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姫君への軌跡  作者: 瀬川メル
6章
38/60

38話目:囚われの王子、再び

 カミルが持ってきた水を口に含み、ゆっくりと喉に流し込む。上下するコーネリアの肩から背中にかけて、何度もトビアスが摩った。


「はあ……。それで、よくはわかりませんが……ノエル兄様は今身動き出来ない状態にあります」


 まだ震える声が現状を説明する。そこに至る経緯は不明なものの、セレネディアがラクチェアを盾にノエルの自由を奪ったという事実は理解出来た。

 ラクチェアは自分がノエルの足を引っ張った事に憤りを覚えた。


(よりによって私が王子を……)


 固く握りしめた拳が色を無くす。


「コーネリアは城を出られたのか」

「きっとノエル兄様に気を取られて私の事まで回らなかったんじゃないかしら。それも時間の問題だと思ったから急いでここまで来たのだけど」


 後ろで付き人が「突然の事で驚きました」と疲れたように溜め息をついていた。


「カテリーナが兄様のそばには居てくれてるけど……セレネディア姫の目的がわからないです。このまま待ってるだけでは……」


 セレネディアがノエルの意に沿わない事をしようとしているのは確実。ならばそれはどんな事か。


(きっと、姫と王子の結婚に関する何か……)


 だとしたらノエルの解放を待って動くのは遅すぎる。


「……ラクチェア」


 考え込むラクチェアの頭にふわりと誰かの手が触れる。


「隊長……」


 昨夜の事が一瞬思い出され体が強張るが、エディルの表情はあの時とはまるで違う。ラクチェアが憧れ、隊士達が信頼した守護隊隊長の顔。真剣な眼差しがラクチェアへと注がれていた。


「お前が昨日言った事、そっくり返そう」

「え?」

「……信じてやれないか、こいつらの事。皆はお前の事を信じてる。話せラクチェア。お前とノエル王子が今どんな現実に立たされているのか」


 言葉に詰まる。確かにエディルにそう言った。何の相談も無かった事が皆は寂しくて、だから怒っていたのだと。

 では自分は?


「……でも、皆を巻き込むのは……」

「何言ってんですか! 俺らは守護隊隊士ですよ? 副長の事だって、自分の事だって、守ってみせます」

「もちろん、ノエル王子の事も」


 カミルとトビアスに触発され、他の隊士達も二人の言葉に賛同し始める。その心が何よりも嬉しかった。


「小娘。こんな所で立ち止まってはいられんだろう?」


 我関せずと離れて見守っていたゲレオンも口を開く。その挑戦的な表情に、ラクチェアはこくりと頷いた。


「なら使える物は何でも使え。こいつらが良いと言ってるんだ、馬車馬の如くこき使ってやれ」

「オッサン自分だけ違うみたいな空気醸し出すな!」

「あんたも働け!」

「……ち、うるさいガキ共め……」


 ぎゃんぎゃん騒ぐ隊士達に、ラクチェアは緊張感を削がれて笑い出す。頼もしい部下、大切な仲間達。ひとりで背負い込めば潰れてしまうかもしれないが、生憎とラクチェアはひとりではない。


(……王子だって、離れていても……)


 瞼を閉じる。


(大丈夫。諦めない。心は揺らがない)


 瞼を開く。


「ありがとう」


 微笑んだのもつかの間、すぐにラクチェアは副長の顔になり、自らの置かれている状況を説明し始めた。


*****


「お姉様……! 本当に本当にノエル兄様と結婚されるんですね……!」


 感極まって瞳を輝かせるコーネリアに手を握られながら、ラクチェアは隊士達を見回す。


「は、はい……。まずは王子を城から救出したいと思うんだけど……」

「ですね。姫の目的を知ってるのは王子だけみたいだし……せめて話だけでも出来たら」


 その言葉にはエディルが返した。


「俺達が城に入るのは容易だろうが……王子へのお目通りまでセレネディア様が許すとは思わない」

「正面からは行けないという事ですね」

「……私、約束したの」

「約束?」

「王子が動けなくなった時は、私が攫いに行くって」


 なにひとつ迷う事なんてない。するべき事は決まっているのだから。

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