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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第3章「テレセフの悪魔」

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99.敗北知らず


「娘たちを、作る――? まさか、その『お母様』と呼ばれた悪魔は、本当に娘たちを『産んだ』と?」


「いえ、そうではないんです。ただ――そうですね、そうです。『悪魔を創造する』と言えば、正しいでしょうか。あの悪魔は、悪魔を生み出すことが出来たそうです。私は司書として世界中の書籍の内、現存するものの半分には目を通しましたが……『呪術』に関する書籍に、類似する内容が散見されました」


 リアは話を続ける。彼女が昔に『お母様』と、そう呼ばれていた悪魔と相対した時の記憶だ。現状にどれだけの影響を与えるかは分からないにせよ、その貴重な情報を聞かずにおく理由は、アロンには無かった。

 話を進めて、リアの語る内容は当時の状況から、『お母様』の特異性に関する分析と考察に移り始めていた。それが、『悪魔を創造する』という耳を疑うような事実だ。アロンも俄かには信じがたい。現在の研究では解明しつくされていない悪魔の生態だが、まさか悪魔を生み出す個体が存在するなどとは。


「『呪術』が主に北方の閉ざされた国々で生み出された技術だという事は、王子殿下もご存じのことかと思います。魔術が相対した相手を傷つける技術だとすれば、『呪術』は会いたくもない相手を陰から傷つける技術ですね。そして同時に――人間の技術の中で最も、禁忌に近い技術でもあると、私は思います」


「一般教養としてだが、私も聞いたことがある。他人の身体を操る、他人の精神を蝕む、そして死体を代償にして力を得る――。そのどれもが、卑劣で悪質なものだと記憶しているが……」


「その認識で間違いはありません。この国でも、『呪術』による損失を防ぐための研究が行われていましたし、大体の国々ではそう言った、忌み嫌われる類の印象を持たれてますね」


「『呪術』を防ぐための研究……メイフェアス伯爵家、だったか」


 意外な繋がりがここで浮上してきて、アロンは瞑目した。貴族やその関係者との語らいでは積極的にその名を出すことはしないようにしていた彼だが、こうして直接的に関連する話が出てくるようではそんな対応も難しい。


 ――ギルストにおいても、『呪術』に関する研究は行われている。

 当然『呪術』を活用しようというのではなく、それによる損失がギルスト国家や、その国民に生じないために――いわゆる、防術の方針で研究しているわけだが。その研究を執り行っている中心の貴族家が、メイフェアス伯爵家なのだ。

 もしもこの話がより広がるというのならば、事が済んでからメイフェアス家にも赴かなければならないか、とアロンが思考を巡らせる。――と、リアが続けて話し出した。


「その『呪術』に関する記述の中に、中々に目を引くものがありまして――そうですそうです、『人体錬成』と、確かにそう書いてあったんですね」


「それは……禁忌と言わずとも禁忌であろうような題目だな」


「ええ、そうですそうです。ちなみにでご安心頂きたいのは、人体錬成だなんて大それたこと、『呪術』でも不可能だという事ですね。――ただし、先程王子殿下が仰ったこととも関係しますが、死体を犠牲にして生物の体を錬成する。その術法は確立されていたようです」


「今では失伝したそうですけれど」と付け加えるリア。話の流れを見て、アロンはこの話の行き着く先を予想する。恐らくその想定は間違っていないのだろうけれど、願わくばその推測は裏切られて欲しいものだ。


「『お母様』と呼ばれていた悪魔は、その『呪術』によって悪魔を生み出していました。とはいえ、その為に犠牲にしなければならない死体の数も馬鹿にならないでしょうし、失敗もしたはずです。そう考えると――私があの悪魔と出会ってから作れる『悪魔の娘』は……四体が限界でしょうか? まあ、単なる推測ですけどね、あはは」


「……実際は三体だけしか観測されていないな。恐らくは失敗が多かったのだろう。――しかし、やはりそういう話の帰結か。使われた死体、と言うのも恐らくはギルストの国民……人間を殺し、その死体までも利用するなどと、生死に対する冒涜もいいところだ」


 だから、アロンは自らの推測が裏切られて欲しかった。リアの言葉によってその想定が否定されれば、それだけで良かったのだ。しかし、そうはならなかった。簡単に出来た予想、最悪の想定が現実のものとして確定してしまったわけだ。

 悪魔を創るために、人間を殺す。そういった動機が『お母様』にあったとするならば、城塞都市テレセフが幾度か悪魔による襲撃を受けていたことにも合点がいく。それぞれ、新たな『悪魔の娘』を生み出すために必要な人間の死体を調達するためだったのだろう。そして今回もまた――、


「――待て。バーカイン卿、騎士や衛兵、そして一般市民で亡くなられた方々はどこへ?」


「最寄りの城塞都市アーディオへと、護送が終わっているはずです」


「アーディオに至急使者を送ります。もしも悪魔の目的がこれまでと同じであれば――」


 アロンの全身を緊張感と焦燥感が駆け巡る。足先から頭頂部までを嫌な予感に舐められたかのような不快感だ。そしてこの時にタイミングよく、または悪く――伝令の衛兵が、ファドルドに報告をするため、書庫の扉を叩いた。


「報告します!! 城塞都市アーディオにて悪魔の襲撃があったと!! そして……っ、今回の戦死者の方々の遺体が――!!」


「っ――クソッ!!」


 決して、現実で成ってはいけなかった予感が的中した。アロンは珍しく感情的になって立ち上がり、手元にあった机に拳骨を叩き下ろす。彼の正面にいたリアが小さく肩を跳ねさせた。ファドルドは何も言わない。ただ、その手のひらにはきつく食い込んだ爪の跡だけがあった。

 二回、アロンは深呼吸をして昂った感情を抑える。そして静かに腰を下ろした。


「失礼、少し取り乱しました。しかし……最悪の想定が現実になった。最初から、それが狙いだったのか」


「まさか、悪魔にそのような考えがあったなどとは。難しかったかもしれませんが、少しでもその可能性を想定できていればこんなことには……!!」


「――わたしも、こうなるならもっと……情報を共有していれば良かったです」


『悪魔の娘』アーミルを討滅し、悪魔の掃討が殆ど終わった。そして、恐らくはグラルド卿かシェイドが戦っていた『悪魔の娘』の討滅も、どちらかは終わっている。収束の時が訪れるのも、もう少しだと思っていた。それまでの時間を有意義に用いるため、アロンはこうして書庫に来たのだ。しかし、それはあまりに怠慢だった。傲慢だったのかもしれない。

 もう終わった、もしくはもう終わる、そんな甘い考えの裏で、最悪の状況は動き続けていた。物事の表だけを見ていて、その裏に対処することはもってのほか、その裏の状況を把握することすら出来ていなかったのだ。


「城塞都市アーディオの状況は。必要なら一番隊から救援を――」


「いえ、アーディオからの伝令によりますと、襲撃をした悪魔は殆ど新たな被害を作らず、ただ遺体だけを回収してそのまま去ったと……」


「その悪魔こそ、恐らくは『お母様』と呼ばれていた悪魔だ。しかし、そう考えると――これで相手方は目的を達してしまった、と。そういうわけだな」


 悔しいことだが、『お母様』と通称される悪魔は『悪魔の娘』の襲撃を、贅沢にも陽動に使ってその背後で真の目的を達してしまった。それは厳然たる事実で、もう覆しようのないことだろう。だがしかし、その事実は城塞都市テレセフで起きた襲撃の収束の兆しにもなりうる。目的を達したのであれば、これ以上テレセフを攻撃する必要はないのだから。

 当然、普通の悪魔に対していうのであれば、そんな甘い考えこそ唾棄されるべきだ。しかし、今回の相手は『お母様』だ。彼女はアーディオの襲撃でも新たな被害を作らなかった。目的の遂行のため、実に合理的な方法と手段、工程で全てを終わらせたと言える。そのことを考えれば、これ以上にこの城塞都市が襲撃されることはないだろう。当然、これから永久に、と言うわけにはいかないだろうが。


「周期的にそう言う事があった、という事を考えるなら――やはり、『お母様』と呼ばれる悪魔は何が何でも、討滅しなければなりません。諸々の悪、諸々の害、諸々の禍の根源たる彼女を滅さねば、この都市に本当の意味の安寧が訪れることは恐らくないでしょうから」


「ええ、そうでしょうな。我らバーカイン家も都市の防衛により力を注がねばなりません。今回のことによる沙汰がどう下ろうとも、乗り掛かった舟どころかもう乗ってしまった舟です。この都市に対する援助は、惜しめるはずがありません」


「バーカイン卿のその意志、私からも口添えしておきましょう」


 失ったものを、ずっと見ているわけにはいかない。失った悔しさともっとこうすれば、という自責や反省。そう言ったものが、将来を形作るのだと、アロンは理解している。

 城塞都市テレセフに、真の平穏を齎すために。ファドルドがその意志を宣言したように、アロンもこの場で静かに、心の内で決意する。『悪魔の娘』及び『お母様』の完全なる討滅、そしてこれ以上に被害を生ませないことを。



  ◇



 その体躯の高さは、周囲の木々と比べても大差なかった。それほどの巨体を前にして、しかし相対するフェナリとシェイドの戦意は衰えそうにない。

 フェナリにしてみれば、こう言った相手こそ専門分野なのだ。その巨躯であたりを蹂躙するような怪物、化け物の類。それらを屠ることこそ彼女の使命であり、彼女の生業だった。今になってもその力は衰えることを知らず、運命はまたも新しい怪物をその眼前へと供えてきたのだ。


「じゃから、こう言った相手なら――得意じゃ」


「これほどの巨躯を相手するのは久しぶりです。炎堕龍(バルガントライト)との戦いを思い出しますね」


 ようやく、シェイドに課せられた条件の残る最後が満たされる。別れの言葉を告げることで過去を打破し、今を見ることで現状に納得した。半ば無理やりだったかもしれないが、結果として条件はそろいつつある。そして最後に――、


 ――シェイドはこの状況を乗り越えなければならない。


 決着をつける時だ。シェイドの故郷、その想いでの場所で――『過去』の因縁に、結末を。



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