表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第2章「予言者の国」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/123

36.状況の混迷化


「――フェナリ嬢が、シェイドのことを『怪物』と」


「はい――そのことから推測するなら、フェナリ様にかけられた『幻術』は、()()()()()()()()()と言う類のものかと」


「成程、それなら初撃、全くの交渉の余地もなく斬りかかられたことにも頷ける」


「しかし――それだと、フェナリ様の現状の強さには繋がりません。もしかすれば、そちらは『幻術』とは違う要因が……」


 シェイドの呈した疑念に、アロンは口を噤む。

 非常事態でどれだけフェナリの考えを尊重するか、という問題だが、アロンの方針としては可能な限りフェナリの強さを口外しない、というものだ。

 当然、シェイドもフェナリの強さについては『幻術』による影響の一つだと認識している。しかし、それでは辻褄が合わないのも事実だった。


「辻褄合わせも重要だが――可能性があるなら試さねばなるまい」


 少々の躊躇いを挟んで、アロンはやはりシェイドにも具体的なことを話さないと決めた。

 今の状況を動かすことが最優先なのは事実で、そのためには考えうる可能性の全てを試していかなければならないのもまた、事実だった。


「今は、シェイドの推測通りだと仮定して考えるが――その場合、どうやって矛盾を指摘するか、だ。我々の言葉や仕草がどこまで正確に伝わるかの検証も出来ないのだし……」


「会話は、ある程度成立していたと思います。ただ、積極的に会話が進むか、といえばそうではありませんが――」


「成程。しかし、もしも我々が怪物に見えているのだとして、自分の名前を名乗った程度では……」


「怪物の戯言、と切り捨てられればまだ僥倖です。――仲間を騙った、と激昂されれば、手がつけられなくなりましょう」


 むむ、とアロンが呻く。状況が少しは好転した、と思っていたが、実際には一つの袋小路を抜けて次の袋小路にぶつかったようなものだ。

 進んでいるだけ幸い、と程度の低いことで喜ばなければならないような状況。


 大目標である、フェナリの救出、王城の奪還、そして『幻術使い』の撃破。

 その三つを、直接的に果たすには、更に何かに気づくか、何かを得なければ――、


「――ひとまず、ディアム国王とも話し合いが必要だ。フェナリを、奪い返すために」


 何かを得るためには、知識がいる。ひらめきがいる。そのほかに、必要なものはいくらでもある。それらを、アロンは一人で持ち合わせているわけではない。その厳然たる事実を、彼自身自覚していた。

 だから、今は識者を集め、話し合いをせねば――。


 アロンは、ふと胸元で揺れるネックレスに気づく。

 焦燥感に駆られ、危急の事態に放り込まれたままだった彼は、ずっとその存在を意識から切り離していた。その存在に気づけば、フェナリを守れなかったことを改めて自覚し、その罪悪感に圧し潰されそうになるから。

 しかし、それも必要なことだと、アロンはそれを――『運命石』のネックレスを、取り出す。

 小さく握り、その冷たい感触に魔力の残滓を感じ取る。それが、微かなフェナリとの繋がりに感ぜられて、アロンは静かに瞑目した。


「――これが、本当にフェナリと私を繋げてくれたら」


 それは、単なる願望でしかない。願望でしかなくて、それは意味を持たない、筈で――


「――いや。これなら……」


「王子殿下――何か、お考えが?」


「ああ、これなら――。何にせよ、ディアム国王の元へと戻らねば――」


 そうして、アロンは希望の光明を得る。今度こそ、だ。今度こそ、明確な希望を手に入れた。その希望に対する期待と、目標達成が近づくからこその焦燥感が、アロンを苛んだ。しかし、それすらもどうでもいい程に、彼は急ぐ。

 フェナリを、『幻術』から解放する――そのために。


「――ディアム国王、よろしいですか」


「む。アロン国王名代、丁度良かった。少し、伝えておかねばならないことが出来た」


 希望の光明は得られた。しかし、状況は未だ、混迷を極め、更には、現状進行形で混迷化を続けていくらしい。



  ◇



 ――地を、肌を、木々を、撫ぜる。


 その感覚自体を、グラルド卿の騎士剣が切裂いた。


「――これは、これは。どうやってるのか、全く分かりませんですね」


「そうだろォな。俺だッて、理屈から講義するつもりなんざねェよ」


 グラルド卿と、王都の奇特な露店の店主。

 普通に考えれば戦闘が成立するわけもないような二人の戦闘は、事実白熱していた。


 ――地を、肌を、木々を、撫ぜる。


 その感覚自体を、やはりはグラルド卿は騎士剣の斬撃で切裂き、影響を受けないようにしていた。しかし、それだけの離れ業を以て迎撃するのはそれだけ、その感覚が脅威なのだと認めている証拠でもある。

 と言っても、その感覚は不可視かつ、不規則な発動条件を持っているらしい。故に、グラルド卿以外ではこの世界でもその感覚を避けられるのはごく少数の人間のみだろう。


「うぅん、いつもなら、一撃目で終わるんですけどね。流石『紫隊長』さんは違うという事ですか。――だからこそ、その接近は許しておけないですよ」


「だァから、接近だけだろォが! 国境を越えてもねェんだ、それで攻撃してくるとか、ホカリナは野蛮極まりねェ国なのかァ!?」


「――ええ、ええ。今でこそ知りませんが、少なくとも私が任を受けた頃はそうだったですよ」


 そうして言葉を交わす店主は、グラルド卿を前にして動こうともしない。グラルド卿から攻撃を受けるなどと、考えていない証拠だ。

 その理由は、店主の存在する位置にある。彼は、空を飛んでいるのだ。鳥が飛ぶような中空、彼はそんな位置からグラルド卿を見下ろしている。


「条件の分からねェ感覚の斬撃に、空中戦ッてか。とことん、騎士対策ッてことだな」


「ええ、ええ。近接戦闘で騎士の方に勝てるなんて、そんな勘違いはしないですとも」


 近接戦闘を主に行う騎士を相手に空中戦を仕掛ける、と言うのは確かに上策だ。騎士剣の届かないところから遠距離攻撃を仕掛けることが出来るなら、確かに騎士を完封できるかもしれない。

 しかし、それは往々にして難しい。そもそも、空中戦をすること自体が珍しいのだ。制空権を得るための方法はいくつかあるが、それらどれも、難度は異常に高い。


 ――繊細な魔力制御の必要な、魔術飛行


 ――使い手の限られる術技による、透式飛行法


 ――魔術と体術の合併応用による、半式飛行術


 どれも、実際に成功させる人間は少ないとされるものばかりだ。

 一度成功させることが出来る人間がいたとしても、その訓練の途中で失敗し、落下死することもあるため、歴史を通してそれらの飛行術に長けた人間がいた、という記録は残りにくい。

 

「珍しいモンじゃねェか。魔術飛行の使い手、ッてのは」


「ええ、ええ。私も、魔術飛行の使い手で私ほど熟練した人、見たことなしです」


「まァ、珍しいッて話なら、それ以上のことが、今起こッてんだけどな」


「――と、言いますとですね?」


 この世界における制空権を得る方法。つまりは飛行術の種類、というのは大きく知られているものとして三つある。それが、上で挙げた『魔術飛行』『透式飛行法』『半式飛行術』である。

 そして、その内情を多くは知られず、一般事実としての市民権を得ていない、そんな飛行術も、存在する。その一つが――、


「――これは、これは。確かに、珍しいことです。飛行術の使い手が、二人集まりますですとは」


「ホカリナの要人にも知られてねェッてのは、こちらとしては僥倖だな」


 知られていない、四つ目の飛行術。

 ――騎士術の一つの極致である、騎士術飛行法半式。


 グラルド卿の体が、大きく飛び上がり、店主の体を大きく飛び越えて上へ上へとその高度を上げる。しかし、その動きはふと緩慢になり、同時に、落下が始まった。

 騎士術飛行法は、半式である。そのために、空中で停止することが出来ず、完全な制空権を得ることは出来ない。しかし、その飛行法を成し遂げることが出来るほど騎士として完成している人間にとっては、その不完全な制空権であっても、十分だ。


「ひとまず、二足歩行同士、地で戦えッや!」


「――護れ(guard)


 筋骨隆々としたグラルド卿の豪腕から放たれる、騎士剣の一閃。普段の流麗なそれとは違い、今回の一撃はただひたすらに打撃としての一撃として叩き下ろされた。

 咄嗟に、店主が防壁を顕現させるための詠唱を紡ぐ。しかし、落下の勢いも剣戟に込めたグラルド卿の一閃は、咄嗟の防御程度では防げない。店主の顕現させた防壁ごと押し込まれるように、店主の体は地面へと落された。


「――普通、私が地面に立って戦う事って、少ないんですよね」


「そォかよ、新鮮な体験でよかッたな」


「ふぅ、『紫隊長』というものの実力を、測り間違えていたようで。この『魔械』も、止めとかないとです」


 店主は、そう言って近くの茂みに隠してあったらしい金属の塊を取り出して何やらいじる。これまで断続的に発動していたらしいそれが、店主によって止められた。

 

「なるほどな。――それが、さッきの特殊魔術の大元か」


「おや。ギルストでは『魔械』の開発はあまり進んでないと聞いていたですけどね」


「知識じゃねェ、ただの勘だ」


 先程まで断続的にグラルド卿を襲っていた、感覚の斬撃。それが、今は無くなっている。いや、グラルド卿が飛行術で上へと飛びあがった時から、無くなっていた。

 そのことから、先程の魔術は地面に触れているものに対して効力を発するものだったのだろう、とグラルド卿は推測する。そして、店主が今先程動作を止めた『魔械』は、その魔術を断続的に発動させるための媒介なのだとも。


 しかし、その『魔械』が動作を止めた以上、感覚の斬撃の効果は失われた、ということだ。

 グラルド卿が不利になる要素が一つ潰え、店主の有利が一つ消える。

 現状を正しく俯瞰して、グラルド卿は改めて、騎士剣を構えた。ここからは、騎士と魔術師――その、二極点同士の戦いだ。


「――改めて言ッとくが、これァ正当防衛だからな」


「ええ、ええ。また伝えときます。今の主に」


 その言葉を皮切りに、グラルド卿の足元で地面が爆砕する。その足が、地面を力強く――爆砕せんほどに強く、踏みしめたのだ。

 同時に、グラルド卿の体が大きく前へと傾いた。常人であればその姿を視認できないほどの速度で、グラルド卿が店主の方向へと飛ぶ。本来なら一切の抵抗も出来ないうちに制圧されるほどの斬撃を前にして、店主はその口を動かした。


「――護れ(guard)爆ぜろ(explosion)


 防壁をグラルド卿との間に顕現させ、その防壁とグラルド卿の間に更に爆発寸前の炎球を生み出す。しかし、距離がおかしい。グラルド卿に対する防御と攻撃だというなら、グラルド卿との距離が、空きすぎていた。


「――どういうこと、だァ?」


 目の前の炎球は今にも爆発する。しかし、それはグラルド卿を爆撃する、と言うよりは最早、術者であるはずの店主をその攻撃範囲に含めているようで――、


「――それこそが、狙いですとも」


 炎球の爆裂と同時、爆風が顕現していた防壁ごと、店主を押し飛ばす。

 広がった爆炎が、グラルド卿にも迫るが、空気に混じって消えかかったそれらはグラルド卿の剣戟でいとも簡単に掻き消されるものだ。だから、店主の狙いはグラルド卿に対する攻撃になかった。


「なるほどな。爆発を利用して、距離を取ろうッて魂胆だッたか」


「――ええ、ええ。ちょっとばかし熱いですけどね」


 多少の痛みは気にすることなく戦闘を合理的に進めようとする店主。その戦闘思考に、グラルド卿は意識を切り替える。あまりに奇抜な見た目をしている彼は、戦い慣れしていない一般人などではない。少し腕の立つ魔術師、というわけでも、技術のある武人、と言うわけでもない。


 ――間違いなく、戦いに慣れているのだ


お読みいただきありがとうございました!

少し下にある☆の評価、「いいね!」やブックマーク、そして感想も是非ともお願いします。特に「いいね!」は作者以外が確認することがありませんので、気軽に押してもらえると嬉しいです!

この小説はリンクフリーですので、知り合いの方に共有していただくことが出来ます。pv数に貢献していただける方を大募集です!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ