表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形使いの百合色奇譚 〜糸繰りの魔女と骸の令嬢〜  作者: ことち
三章 魔女と少女と淫魔の国
38/53

五話 ヘイゼル

戦闘シーンってやっぱり難しいですね。すごくごちゃごちゃっとしてる気がします。

「行くぜ、オラァっ!」


 赤毛の女はそう叫びながら、両手に装備された漆黒の手甲を誇る様に打ち鳴らす。あんな事をしては自分の戦い方や得物を相手に教えている様なものだが、それだけの自信の表れだろうか。


 相手は見るからに近接戦闘を得手としている。懐に潜られれば弱いソワレ殿とは、相性が悪いか。


「ソワレ殿。空は頼む。私はこっちを請け負おう」


 軽く右に首を振り、極力視線を切らさない様にしながら声をかける。


「ん、分かった。片付いたらそっち手伝うから、頑張ってて」


 振り返りもせずにそう答えるソワレ殿。やがて背後からは、空へと閃光を乱射する音が聞こえ始めた。

 同時に、左の鼓膜に力強い踏み込みの音が叩きつけられた。

 振り向きざまに、袖から取り出した戦輪を飛ばす。視線の先には、こちらに向かい猛然と駆けるケダモノのような姿があった。

 水平に三つ程連ねて飛ばした。屈んで避ければそこを狙い、跳躍など格好の餌食。さあ、どう出るか。

 

 しかし、女が取った行動は私の想定を遥かに逸脱したものだった。


「——ッ!」

 

 女の首から血しぶきが上がる。回避でも、迎撃でもない。彼女の一手は、直進、そして直撃。飛来するそれをまるで脅威と感じていないかのように突進し、結果首に鉄の刃が食い込んだ。


 青空を赤く彩る血の噴水は、明らかに致死量。それなのに、彼女はそれすらも気に留めず突進を続ける。

 

「うらァッ!」

 

 首に輪を突き立てたまま私に肉薄し、その勢いのまま稲妻の走る脚を振り抜いた。

 

「——ッ!」


 状態を逸らし、ギリギリで回避する。紫電を纏ったその蹴りは、もはや体術の域を超えている。

 空間を紫色に切り裂く、一筋の斬撃。例えただの蹴りだったとしても、直撃すればタダでは済まないだろう。しかし——

 

「遅いッ!」

 

 軸足一本で立つ体を目掛け、抜き打ちを放つ。全力で放った一撃は、あっけない程に容易くその胴体に吸い込まれていった。


「ぐがッ……」

 

 刀身から柄へ、そして手へと伝わる感覚は、肋骨とその奥の臓器を断ち切った事を教えてくれた。間違いなく致命傷だ。

 一際大きな血の柱を立ち上らせて、ぐらりと後ろに仰け反り甲板へと、死へと向かって倒れこむ女。

 

 だんっ!

 

 不意に、鋭い音が響く。力なく倒れていくだけだった足が突如活力を取り戻し、上半身を支える杖になったのだ。

 

「バカな……!」

 

 踏み込みが浅かった……? いや、そんな筈はない。あれは間違いなく人命を絶つに足る一太刀だった。

 

「ああぁ、痛えな」

 

 完全に体勢を立て直し、強い眼差しをこちらに向けた。その目には命がみなぎっている。致命傷を受けた者の目ではない。

 

「……何者だ」

 

 再び構えを取り、一つ尋ねる。すると女は、ざっくりと裂けた上着を名残惜しそうに指先で撫でながら答えを返す。

 

「人にモノを尋ねる時は、まず自分からってのが礼儀だろう?」

「むっ。それもそうだ。失礼した。私はイズモ・シキミ。レジネッタで騎士をしている者だ」

 

 礼を失したと恥じながら名乗ると、何故か向こうは面白そうに顔を歪めている。


「ぶっ! クククッ……ホントに名乗っちゃうんかよ! ヘッヘッ、真面目だねえ。じゃ、私も」


 おどけてそう言うと、体勢を整えて名乗りをあげた。


「私はヘイゼル。さっきも言ったが、傭兵さ。適当な船を襲って、積荷を売っぱらって一儲け。それに一口乗っかったって訳よ」

 

 ひとしきり終えると、再び上着に目を落とす。裂けた服の向こう側の肌には、すでに傷一つない。治癒魔法……いや、そんな気配は感じられなかった。そもそも治癒するまでもなく死んでいる筈だ。これは一体……?


「訳が分からねえって顔だな。ま、私にもよく分からねえんだがな。ただ一つ分かんのは——」


 瞬間、彼女の姿が陽炎の如く揺らめき、紫の電影を残して消えた。


「——常人じゃありつけねえ経験が得られるってことさ」


 直後に背後から感じる彼女の声と、刺す様な殺気。反射的に体を屈めると、さっきまで私の顔があったところに紫電の蹴りが過ぎ去って行く。

 そして私蹴りの軌道を途中で変え、後頭部を狙った踵落としを繰り出して来た。

 

「くおおッ!」

 

 後方へ飛び跳ねて躱す。彼女の踵は閃光と共に炸裂し、着弾地点の床板は真っ黒に焦げて大穴を開けられていた。

「まだまだだ! おらァッ!」

 

 瞬く間に距離を詰めた彼女の咆哮と共に吹き荒ぶ、閃光の暴風雨。弾ける電流を伴ったその一挙手一投足はまさに必殺。まともに受ければ五体満足では、済まない!

 

「くううッ」

 

 鞘を駆使して攻撃をいなすが、限度がある。受けきれなかった攻撃が体をかすめる度に皮膚が裂け、傷をなぞるように電流が走る。

 文字通り焼けるような激痛に、思わず姿勢が緩んだ。

 

()ったッ!」


 下からの逆袈裟の様な、鋭い一撃。とっさに刀を構えて防ぐ。

 

 ぱきん。

 

 間の抜けた、あっけない音と共に刀身が根元から折れてくるくると空を舞う。

 軌道がずれた一撃は、私の胸から肩へを深く裂くに留まった。

 ぱっ、と鮮血が吹き出し、服を赤く染め上げる。同様に返り血で染まった彼女の顔は、勝利を勝ち誇った様に歯をむき出しにしてどう猛な笑みを浮かべている。

 

「終わりだ、喰らえッ!」

「いいや、まだだッ!」


 キラキラと陽の光を反射させつつ落ちて来る刀の成れの果て。勝機は一度。機会は一瞬……!

 

「——ふッ!」


 目の前の勝利に気が緩んだ彼女の一瞬の隙を突き、その場で縦に一回転。散々食らって来た足技のお返しだ。

 目測がぴたりと当たり、私の踵は折れた刀身の断面を捉える。そして——

 

 かこっ。 

 

「ぁえ」

 

 刀身を、まるで槌で叩かれた釘の様に彼女の額の中心へと打ち込んでやる。

 

 刹那、ぴゅうっと吹き上がる血の噴水。脳髄を破壊された彼女は、今度こそその場に倒れ伏した。

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

順調にPVもブクマも伸びていて嬉しいです。このまま色んな方からご意見を頂いて、もっとこの作品を磨き上げられたらいいな、なんて思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ