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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第2章「予言者の国」

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31.『幻術』・『怪物』


 王城の状況を監視していたシェイドや他の騎士たちも一度戻り、現在集められる最大戦力がホカリナ騎士団演習場に集っていた。

 本来ならば小国の征服だって成し遂げられそうな戦力も、今回は一人の少女に対して行使される。これが過剰戦力でない、と言うのは本当なら、信じられないような事実だ。


「フェナリ嬢が移動しているのか、はたまた王城内を闊歩しているのか――それも分かっていない。であるから、王城内は全域死地であると思え」


「もしもフェナリを発見した際には、まず戦わず魔術で合図を。『幻術使い』の術中に嵌っている彼女には、恐らく誰一人として一騎打ちを勝ち抜けません」


「こちらは数で勝っている。可能な限り人海戦術で対抗しろ」


「ただ、難しいことは承知ですが彼女を傷つけないよう配慮いただきたい。彼女はあくまで、『幻術』にかかっているだけです」


 騎士たちを前にして、アロンとディアムが言葉を連ねていく。

 騎士たちの表情は緊張に強張り、これから始まる奪還戦へと気を引き締めているように見えた。

 シェイドとフェナリの戦いを実際に見た者や、その時の状況を事細かに伝えられたもの。この場に、現在のフェナリの脅威を知らない者はいない。そこらの悪魔よりも強い、と全員が認識していた。

 ただ、アロンはここで一つの嘘をついた。フェナリの強さを、『幻術使い』の仕業だと誤魔化したのだ。命をかけて戦う者たちに虚偽の申告をするのは心を痛めたが、フェナリの要望でもある。その情報が作戦を良い方向へと進めるとは思えなかったために誤魔化すことにしたのだ。



「――では、王城奪還戦を開始する」


 ディアムの宣告がなされて、騎士たちが王城へと歩を進めた。先頭を行くのはシェイドだ。フェナリに単騎で対応できる可能性があるのは現状彼だけである、と言うのもあって、シェイドが先陣を切ることはほぼ確実のようだった。

 ホカリナの騎士団にもある程度の実力者はいるが、戦力増強に力を入れているギルストとは違い、ホカリナは文化の国だ。騎士団の実力者と言ってもフェナリに対応できるほどではなかった。


「――行きましょう」


「――――」


 シェイドの言葉に、騎士たちが各々首肯し、彼らは王城内へと足を踏み入れる。

 死地の予感。その雰囲気が肌を撫ぜた。


「一番隊は私と共に会議室へ。二番隊は別塔方面、三番隊は謁見の間方面を」


 事前に決めていた通りに、騎士たちは分散して進み始める。シェイドが所属しない二番隊と三番隊についてはそれぞれギルストとホカリナの実力者をバランス良く配置している。少なくとも、フェナリと接敵してすぐに死ぬような弱者じゃない。


「気を引き締めましょう、グラルド卿のように」


「――――?」


「失礼、こちらの話です」


 ホカリナの騎士たちはシェイドが当然のように出してきた名前を知らなかったらしい。最近『紫隊長』になったばかりということもあって、他国にまで名前が知れ渡っているわけではないのだろう。しかし、ギルストの騎士たちはその名前を聞いてより一層に気を引き締めた。

 グラルド卿なら、『紫隊長』なら、この状況だっていとも簡単に打破して見せるのかもしれない。そんな考えが生まれて、ならば自分たちだって簡単に引き下がってはいられないのだと改めて覚悟する。


「――角を曲がって、奥が会議室ですね」


 赤いカーペットを踏みながら階段を上がり、曲がり角に差し掛かったところでシェイドが呟く。シェイドもつい先ほど王城内の部屋の配置を記した図面は見せてもらい、暗記してきたところだ。

 つい先ほどまでいた、会議室に近づいている。本来ならば平和的な会談のために使われるその場所は、一瞬の出来事によって死地となった。幸いにも死人はまだ出ていないが――、


 ――否、出してはいけないのだ


 シェイドは自分の甘い考えを断ち切る。フェナリとは関りが殆どなく、正直言って情が移るようなことも何もなかった。ただ、元々彼女は強いのだろう、という予感があって、グラルド卿からも、それらしいことを少し告げられていただけ。

 しかし、騎士であるシェイドには、それらの要素は全く持って意味を持たない。護衛対象である、と言うそれだけで、理由としては事足りるのだ。


 何が何でも、死人を一人も出させることなく――フェナリの手を汚すことなく、ことを収束させる。今回の、シェイドの騎士としての任務だ。

 

「では、開けます」


 会議室の扉に手を掛け、シェイドは一言断って、掌に力を入れる。

 今のところ、中から尋常でない死の香りがする、と言うようなことはない。しかし、相手はフェナリだ。空気やそれを伝う気配すらも改竄していようともおかしくはない。だから、シェイドは全く気を抜かずに扉を開いた。


「――――ッ」


 臨戦態勢のまま会議室の扉を開いて、小さな隙間から中へと踊りこみ、剣を抜き去る。

 正面から上から横から死角から。最早背後からの攻撃すらも想定して初撃に備えていたシェイドは、いつまでも剣戟が放たれないことに気づいた。


「ここには――いないです、ね」


 会議室の中を一通り歩いて確認してから、シェイドは扉の所へと戻ってきて騎士たちに報告する。ひとまず、咄嗟の接敵と言う可能性が無くなったことで少しばかり緊張が解けたらしく、安堵の溜息を漏らす者もいて――、




 ――――ゴォゥンッ




 そんな、束の間の安息すらも許されないらしい。


 最初に反応したのは当然のようにシェイドだった。聞こえてきた魔術の音に耳聡く反応し、その反響の仕方から場所を特定、その方向へと走り出す。騎士たちも一拍遅れた様子でシェイドに追随した。



  ◇



 知らない世界だった。

 知らない世界だった。

 分からない世界だった。

 分からない世界だった。


 ――何もかも、分からなかったし、知らなかった。


 そんな世界に、ふと光が入ってくる。

 やっと、知っているものが入ってくる。分かるものが、現れる。

 その光に手を伸ばして、やっと目を開いて。そこには扉があった。その奥には部屋があるらしく、誰かの話声も聞こえてきて。中に人がいるのか、と思って――


 ――中から開けられた扉の先は


 ()()()()()()()()()()()()()()

 怪物だらけだった。そこにいたのは、恐らく十数匹の怪物。怪物怪物怪物。つまりは、屠るべき敵。そう認識して、少女は口の中で呪詛を紡いだ。


「――魂魄・花刀、来たりて邪を屠れ」


 少女が踏み込んで、一足飛びに正面にいた剣を腰に下げる()()へと。

 無意識に、怪物の中で最も強いであろう相手のところへと、フェナリは剣戟を振るっていた。幾らか強者もいる中で、その怪物だけが異質な雰囲気を纏っている。ある程度までは互角で戦えそうな、そんな雰囲気を。だから、最初に屠るのはその怪物と定めた。

 

 ほぼ奇襲だった一撃目は、怪物の剣に防がれた。

 そこで、少女は覚った。その怪物こそが、最優先で屠るべき相手なのだと。


 それからは、十分ほど剣と刀を交わした。それだけの間、戦いが成立したこと自体が珍しかった。

 一匹二匹と、怪物が逃げ去っていくのは分かっていた――が、その殆どが目の前の怪物とは比べものにならない弱者なのだ。追う必要もないと判断した。

 同時に、目の前の怪物は周りの怪物を放っておいてでも相手していなければならない強者なのだ。


 そして、剣戟を何度となく交わし合って、怪物にもある程度の消耗が見て取れた。

 人間より強靱な肉体と体力を持っている印象の強い怪物たちだが、ある程度鍛錬した人間並みの体力しか持ち得ない個体もいるらしい。


 ――そろそろ、屠れる


 そう思った瞬間だった。突然怪物は戦闘態勢を解いた。同時に、逃げの構えに移行する。

 追い縋らなければ、と思いながらも――逃げに徹したその怪物は思いの外素早く、結果として取り逃してしまう。


「――。まぁ、良いか。あの意識の向き方……恐らく、戻ってくるだろうしな」


 フェナリは呟いて、次の戦いのために周囲の地理を確認しておくか、と部屋を出た。

 それから、階層ごとに部屋の配置を記憶し、別階層との繋がりを把握して。走るわけでもなく、じっくり歩いて確認したからか、全体を確認するにはある程度の時間が掛かった。


 ――一度、はじめの部屋に戻るか。


 そう思って、歩む方向を翻した――と同時に、王城内に気配を感じ取る。怪物の気配、それもある程度の数だ。

 戻ってきたか、と思いながらに、フェナリは気配の元へと向かう。そして、角を曲がって怪物を視認して。


「――魂魄・花刀、来たりて邪を屠れ」


「ひ……っ、燃えろ(burn)……!」


 怪物を屠るための剣戟を、咄嗟に炎を打ち消すためのものへと変えて、フェナリは花刀を振るう。

 そして、目の前の炎を完全に切り裂いて――今更ながらに邪魔な長髪を後ろで括った。


「ひとまず――邪は屠られ、花刀の養分となれ」



  ◇



「――。始まったか」


 誰にでもなく、強いて言うなら空気に向かって、アロンは呟いた。炎の爆ぜる音が響いた、ということは、フェナリと騎士たちが会敵したということなのだろう。

 違和感を残したまま、戦いが始まってしまう。


 ――シェイドは、勝てるだろうか


 シェイドだけでなく、ギルストとホカリナ、その両国の騎士団もいる。善戦は出来るだろう。

 しかし、フェナリの戦力は未だ未知数部分を残す。唯一、恐らく本気のフェナリと戦ったグラルド卿は、その強さを『紫隊長』に今後匹敵しうる、と評価した。

 今後、と言う表現からするに、グラルド卿はフェナリに勝っている。――ならばシェイドでも、というのは、甘い考えなのだろう。それは、初戦後のシェイドの疲弊具合から見て取れる。


 今のシェイドとフェナリを単純に比べれば、フェナリが上に立つ。その上で、騎士団がどれだけの働きを見せるか、だ。


「何にも増して、ひとまずはフェナリに勝たねば」


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