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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第2章「予言者の国」

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38.王城にて、独り


 ――目は見える。閑散たる王城の廊下が、よく見える。

 

 ――音は聞こえる。自分の歩く音だけだが、確かに聞こえる。


 ――感触はある。廊下を踏みしめる感覚が、はっきりとある。


 ――思考は働く。得意かに拘らなければ。


 そうだ。今、自分は周りの状況を理解して思考できている。それは、自分が起きていて、意識をはっきり持っている、ということだ。

 しかし、それなのに、だというのに。


 ――フェナリは、暗い世界に閉じ込められたかのような、そんな心持だった。


  ◇◆◇◆◇


 いくつか、今の状況を整理しよう。

 フェナリの置かれた状況、その不可解な部分を列挙して、足りない頭でどうにか状況を把握しよう。


「――そもそも、ここはどこじゃ?」


 今更も今更な、その疑問。なんだかんだでここまで気にしていなかったが、よく考えればフェナリは自分がどこにいるかもはっきりとは理解していない。

 ここがホカリナであることは、恐らく間違いないだろう、ということと、これほどに豪華な内装の建物が国に幾つもあるわけではなかろう、と言う予想からすれば、ここはホカリナ王城なのだろうが――もしそうなら、次は何故なのかが分からない。


「何故かも分からぬし――ホカリナ王城なら、誰一人として人がいないなどと、そんなことがあるか?」


 話が進まないので、ここがホカリナ王城であることは一つの確定事項として扱おう。

 しかし、そうなると何故フェナリがここにいるのか、そしてホカリナ王城に人が一人としていないという状況が何故起こっているのか、という二つの何故が生まれる。

 

「やはり、考えられるのは『予言者』の関与、じゃろうな……」


 フェナリの予想は当然のものと言えた。元々、ホカリナは『予言者』の国として危険性を指摘されてきたのだ。その疑念の中心にいるのがフェナリなのだから、こういった不可解な状況が起こればその下手人は『予言者』だ、と予想するのもおかしい話ではない。

 しかし、それはそれでフェナリとしても違和感があった。


「色々と、『予言者』の範疇を越えてはおらぬか?」


 実際に口にしてみて、フェナリは自分の中の違和感を形にした。

 フェナリの違和感――それは、『予言者』と言う言葉に対して、実際にやっていることがそれ以上のことである、と言う事実である。無論、相手が『予言者』だけでない可能性もあるが、それ以上に見逃すべきでない何かがある。


「そう言えば、『予言』は逆の意味で裏付けされたと、王子殿下が……ならば、『予言』というのは?」


 アロンやディアムは既に答え合わせを終えたその問いに対して、フェナリは一人実直に向き合う。事前にアロンから告げられた、『予言』は存在しない、と言う事実。そして、ならば別の可能性として何が思い当たるのか、という思考回路で、フェナリは段々と答えに近づく。

 しかし、その明確な答えに辿り着くことは、残念ながら彼女にもできない。それは、彼女にとっての越えられない一線だ。


 ――想像を膨らます


 その、簡単にも聞こえる思考行為が、フェナリには難しい。

 『雅羅』やアロンなどにはできて、フェナリにはできないその行為が、彼らと彼女を隔絶している一線だった。だから、フェナリには決して『予言者』の正体を知ることが出来ない。


 しかし、重要なのは答えを得ることではない。

 当然、答えを得ればそれで解決するかもしれないが、そうしなければ何の成果もない、と言うわけでは決してないのだ。フェナリにとって重要だったのは、『予言』と今の状況、そのそれぞれに違和感を持つこと。それが、この世界自体を揺るがす。


 フェナリの見る世界、『籠』の中の世界だ。

 それが、フェナリが違和感を感じた、と言うだけで揺らぐ。もしもここで明確な矛盾を指摘されれば、その世界は大きく揺らいで破砕するだろう。それほどに脆く、しかし確かにフェナリほどの人間を閉じ込めておける、それが『籠』だ。


 その『籠』を、アロンが壊しに来る。

 それを、フェナリは待っている。王城にて、独り。待っている。


 ――待っているというのに、歓迎は出来ない

 それが、何とも皮肉だった。



  ◇



「――それで。そちらの用件を聞こう」


 『紫隊長』グラルド卿の例外的なホカリナ国境の越境。それが許可されて、話題は次へと移行し、アロンへと水が改めて向けられる。

 それを待ってましたと言わんばかりに受け、アロンは胸元の『運命石』を取り出しながら、遂に手に入れた希望を語り始めた。


「フェナリの『幻術』を解く方法として、一つ試したいものがあります」


「――! 分かったのか」


「いえ、細かいことは未だ。ですが、可能性があるなら、試していかなければなりません」


「分かった、聞こう」


 ディアムが聞く姿勢をとる。周りの識者たちも、表情を緊張させながらアロンの続く言葉を待った。彼らにとっても、自国の王城を奪還するための作戦に差した、希望の光明なのだ。それだけ、アロンの話には期待が向けられていた。


「これを、ご存じでしょうか――」


 そう言ってアロンが取り出した、『運命石』のネックレスに、全員の視線が集まる。その視線に対して何の変化もせずに、『運命石は』静かに碧く淡く光るばかりだ。

 その『運命石』の光をはっきりと視界に捉え、識者たちの表情が怪訝そうなものになる。


「確かに、最近王都で流行っている、という報告は来ている。――『運命石』というのであったか。だが、それが何だと?」


「恐らく、フェナリの『幻術』を解くための鍵――それは、この『運命石』です」


 ◇◆◇◆◇


 ――『運命石』とは


『運命石』――それは、ある魔術師が作り出した『魔械』の一種だ。

 

 魔力を注ぎ込むことで、その人物との間に簡易的な契約が結ばれ、『運命石』は契約者が死ぬまで決して割れない。そして、契約者の死を以て『運命石』は必ず、破砕する。

 それが、何のために作られたのか――『運命石』を作り上げた魔術師がその後すぐに行方をくらましたためにその理由は分かっていない。


 しかし、重要なのはその、絶対性だ。



「『運命石』が、鍵――」


「はい。この『運命石』は、魔力を籠めると個人ごとに違う色に変わり、割れるときまで変わらないのだとか」


「――――」


「そして、これが私の魔力を籠めた『運命石』――これを、フェナリも確かに見ています」


 そのアロンの言葉を咀嚼するのに、数瞬。

 しかし、その言葉の大まかな意図を理解して、ディアムは思わずあっと声を上げそうになるのを我慢する。


「『運命石』をもう一つ、フェナリの目の前で光らせれば――私のことを認識させられるでしょう」


「なるほど――そう、か」


 ディアムらはアロンと違い、フェナリにかけられた『幻術』、その内容について確信を持てるものを知らない。しかし、この場の人間の共通認識として一つ確実なものはある。


 ――フェナリは、アロンらを『敵』として認識している。だから、攻撃的な反応を見せている


 それは少なくとも確かだろう、というのがこの場の共通認識。であるから、アロンの提案した方法は確かに打開策たりうるのだと、全員が理解することができた。

 それは、確かに希望の光明。何度もそれは現れたが、今回のものこそ、特に純度が高い。となれば、問題はあと一つ――、


「しかし、それではアロン国王名代が前線に出ねばならないことになる」


「――承知の上です」


「シェイド殿はかなりの実力者と見受けるが――彼で五分の相手。流石に危険が過ぎぬか?」


 アロンがフェナリの目の前で『運命石』に魔力を注ぐ。そのためには、当然ながらにアロンがフェナリの視界の中、まどろっこしい言い方をしないなら、戦線の最前線に赴かなければならない。

 アロンは特段武術に長けているわけでもなく、シェイドなどには到底及ぶまい。であるから、フェナリの前に出ていってすぐ、その命を散らす可能性すらあった。


「他国の国王名代を死なせたとあれば、ホカリナはその時点で大陸国家からの冷たい視線を免れ得ない」


 それは事実であると同時に、ディアムからの念押しであった。アロンの作戦、その中にまさか、アロンに降りかかる危険も含まれてはいないか、と。

 ディアムから見ても、アロンの必死さは明確だった。それこそ、自分の身を危険に晒してでも作戦を成功させんとしているようにすら見えるのだ。


 しかし、ディアムの疑念を、アロンは微笑みで否定した。彼自身、自分が必死になっているのは自覚しているし、本当に必要ならば、身の危険には目を瞑るだろう。

 しかし、それは今ではない。


「だからこその、グラルド卿です。――作戦実行時には、グラルド卿に護衛を任せます」


 その言葉に、そして籠められたグラルド卿への信頼に、ディアムは反駁しようとした口を閉ざす。

 ディアムはグラルド卿の実力をほとんど知らない。だが、軍事方面にも多少なりと力を入れているギルストが誇る国家最高戦力である以上、その実力は高いのだろう。それも、シェイド以上に。


「グラルド卿なら、今のフェナリ相手にも善戦し、雌雄を決する場面なら勝利もできるでしょう。――そうだろう、グラルド卿?」


 アロンが、ディアムに向けていた話の水を、ふと自分の背後へと向けた。会議室として用いている部屋の扉を隔てたところ、ちょうど人の気配が近づいてきたそこに――、


「――ええ。何も、問題はございませんとも。王子殿下」


 そこに、跪いたグラルド卿が待機している。店主につれてこられた彼が、ちょうど到着したのだ。

 いつもの粗野な口調でなく、要人を前にした社交界用の礼儀に徹した口調でアロンに応えるグラルド卿。その口調と態度に不満そうな表情を一瞬見せたアロンだが、すぐにその表情を笑みの裏に隠す。


「第二作戦は、私とグラルド卿で実行します。グラルド卿については、ギルストの国家機密にも抵触しますので」


「――。分かった、健闘を祈る」


 国家機密、と言われてディアムの口はやはり閉ざされる。グラルド卿の戦力偵察には良い機会だと思ったが、そう簡単には行かないらしい。

 そのあたり、アロンは難攻不落だ。


「グラルド卿、少し場を変えよう。ここまでの状況を整理しておきたい」


「承知しました、王子殿下」



  ◇



「――今回の私の計画、今考えると行き当たりばったりな所も多いんだよね」


「例えばさ、計画の目標がかなりコロコロと変わってるわけ」


「最初は、フェナリをホカリナの人間に殺してもらうつもりで、ホカリナの人間に『幻術』をかけた」


「けれどもまぁ、ホカリナの人ら弱いね。まったくもって弱い」


「だからまぁ、ギルストの人間にも協力してもらって、『敵』になったフェナリを殺してもらおうかと――」


「――したんだけども、ギルスト加えても、あの場にいるメンバーじゃフェナリは殺せないと気づいてしまったわけ」


「だから、苦渋の決断でフェナリを殺すのは一旦諦めて、逆に他の面々をフェナリに殺させようとしたわけだ。そうすれば、フェナリは世界を敵に回すことになる。いつかは殺されるだろうなぁ、と」


「けどまた、それもうまくいかない。フェナリは本能が強すぎるんだよ。『幻術』にかかりながら味方は手に掛けないとか、おかしいよね」


「結局、何もかも上手くいかないじゃないか、と途方に暮れて。でも、もう一つ可能性があると気づいた」


「最後の可能性――上手くいくといいけれど」


 

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