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姫君への軌跡  作者: 瀬川メル
6章
39/60

39話目:守る為の剣

 コーネリアが城に戻り客室へ入った後、程なくしてセレネディアが扉を叩いた。セレネディアの表情は人形のように動かない。


「コーネリア姫。今までどちらに?」

「城下街へ。この国の民の暮らしぶりを見ておくのも勉強になりますもの」

「そうですか」


 見透かすようにじっと見つめてくる瞳は底知れない闇のよう。コーネリアは無意識にごくりと喉を鳴らした。


「……ラゼリアからの客人を狙う賊が近くに潜伏している恐れがあるとの報告がありました。しばらくは城をお出になりませんよう」


 機械的な口調でそれだけ言うと、セレネディアは部屋を出ていった。


(そういう事にしたわけね……。それは好都合かも)


 闇が深く満ちるまで後数時間。ノエルに会って作戦を伝える為に、コーネリアは兄の部屋へと急いだ。


*****


「ゲレオン様」


 隊舎の一室で剣の手入れをしていたゲレオンの元に、エディルが姿を見せる。ゲレオンは視線を手元に落としたまま面倒くさそうに溜め息をついた。


「なんだ」

「……ラクチェアの味方をするとは正直意外でした」

「そうか」

「何か考えています?」


 ぴたりとゲレオンの手が止まる。手入れの終わった剣を鞘に納め、ようやく顔を上げる。口の端を持ち上げ、笑みを浮かべた顔を。


「見てみたいと思わないか? あいつらがどんな未来を選ぶのか。……きっと俺やお前の二の舞にはならない。そんな気にさせてくれるよ、生意気にも」

「随分気に入ってるんですね」

「気色悪い事を言うな。暇潰しにいいというだけだ」


 つくづく素直でない人だ、とは口には出さないが。


「オッサン!」

「オッサンどこー?」


 ゲレオンを呼ぶ少年達の声が聞こえ、呼ばれた本人は脱力して壁に寄り掛かった。いい加減にしろとでも言いたげに頭を振る。


「貴方はやっぱり子供に好かれやすいんですね」

「お前が一号という事か?」

「そうですね」

「まったく嬉しくない褒め言葉だな」


 言う程嫌がっていない事はわかっている。エディルは薄く微笑んだ。


*****


 長い髪をひとつに纏め、ラクチェアは息を吐いた。時間までただ待つ事は落ち着かず、訓練場の中を歩き回る。


(大丈夫、大丈夫……)


 じっとしていると不安に押し潰されそうになる。しゃがんだり立ったり、壁に手をついてみたり、訓練用の剣を振ってみたり。

 諦めない、くじけないとどれだけ強がってみせても、心のどこかに穴はある。そこから弱さが侵入する事が怖くて、必死に塞ごうとしているだけなのだ。ラクチェアは完全無欠の超人ではない。


(でも、皆がいてくれる。泣き言なんか言うわけにはいかない。私だって、言いたくない)


 両手で挟み込むように思い切り頬を叩き、気合いを入れる。


「っし!」


 やれる事はすべてやる。例え相手が姫君でも。大切な物は自分の手で守ってみせよう。

 交わした約束が強さをくれる。


「副長、作戦の再確認しましょう」


「わかった。今行く」


 手にした剣は大切な物を守る為にあるのだ。飾りではない事を、今宵ラクチェアは証明しに行く。

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