表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫君への軌跡  作者: 瀬川メル
4章
27/60

27話目:宵星祭

 祭が始まる合図。時計塔の鐘がその身を鳴らす。大通りも広場も人で溢れ返り、熱気に包まれた。


「わ、凄いね。はぐれたら大変そう……」


 そう言って繋いだ手に力を入れたノエルに、ラクチェアは頬を染めるだけ。指先から伝わる体温が心臓を打ち震わせる。


「行きたい所、ある?」

「え、ええっと……」

「あ、来て来て」


 何かを見つけてそちらに歩き出すノエル。手を引かれてラクチェアも後をついていく。

 立ち止まった先に見えたのは細かな細工を施した装飾品の数々。豪奢過ぎず、細工精巧さが引き立つような品ばかりが台の上に並べられていた。


「あらラクチェア様。こちらの殿方は恋人?」

「ち……っ、ちがっ! 違います!」


 店番をしていた壮年の女性から言われ、ラクチェアは慌てて首を横に振る。隣でノエルが少しばかり傷付いた表情をしていたが、ラクチェアは気付かない。


「うふふ。ドレスお似合いですよ。……こちらと合わせてみたらいかがかしら?」


 並べてある品の中からひとつを手に取り、女性はノエルへ手渡す。それは薔薇の花をモチーフにした髪飾りだった。

 ラクチェアの髪にそっと当て、ノエルはこくんと頷く。


「うん。可愛い。これをいただこうかな」

「ありがとうございます」

「えっ、だっ、駄目です。そんな、私が払います」

「それこそ駄目だよ。……動かないで」


 笑いながら、髪飾りをラクチェアの髪に着ける。少し手間取っているような動きは、慣れていない証拠。それが嬉しくて鼓動を早めてしまう程、ラクチェアは祭の雰囲気に気分を浮足立たせていた。


「出来た。可愛い」

「あ……ありがとうございます」


 初々しい二人のやり取りに、店番の女性は思わず口元を手で覆った。


*****


 大通りを抜け広場に出ると、中央に設置されたステージで踊り子達が舞を披露しているのが見えた。手にした鈴を鳴らし、音楽に合わせてステップを踏む。どこか幻想的なその姿に、ラクチェアはため息を漏らした。


「凄い……。綺麗ですね」

「うん。でも僕、剣を振るうラクチェアも綺麗だと思うよ」


 唐突な言葉に、ラクチェアは目を丸くしてノエルを見上げる。


「君が剣を持って戦う姿は、舞みたいで綺麗だなって」


 さらりと言い、視線をステージに戻す。言い逃げのような形をとられたラクチェアは、口をぱくぱくと開閉し、俯いて拳を握りしめた。


(……! う、うああああ、何それ。何よそれ……!)

「……いつも、僕は君から目が離せない」


 ぎゅ、と繋いだ手を強く握られる。


「あ、ああああの、王子」

「あ、曲変わった。皆で踊るみたいだよ。僕達も混ざろう?」


 楽しそうに笑ってステージを指差すノエルに、ラクチェアはどこかがっかりした気分を味わう。そんな自分が恥ずかしくて、壊れた人形みたいにガクガクと首を振った。

 ステージを囲んで好き勝手に踊る人々。その輪の中に入り、ラクチェアとノエルも曲に合わせて体を動かす。


「楽しい? ラクチェア」

「……王子は?」

「楽しいよ。君と一緒なら」

(……私も)


 思うだけなら許してほしいと、誰にともなく請う。今日ぐらいは、今夜だけは、お祭りなのだから。

 手を繋いで、見つめ合って、笑って……普通の恋人みたいに過ごしても、お祭りの雰囲気に呑まれただけだと言い訳が出来る。そう考えて、ラクチェアは愕然とした。


(私、また言い訳しようと考えてた……? 誰に? 自分に? 王子に……?)


 動きを止めてしまったラクチェアを、心配そうにノエルが窺う。


「ラクチェア? どうしたの?」

(いつから? いつから私はこんなに弱くなったの? 情けない。恥ずかしい!)


 ノエルの前に立つ事すら恥ずかしくなり、ラクチェアは弾けるように走り出した。どこでもいい、ノエルの視界から消えたいと。


「え!? ら、ラクチェア!?」


 驚き戸惑うノエルの声を背中に受け、ラクチェアは明かりの少ない方へと全力で走り去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ