八話 いつもは出来ない事
子供の前で何やってんだコイツらは
「ここが、家……? ですか?」
小さく小首を傾げるシャリテ。まあ、側から見れば小さな小屋が付いた馬車にしか見えないし、その反応もしょうがないか。
「まあ、入ってみてよ。足元、気ぃつけてね」
小屋の扉を開けて、イズモちゃんの手を引きながら中へと先導する。遅れてとてとてと入ってきたシャリテが不思議そうな声を上げた。
「あ、あれれ? 中は広いですね」
この小屋の持つ違和感に気付いたのか、中と外を行ったり来たりし始めた。その目はキラキラと好奇心が輝いている。私がこれを初めて見た時も、こんな感じだったっけ。
「わあ! 外から見ると小さいのに、中は広いです! なんですか、これ!」
「ふふん。これはねえ、見た目はボロっちいけど魔術がかかっててね。何人かで旅をする為に作られたんだ」
見たところ、内装に問題は無さそう。ソファもテーブルもちゃんと一揃いある。ちょっと散らかってるけど、外程じゃない。そのうち人形達に片付けさせよう。
「ソワレ殿ぉ。お出かけするんじゃ無かったのか? なあ、ソワレ殿……」
ぎゅむぎゅむと密着し、媚び媚びの甘ったるい声を上げるイズモちゃん。まずは片付けるべきは、こっちからだ。
「イズモちゃん、ちょっとおいで」
腕を引いて二人がけのソファの前まで導き、腕をほどいてとんと肩を押す。
「ひゃ……」
少し小突いただけでバランスを崩し、ソファに沈み込む。もはやその辺の女の子と変わりない。
「ちょっと待ってね。この辺に……」
記憶を頼りに、部屋の脇に置かれたキャビネットを漁る。出て行った後全然整理してないから、まだこの辺にあるはず。
中身を全部ひっくり返す勢いで中をかき出すと、有象無象の中から一つ、ころりと小瓶が転がり出てきた。中には小さな錠剤が数粒入っている。
「よし、あったあった」
瓶を手にとって引き返し、小さな体をソファにちんまりと収めるイズモちゃんの横に腰掛ける。
「はい、イズモちゃん。あーん、して」
「あ、あーん……」
恥ずかしそうに髪をかきあげ、口を小さく開けた。そのふるふると震える舌の上に、手に乗せた粒を一つ転がす。驚いたのか、肩を一瞬跳ねさせた。
「ッ! んぐ……」
「はい、飲み込んで」
そう促すと、言われるがままに喉を動かし、音を立てて飲み下した。
「ん、よく出来ました。じゃ、手ェ繋ごっか」
「ん……」
両手を差し出すと、同じように両手を私に差し出して手を合わせる。そしてゆっくりと、まるで肢体を絡めるかの様に指を固く繋ぎ合わせた。
「ああ、温かい。すごく落ち着く……」
そのまま腕を畳みながら私の胸に顔を埋めた。時折すんすんという細かく空気を吸う音が聞こえてくる。
「ちょっと、イズモちゃん。嗅いでるの? それはちょっと恥ずかしいんだけど?」
「ソワレ殿の匂い、この胸のところ、濃くて……はぁっ」
「全く……」
じとっ。
粘つく様な重い視線を感じて、振り返る。そこには、頰を膨らませてしかめっ面になっているシャリテがいた。
「またイチャイチャしてる」
むすっと不機嫌そうにそう呟いた。
「いや、しょうがないんだって。これが治療法なんだよ。れっきとした」
「……どういう事ですか」
「さっきの薬で、瘴気が体内に流れてこない様にしたんだよ。後は体内に残ってるのを発散するだけなんだ」
「それでなんでイチャイチャする必要があるんですか!」
「今日の瘴気が恋魔の特性を持ってるからだよ。恋魔の瘴気はこうしないと消えないんだ」
「む、むむむぅ……!」
激しい追及を凌ぎきると、それ以上言葉は飛んでこなくなった。
依然としてむくれてしまっているけど、納得はしてくれたみたいだ。私としては、何がそんなに気に食わないのかが分からないんだけど。
「……お姉ちゃんのばか」
「あん? 何て?」
「何でもないです!」
そう吐き捨てる様に言い放つとくるりと振り返り、ぷりぷりと怒って奥へと行ってしまった。
「ちょ、ちょっと。どこ行くの?」
「お掃除ですッ!!」
「あ、はい……」
部屋の奥から飛んでくる雷に気圧され、情けない事に一瞬怖気付いてしまった。最近気付いたけど、シャリテってたまにこういうとこあるよね……。
程なく、奥の方からガラガラと物音が聞こえてくる。本当に掃除を始めたらしい。若干の居心地の悪さを肌で感じていると、胸に埋まっているイズモちゃんの動きがさっきと違う事に気がついた。
下に目をやると、いつの間にかブラウスのボタンが外されて胸がはだけている。そして、四つ目のボタンを口に咥えて外そうとしているイズモちゃんと目が合った。
「……こら、何してんの」
「ソワレ殿が行けないんだぞ。シャリテ殿とばっかりお話ししてるから……さ、寂しいぞ」
熱く潤んだ瞳で、上目遣いに私を見るイズモちゃん。ふと、私の心の奥から嗜虐心の様なものが芽生えるのを感じる。
「ふぅん。寂しいと、こういう事しちゃうんだ? 真面目そうに見えて、意外と好きなんだねぇ?」
私の言葉が突き刺さったのか、潤んだ目から大粒の雫が滲み出る。
「ふ、ううう……」
「冗談だよ。今は、いつものイズモちゃんじゃないもんね。だからさ……」
組んだ手を押し、そのまま体勢を逆転させる。ぽすんとソファに押し倒し、たゆんと揺れる胸に私の体を乗せた。
奥からは尚もどがどがと荒い掃除の音が聞こえてくる。この分なら、少しの音くらいなら気付かれないだろう。
「いつものイズモちゃんじゃ出来ない様な事、今の内にいっぱいしとこうね」
この後滅茶苦茶




