でも二百年でも生きて見せようという執念を示す言葉だった。とはいえ、フェナリも同じだが、人間という種族は寿命という概念に逆することが出来ない。百年、二百年と研究を続けてやろうという気概だけは見上げるものだが、しかしそれは不可能なのだ。

 ただ、フェナリが指摘するべきは寿命の話ではなく――、


「――それは、出来ません。この『運命石』は殿下から頂いたものですから、そう長い期間肌身から離すようなことは、出来ません」


 フェナリにとって、『運命石』はその正体も仕組みも何も分からないものだ。しかし、いま彼女が身に着けている『運命石』のネックレスは、アロンがフェナリに贈った初めてのプレゼント。そう易々と手放すことの出来るものではないし、そんなことが許されるものでもない。

 それに、『運命石』はフェナリの幻術を解除することにも一役を買った。今後、同じような状況にはならないだろうし、そんなことになってもらっては困るとはいえ、『運命石』が何かしら役に立つことはありうるのだ。ならばこそ、益々――手放すという決断は、決してできなかった。


「ふぅむ……本来の使い道とは違うんですが。まあいいでしょう! 折角奥さんと旦那さんの惚気話を聞けたという事で。ええ、ええ――長期間の研究は諦めますですとも」


「惚気話、というわけでは……」


「では、代わりにという事で! そろそろ奥さんも旦那さんもこの国を発たれるのでしょう。ですから、出立の日まで、という条件付きで! 私に『運命石』を調べさせていただけませんか」


「――それでしたら。どうぞ」


 本音を言えば、その一日程度の時間すら、そのネックレスを手放すことはフェナリとしても躊躇われた。しかし、ムアの気迫から感ずるに、ここで断れば最早ギルストについてきかねない勢いで研究しようとするだろう。ホカリナの筆頭魔術師という、ギルストに連れ込むには厄介な役職を持つ彼の責任を持つというのは、フェナリにとってはあまりにも重荷だった。



 ――と、いうことで。

 ムアはフェナリから『運命石』のネックレスを受け取り、自らの研究室なり、研究を行う場所へと戻っていったらしかった。約一日の時間制限がある以上、ムアとしても急いで研究を進めたかったのだろう。その後、元々見かけることの無かったムアの姿だが、やはり公式の場でも、どんな場でも彼の姿を見ることはなかった。



  ◇



「時間が、足りません!! そりゃそうでしょうとも、ええ、ええ。やはり一日程度というのは時間として不十分が過ぎたという事です。研究をすさまじい速度で進めていた私でしたけれども、やはり、やはりは天才にとっても難しいことがあるのだと思い知らされて終わりでしたね!」


 そう言って、フェナリの出立約一時間前にムアが『運命石』のネックレスを返してきた。

 フェナリとしても研究の時間を長く確保できなかったことを申し訳なさそうにしながら、しかし結果が出なくてよかったと、心中安堵していた。

 ムアが渡してきたネックレスを改めて身に着けながら、フェナリは目の前でやはり舌を回し続けるムアをちらと見る。


 ――帰りそうな気配が見えない。


 一応、ムアにとっての用事は終わったはずだ。しかし、ムアは一向に帰る様子を見せず、フェナリとしても彼を追い出すような真似は出来ず、という膠着状態に陥っていた。

 フェナリにとって、ムアは厄介な人間だとか嫌いな人間だとか、そういうわけではない。少々勢いが凄くて対応が難しい、という意味では苦手な部類に入るのかもしれないが、しかし相対していて不快感を抱く相手ではなかった。

 とはいえ、だ。フェナリはこれからホカリナを離れ、ギルストへ向かうのであって、当然その準備も今、現在進行系で進んでいるのだ。侍女たちが荷物をまとめてくれている最中だが、フェナリがその場にいないというのも、彼女からすれば申し訳ない。


「――と、いうことで! 本題は終わったわけですが最後にもう一つ!!」


 そんな状況もあって、ムアがやっと話題の進行通りに動いた時、フェナリとしても安堵の気持ちがあった。

 とはいえ、最後に一つ、と言うのだからまだ終わらないということでもあるのだが。


「研究させていただいたお礼、という名目で、本音としてはこれを恩に感じてこれからも研究にご協力いただきたいなんて考えで――こちらを、奥さんに差し上げましょう!」


 本音から建前から、全て諸々口に出しまくったムアが差し出してきたのは二つの色違いチョーカーであった。シンプルな造りで、華美な装飾も見受けられない。


「勿論、ええ、ええ勿論! ただのチョーカーな訳ありませんですとも。奥さんに単なる装飾品を贈るというのは夫婦仲を切り裂かんとする愚行ですからね、当然のごとく、奥さんの惚気話を聞き続けたい私としましては単なる装飾品としてのチョーカーは贈らないわけです。そもそも、将来の王太子妃にこんなシンプルすぎるデザインのチョーカーを渡すというのも無粋というものでしょう!!」


「単なる装飾品ではない、ということでしたら――このチョーカーには何が?」


「よくぞ聞いてくれましたですよ、奥さん!」


 フェナリも、早速ムアの扱いを理解してきた。一通り勢いよく話させて、一瞬生まれた隙に聞きたいことを差し込むのだ。


「このチョーカーはですね、それぞれ魔術を込めた『魔械』になっていますでしてね、それぞれ結界術を応用した効果を発揮してくれるスグレモノ! と、いうわけです」


 言われて、フェナリも改めて渡されたチョーカーを観察してみる。しかし、素人目には全くそのチョーカーの仕組みを看破することなど出来そうになかった。


「一つ、こちらの白のチョーカーは他人から個人を認識されない効果を持っていましてですね、奥さんが先日空を飛べることはバレたくないと仰せの様子でございましたですので、自由に空を飛んで空から降ってこられるようにと作ってまいりましたですよ」


「え……これを着けると、他の人からはここにいるのが私だって分からなくなるんですか?!」


「ええ、ええ、そういうわけです! と言っても、今ここで着けていただけば分かることですが――」


 そこで言葉を切られるので、フェナリもおずおずとしつつ、チョーカーを身に着けてみる。これで、恐らくここにいる自分がフェナリであるのだと、周りからは分からなく――、


「では奥さんっ!!」


「――っはい」


「と、いうわけです」


「あ……なるほど。目の前でチョーカーを着けると、その人には効果が無い、と」 


「そういうわけです! しかし例外は基本的にこれだけですかね。あ〜〜でもぉ、『紫隊長』さんあたり、そういう超次元の方々相手には使えるかどうか……ちょっとそのあたりしっかり検証できていないので怪しいところではありますですけれども。まぁ、殆どは大丈夫でしょう!!」


『紫隊長』という単語が出てきて、フェナリも苦笑いを浮かべるしかない。実際、グラルド卿に対してはこういった小細工も通用しないのだろう。いくらムアが優秀な魔術師だとしても、魔術に対抗するために生み出された『騎士術』の、極点に到達したグラルド卿は相手として分が悪い。

 まあ、ひとまずグラルド卿に正体がバレる程度ならいいか、とフェナリも諦める。その小さな欠点よりも、得られる効果が大きすぎるのだ。


「ありがとうございます。是非、使わせていただきます!」


 正体を積極的に露見させたいとは思わないフェナリの立場からすれば、このチョーカーは非常に有用だ。その仕組についてはあまりわからないのが正直なところだが、効果が明確であるならそれは問題でない。


「さて、それともう一つのチョーカーですが――こちらは是非、ずっと着けておいてもらえればと思いますですよ。その効果は、是非とも発動してからのお楽しみ、ということで!! 大丈夫です、大丈夫大丈夫ですとも。何か奥さんに害をもたらすような効果は持ってませんですからね」


 そこまで勢いよく述べて、ムアは「それではっ」とフェナリの部屋を離れていった。先程の膠着状態は何だったのやら、素直に、もはや簡単すぎる勢いで去っていったムアに、フェナリは呆然と立ち尽くす。

 扱い方が分かったなどと傲ったが、やはり彼を理解し尽くすことなど、出来ないのだろう。彼の嵐のような来訪は、その事実だけを思い知らせて、去っていった。


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