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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第3章「テレセフの悪魔」

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91.ついでの敵討ち


『――貴女は、私の最高傑作だわ。幾つか懸念はあるけれど、それも上手く機能するでしょう』


『貴女のような能力を持たせた『娘』たちをあと数人作ろうかと思っているの。貴女が『長女』で私が『母』。『父』は……あの人かしらね』


『時間稼ぎの方法を考えなさい。貴女は戦える時間さえ稼げれば、負けることはないわ』


『……貴女は純粋すぎるわね。当然、それが貴女の愛いところでもあるのだけれど』


『貴女の能力、伸びしろはもうないのかしら。――幕引きは、他の娘たちに任せることになりそうね』


『貴女にも、大事な役目をあげるわ。『開幕』と第一部の『終幕』のお手伝いよ』


『死んでしまうかもしれないわね。――まあいいわ。新たな能力の開花が見込めるのならば、それもいいじゃない。そうでしょう、ヴァミル?』


  ◇◆◇◆◇


 記憶が駆け巡った。人間で言う走馬灯が、ヴァミルの視界に映し出されては消えていく。その殆どが『お母様』から掛けられた言葉とその表情だ。初めこそ満面の笑みを向けてくれていた『お母様』だが、その表情は少しずつ笑顔だけのものになっていって、最終的に彼女の表情には薄らいだ微笑みだけが残っていた。

 どれもこれも、自分の能力に将来の展望と言うのが見られなかったからだ。『過変化』という強力な能力は喜ばれたが、強力であるだけでそれ以上ではなかった。成長に重きを置いた能力であるにもかかわらず、その能力自身が成長することは決してなかったのだ。


「だからっ、今私はぁ……っ」


『三文役者』だと侮ったグラルド卿に、敗北寸前まで追い詰められている。死の間際であることを自覚したからか、彼我の動きがどちらも遅くなり、世界が停滞したかのように感じられる。思考だけが勢いよく働くが、身体はそれに追従しない。ただ、敗北と死が緩慢な動きで近づいてくるのをその目で見続けることしかできない。

『お母様』の脚本通りだ。それを、覆すことが出来なかった。死ぬかもしれない、その懸念を排除することを試さず、『お母様』は脚本を完成させた。能力の成長はもうないと、諦められていたからだ。臨死の崖っぷちに立って能力が急成長するならば儲けものだ、と言う程度の感覚しか、『お母様』は持ち合わせていなかった。もう、彼女からヴァミルに向けられる愛情は風前の灯火同然だった。


「私が単純で、『長女』という立場に胡坐をかいて、能力の成長すら出来なくて……っ」


 だから、今こんな状況にいる。それを、死までの只管長い刹那の間、自覚させられる。

 決死の覚悟で突撃を果たしたグラルド卿と違って、自分は死を覚悟してなお、何もできない。『過変化』の効果は時間と等価交換されるものでしかなくて、残された一瞬だけの時間ではほとんど何の効果も得られないはずだ。文字通りの、万事休す――。



『貴女は、単純すぎるのよ。何度も言ったでしょう。人間と動物の違いは、思考力よ。そして私たち悪魔は、思考力を働かせられるかどうかで人間になるか、動物になるかを選べるの』



 何度もヴァミルは『お母様』から単純だ、と評されてきた。思考力を持ち、働かせなければ悪魔も動物にしかならないのだから、と何度諭されたか忘れた。

 ――そうだ、単純ではいけない。思考力を働かせなければならない。もっと、複雑に考えなければならない。もっと、自分の能力に正面から向き合い、その裏を見据えるような考え方をして、もっと柔軟な扱いを模索しなければならない。もっと、能力の隠された部分を引き出す方法を、見つけなければ――!!


「――ッ、おォ?」


「……私の『過変化』はぁ、時間と成長・退化を等価交換するのよねぇ。けれど、成長・退化だけで交換しちゃいけないだなんてぇ、誰が言ったのかしらぁ?!」


「知らねェよ。お前が取扱説明書読んでなかッただけじゃねェか?」


 グラルド卿の煽りの言葉も今のヴァミルには聞こえなかったことにされる。彼女はそんな言葉も聞かず、脳内ではひたすら歓喜していた。ずっと燻っていた能力の、裏の一面――それを引き出すことが、ようやくできたのだ。『お母様』にも見捨てられていたそれが、本当に死の間際になって初めて出来た。

 力を揮う時間と成長を等価交換し、力を揮えない時間と退化を等価交換する。『過変化』と言う能力はそういう仕組みで成り立っている。しかし、ヴァミルは死の淵に立たされた瞬間、咄嗟にそれ以外の仕組みを構築した。既に成長した部分を強制的に退化させる代わりに、他の部分を逆に急成長させる。具体的に言えば、腕周りを大幅に衰えさせ、脚力を大きく強化。後ろ跳びの要領で詰められた間合いを取りなおしたのだ。今のヴァミルでは、近くの大岩を持ち上げることすら叶わないだろう。


「それでも命を拾ったんだものぉ、安い交換だわぁ」


「何を言ってんのか分からねェが……ひとまず、面倒なことになッたんだろォな」


 ヴァミルにとっては起死回生の一手だ。しかし、グラルド卿としてはもうあと少しで勝てる戦いが敵の覚醒によって五分五分に戻されたようなもの。いや、もしかすればそれ以上に悪いことにもなりかねない。寝耳に水を入れられたような感覚だった。


「――と、そんな状況であろう卿にとって。私の援護は必要か?」


「おォ? こりゃァまた」


「どっちに行こうか、迷う暇もないはずだったのだが。本当なら、愛する弟の方に行ってやりたかった!! しかしまあ、あちらは兄が干渉するべきではないらしいのでな!」


「んで、こちらに来たと。魔術師の卵ともっぱら噂のバーカイン家長子殿……あァ、様か?」


「貴族家嫡男と貴族家当主であれば、立場の差は想像できよう!! 私のことはフェルドで結構! 次点で『シェイドの兄』でも構わないぞ!!」


 そう言って、戦場へと足を踏み入れてきたのはフェルド・バーカイン。負傷のために療養していたはずの彼が、こっそりと戦線復帰していた。

 これで二対一の構図だ。とはいえ、ヴァミルの強さを考えるならば、その優勢に見える構図もどこまでが信じられたものか分からない。それどころか、フェルドの実力で足手纏いにならないか、もっと悪いことには無駄死にでもならないかが不安になるというものだ。


「負傷してたはずだろォ。ここに来るには、ちッとばかし早かッたんじゃねェか? 不詳の治療具合にせよ、力量にせよ、なァ」


「鋭いご指摘をどうもありがとう。しかし!! バーカイン子爵家というのは、戦うことを宿命づけられた一家であり、当然嫡男である私もその宿命に従う!! 何より、シェイドが戦っている今、私がのうのうと救護天幕に引きこもっていられようか!!」


「チッ、シェイドはまた戦場か。自発的か、または巻き込まれたか……まァいい。フェルド、お前がやるッてんなら、俺は止めねェよ。ただ、ここを取り仕切るのは『紫隊長』である俺だ。それは間違えんじゃねェぞ」


「ああ!! 感謝するぞ、指揮官殿!!」


 フェルドの覚悟を問うようなことは言ったが、実際グラルド卿にとっても魔術師の後衛が手に入ったことは僥倖だった。ヴァミルと戦う中で重要なのがその間合いを詰めることだ。先程は決死の突撃によって無理やりに距離を縮めたが、何度も乱発できる作戦でないことは自明の理。その点、魔術師は遠距離からの魔術射撃が可能になるため、ヴァミルとの間合いを極端に詰める必要はないのだ。


「気になるのは、その魔術精度ッてとこだが……死なば諸共だな」


 最高なのは、フェルドの援護射撃によってグラルド卿がヴァミルとの間合いを詰め、大剣でその首を落とすなど致命傷を与えること。そして最悪なのは、フェルドの狙いが狂い、グラルド卿の背中にでも火の玉が落とされてグラルド卿が戦闘不能、近接戦闘の手段を失ったフェルドがヴァミルにやられる、というパターンだ。

 しかし、そんな懸念点ばかりを上げているようでは、決して『悪魔の娘』を相手にして戦ってはいられない。そして何より、シェイドがまたも戦っているのだと聞けば、その程度の懸念で行動を躊躇していられるわけもなかった。


「――フェルド、一歩後退」


「む? ……なっ?!」


 脈絡もなく発された指示に、フェルドは反射的に従う。その反応速度が、彼を救った。

 丁度、先程までフェルドが立っていた地点に翼が現れる。地中を潜行し、察知できないうちに新参の戦力を縦に貫こうとしていたのだ。その脅威に、フェルド一人であれば決して気づくことは出来なかった。


「お話に集中している今なら当たるかと思ったのにねぇ」


 本当にそう思っているのか疑わしい態度で、ヴァミルが言う。緩慢な動きで近づいてきながら、その間合いは決して一定以上に縮めては来ない。先程のような強行突破を懸念しているのだという事が見るだけでも分かる。

 強行作戦は明らかに警戒されている。恐らく、こちらが突っ込むような素振りを見せた瞬間に迎撃ではなく逃走を選択されるだろう。それに追い縋っているだけでは、『過変化』の能力に敗北する結末に誘導されてしまう。


「何だかんだ、さッきので斃し切れなかッたのが痛ェな」


「確かにぃ、先刻のは背筋が凍ったわぁ。痛覚を無視するだなんてぇ、そんな芸当が人間に出来るとは思っていなかったものぉ。――けれど。痛覚を無視することが出来たとして、それは負傷を無かったことに出来るわけじゃないんでしょぉ?」


「どォだかな。人間サマッてのは、お前らが思うより強かだぜ?」


 ヴァミルは、グラルド卿のそれを強がりだと断ずる。人間が強かであり、時に悪魔と言う種族を討滅しうる強力な種族である、という事は認識している。それでも、それは集団での強さ、または感情による強さ、というだけだ。何も、超越的な力を持ちうる種族であるわけではない。

 痛覚を遮断する、という超越に手を掛けたような芸当が、恐らくは限界点。それ以上はグラルド卿であっても出来まい。ヴァミルは、そう考えて微笑。翼の狙いを一人から二人に増やして、構えた。仕切り直しにはなってしまったが、それも一つ幸いだ。



「そう言えばぁ――私たちの可愛い『末娘』がやられたそうだし、敵討ちの一つでもしておきましょうかぁ。人間って、そういうことを気にするんでしょぉ?」



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