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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第2章「予言者の国」

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58.事の顛末を、語る。


 ――『厳籠』の討滅が成され、そして。話は本題へと入った。


 元々、アロンやフェナリがホカリナへと訪れた理由はギルストとホカリナの二国間における国交を結び付けるためであった。その会議のためにギルスト国王がアロンに公務を託した、それが事の発端なのである。そして、その会議が始まらんというタイミングで当時は『予言者』と呼称されていた『厳籠』の横やりが入った、という次第であった。

 ここまで、本来話し合われるべき本題からは常に逸れ続けていた。しかし、事の収束と共に、やっとのことで話は本題へと帰っていったのである。


「――二国間の貿易について、大前提としてホカリナは賛成である。それは、まず大前提だ」


 実際に本題に入ってすぐ、ディアムがそう断言した。その言葉に、アロンやギルスト側の要人たちは呆気にとられたような表情を浮かべる。というのも、以前からホカリナにはギルストとの貿易を進めようという気概が見られなかったのだ。それこそ、王城舞踏会に招待されたホカリナ王家の人間たちの態度も、およそ貿易を始めたい他国相手の態度とは言えなかった。

 故に、ギルスト側の見解として、ホカリナの説得が貿易開始の第一条件であるのだというものがあったのだ。それが一瞬にして覆されたのだから、彼らが呆けてしまうのも仕方がないことと言えるだろう。


「……以前は、あまり積極的ではなかったかと思いますが、心境の変化が?」


 当然、我々も貿易が開通できるのであれば願ったり叶ったりですが、と付け加えながら、アロンが直球に尋ねる。その問いに対しては、ディアムやホカリナの要人たちも苦い顔をした。しかし、その表情の歪みはアロンに対する負の感情から来るものではなく――、


「それについては、改めて謝罪せねばならない。これまで――今回の騒動まで、我々ホカリナの中枢の人間は殆どが、『厳籠』の幻術に掛かっていた。そのせいか、当時は『フェナリ・メイフェアスの排除』以外に関せずことは気に掛けられなかったのだ」


 そう言って改めて小さく頭を下げられて、咄嗟にアロンは対応する――が、その思考の裏では納得していた。前述のとおり、ディアムを含むホカリナ王家の人間は、ギルスト王家主催の王城舞踏会において、あまりにもおかしい態度を取っていた。それは、そういう理由があったのだと、今更ながらに分かったのだ。

 当然、王城舞踏会で結界術師をけしかけていた以上、その当時の彼らにフェナリを暗殺する、という目的があったのは事実だろう。それが幻術の影響だというのは前提として、だ。その事実を理解してから、アロンはホカリナ王家の態度に対して、ある程度の納得を得ていた。そう言った目的があったから、彼らは楽しそうな態度を一切見せなかったのだと。しかし、それでも完全に違和感が拭えたわけでもなかった。それはそうだろう。普通に考えて、それほど露骨な態度を取れば、フェナリ暗殺の計画が露見する可能性があるのだから。

 本来、当時の彼らは自分たちの裏の計画を悟らせないために王城舞踏会では『普通』を演じなければならなかった。なのに、していなかった。その違和感が、やっと今解決したのだ。


「――成程。しかし、ホカリナ側も貿易に賛成という事なら話が早い。是非、その先へと話を進めることにしましょう」


 当時のことを思い出せば、アロンとしても感情が昂る。しかし、それを今は抑えて――彼は笑みを浮かべてそう言った。今は、第二王子ではなく国王名代なのだと、意識を再度確立させて。



  ◇



「おう、嬢ちゃん。会議は終わッたのか?」


「グラルド卿」


 会議室から出てきたフェナリに、グラルド卿が声を掛けた。殆どの騎士たちが会議室の中にいることもあって、今廊下にいるのは彼ら二人だけであった。

 グラルド卿が国境を越えたのは『厳籠』の襲撃という特例があったからこその例外的事態であり、本来ならば彼はこの場に居てはいけないのだ。そのこともあり、会議室への立ち入りは暗黙の禁止を強いられていた。

 対するフェナリは、というと。会議の内容が二国間の貿易に関することになって、公務に深くかかわる内容で、正直理解できない話になり始めたから出てきたのである。ここからは頭脳派の仕事なので。


「……部屋に戻るとこだろ。一応だから、俺もついていく」


「『厳籠』も討ち果たした今、危険はないとは思いますが……」


「まァ、そうだろォけどな。アロンならやれッて言うだろォし、あと――話しておきてェこともある」


「――。分かりました、ではお願いします」


 話したいこと。グラルド卿が改めて周りに誰もいないことを確認してから、そう言った。その様子に、フェナリとしても何かを感じたのか、そのままグラルド卿を携え、自室へ戻ることにする。

 歩き始めて少しして、グラルド卿が口を開いた。


「王城舞踏会の時、嬢ちゃんが会ッたッていう黒の男――いただろ」


「っ、いましたね」


「アイツは、間違いなく俺が倒した」


「――そう、ですか」


 安心しろ、仇を討ってやったぞ、とは。決して言えなかった。

 フェナリにとって、黒の男は自らの無力感の象徴。その無力感に対して折り合いをつける前に、第三者がその象徴を消してしまったのだ。勿論、『厳籠』の討滅のために黒の男を倒すことは必須だったわけで、グラルド卿も自分がしたことを悔やむことは一切ないが、しかしそれとは毛色の違う話だった。

 

「けどな、嬢ちゃん――」


「グラルド卿。私は――、」


 二人の言葉が、重なった。グラルド卿は咄嗟に言葉を引っ込めるが、フェナリは一切の躊躇いなく、言葉をつづけた。こういった時、フェナリは間違えない。自らが、はっきりと言葉にすることで成せることがあるのだと、理解している。だから、躊躇を棄てて、口に出すのだ。


「私は、強くなります。――黒の男に負け、グラルド卿にも負けた。『厳籠』にも、グラルド卿がいなければ、私一人では勝てなかった。良くて、相打ちでした」


「――――」


「だから、強くなる。言うは易し行うは難しであるのは知っています。それでも、私は、弱く在ってはいけないのです」


 細やかな不安を抱いていたグラルド卿も、フェナリの言葉には一瞬呆けたようになってから、そして安堵の表情を浮かべた。

 フェナリは、確かにまだ、戦闘力という点で至らないところはあるだろう。訓練の時間など簡単には取れないのだし、黒の男やグラルド卿に敗北してから、どれだけ成長できたか、と言えばあまり成長できていない、と言わざるを得ない。それでも、彼女は全く変わっていないわけではないのだと。


「嬢ちゃんなら、なれるぜ。強く、強く。――機会があれば、また手合わせでもやるとすッか」


「――! ぜひ、お願いします」


 フェナリの瞳に、闘志が浮かぶ。それを、グラルド卿は豪快な笑みで受け止めた。

 次に手合わせするときが、少しばかり楽しみになった。グラルド卿にとって、珍しい感情だった。手合わせを、自らの超越的な力を揮うことを、楽しみだと思うのは。

 なんというか、いつもは――、


「グラルド隊長――!! こちらにいらっしゃいましたか!」


「何だ、シェイド。急ぎの用事か」


「っ、はい……! 騎士団本部から通達がありました。『緊急招聘』です!!」


「ッ成程な。で――内容は」


『緊急招聘』と。そう言われて、グラルド卿の表情が変わった。それは、騎士団本部が通達する命令の中で、最も緊急であり重要度の高いものであることを示す名称である。しかも、グラルド卿が招聘される、という事から考えても、危急の事態であることは間違いない。

 報告に来たシェイドも、本来ならアロンの護衛のために王城にいる筈だったが、今こうしてグラルド卿にその通達を伝えに来ている。その状況から考えても、あまりに異常事態――。


「悪魔です。城塞都市テレセフが、陥落しました――ッ!!」


「――は?」


 城塞都市テレセフ。ギルストの全体図を見た時に王都と西端の中間に位置する都市であり、大陸が戦争時代にあったころにはギルストの護りの要であったという都市だ。当然、そう簡単に陥落するような柔なつくりはしていない。

 しかし、グラルド卿が驚いたのは、城塞都市の陥落の事実ではなかった。


「テレセフッてことはお前……いや、待て。城塞都市テレセフだと? ()()()()()()()()()


 城塞都市テレセフは、ホカリナからは遠い。しかし、都市が陥落するほどの大規模な攻撃があったとするならば、グラルド卿の『騎士術』による探知に引っ掛かるはずだった。その具体的なことは分からずとも、せめてその感覚だけは、風に運ばれて遠くから伝わるのだ。

 しかし、グラルド卿は分からない。その感覚が、来ていない。これは、本当に緊急事態であった。


「悪魔、か――。長く生き、多くの人間を殺し、その力を揮えば揮うほど、悪魔は強くなるが……俺の『騎士術』にも引っ掛からねェときた。こりゃァ、数百年レベルの大悪魔の可能性すら……」


 小さく呟くグラルド卿の表情が苦々しいものへと変わっていく。そして、バッと顔を上げるとそのまま大剣に手をかけた。


「どォせ、ココじゃァ俺は邪魔者だ。王子と本部に伝えろ――俺は先にテレセフに向かうッ!」


 瞬間、言葉通りにグラルド卿の姿が消える。残ったのは砂埃だけで、恐らく誰にもわからないままにテレセフへ向かう道を行き始めたのだろうと推測することしかできなかった。

 

「フェナリ様、自室へと帰られるのでしょう。僭越ながら、私が隊長に代わり護衛いたします」


 シェイドにそう言われて、フェナリも先ほど歩いていた道を再び進み始める。しかし、何とも後ろ髪を引かれる気分だった。

 最後、グラルド卿は本当に一瞬で姿を消した。それは、誰にも目視できない動きのように感じた。しかし、フェナリには見えた気がしたのだ。自分を見据える、グラルド卿が。


「――行かねば、ならないのかもしれない」


「フェナリ様? 何か……」


「いえ。何でも」


 騒動が一つ収束して、しかし新たな戦いの火蓋は確実に切って落とされているのであった。


第二章最終話となります。本日21時には第二章の登場人物紹介を投稿いたしますので、そちらもぜひご覧下さい。

第三章の投稿についてですが、話数のストックが少なくなってまいりましたので、一ヶ月程度の休載期間を設けたいと思います。期間中は本編の投稿はお休みし、閑話の不定期投稿を行います。お待たせする形にはなりますが、是非ともご了承下さい。

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