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人形使いの百合色奇譚 〜糸繰りの魔女と骸の令嬢〜  作者: ことち
三章 魔女と少女と淫魔の国
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番外編 従者達の密会

おまけです。

 さて、ついノリで面倒見る事んなったけど、これどうするかね……? 


「はうう……?」


 見たとこおもっきしツブれてるし、このままほっといて飯食ってようかな。吐いたりする風でもねえし。


「ううん……」


 ……起きた。そんでまだチョコ食べようとしてる。


「ダメッスよシャリテさん。酒弱いんスよね?」

「頭痛い……あれ、お姉ちゃんは?」


 ——お姉ちゃん? 誰だ、それ。


「だれッスか、お姉ちゃんって」

「私がお姉ちゃんって言ったら、ソワレさんに決まってるじゃないですかぁ!」


 机ぺしぺししてる。この子、だいぶ怠い酔い方するな……こういうのは経験上、まず間違いなくカラんでくる。


「ふうう、聞いてくだしゃいよお、クロコさぁん」


 ほら来た。


 酔っ払いの絡みを無視するのは、大抵の場合逆効果。適当に相手して酔いが醒めるまで待つのが鉄則だ。黙って話を聞いてやろう。


「なんスか?」

「私、最近気付いたんです」

「何にっスか」

「お姉ちゃん、実は女の子が好きなんだって」


 マジで何の話なんだ、これは。人様のノロケ話に付き合う趣味なんかねえんだけど。


「だから、私とお姉ちゃんが好き同士でも良いと思ってたのに……」

「はあ」

「でもそしたら、お姉ちゃんの周りって私なんかより魅力的な女の人がいっぱい居るじゃないですか!」


 おお、なんか燃えてきたな、この子。荒れそう。


「ユエさんもとっても綺麗だったし、イズモさんなんてすごく可愛いし、お胸もすごくおっきいし……クロコさんもなんか綺麗だし」

「団長のアレは規格外ッスからね」

「うう、でも私には何にもないんです。早く大人になって、お姉ちゃんと並んでも釣り合うようになりたい……」


 なるほど。周りの連中と自分を比べてヘコんでるのか。記憶喪失って聞いてたけど、かなりマセてんな。


「でも、ソワレさんに随分可愛がられてるみたいじゃないスか。その服、ソワレさんに買ってもらったんスよね?」


 普通は可愛くもない奴に服なんか買ってやらない。いや、普通の関係ならそもそも服なんか買ってやらない。

 この服は、ソワレさんがこの子の事を大切に思っている証左ではないだろうか。


「……違うんですよ」

「ん?」

「確かにお姉ちゃんは私の事を大切にしてくれます。だけどそれは、なんだか違うんです」

「違うってのは?」


「前に聞いた時、お姉ちゃんは私の事を大切な弟子って言ったんです。もちろん、凄く嬉しかったです。だけどそれは、私が欲しかった『好き』とは少し違ってて……」


 ——ははあ、なるほど。この子、マセてるなんてもんじゃない。かなり面倒な性格らしい。


「つまり身内を愛でる『好き』じゃなくて、恋愛の対象として見て欲しい、と。クックッ……贅沢ッスね」

「贅沢?」

「ああ、贅沢ッス。まあ、俺も同じようなもんだから分からんでもないッス」

「クロコさんが、私と……」


 おっと、口が滑った。まあ、酔っ払いに聞かせる与太話には丁度いいか。


「俺は団長が、イズモ・シキミが堪らなく好きなんスよ。毎日顔を合わせるたんびに際限なくその気持ちが膨らみ続けるんス。分かるッスか?」


 俺の話に共感したのか、ふんふんと興奮気味に首を振る。


「正直辛抱堪らなくなって、その場に押し倒して滅茶苦茶にしてえ時もあるッス。これも、分かるんじゃないスか?」


「そうそう! そうなんです! お姉ちゃんって普段はなんていうか、飄々とした感じなんですけど、たまに凄くよわよわになるんですよね! それを見るとなんだか凄く胸が高鳴るっていうか……!」


 この子、できるな……大人しそうに見えてその実、胸の中にとてつもない熱を溜め込んでる。どろどろの溶けた鉄みてえに粘つく欲の熱を。


 記憶を失う前からこうだったのか、それとも失ってから目覚めたのか。どっちにしろ末恐ろしい、俺の同類だ。


「クックッ……じゃ、似た者同士のよしみで一つ、助言をやるッスよ」

「わぁ……! お、お願いします!」 


 しゅぱっと体勢を整えた。すでに酔いは冷めているらしい。


「いいスか? 確かにソワレさんは取っつきにくいし、大抵の事は自分で済ましちまうッス」

「そうなんですよね……なかなか隙が突けなくて」

「そこッスよ」

「え?」

「ああいう人は、大体が手に余る事態にぶつかると途端に崩れるッス。ソワレさんが対応できないような異常事態、それをブチ込めれば道はあるッス」

「い、異常事態って、例えばなんでしょう!?」

「それは、シャリテさんが自分で探す事ッス。これから一緒に旅すんだから、それくらいは自分で探さねえと」


 そう告げると、俺の言葉を反芻し、飲み込むように頷き始める。


「うん……うん、分かりました。ありがとうございます、クロコさん!」

「いいんスよ。似た者同士、これからも頑張るッス」

「はい!」


 何を言うでもなく、俺とシャリテさんの腕が同時に伸び、互いの手をがしっと握り合う。俺たちの間に、奇妙な友情が芽生えた瞬間だった。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。今回はちょっと短めですみませんです。

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