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新選組余話-比翼の鳥-  作者: 子父澤 緊
黒船と白旗 前編
70/76

それは、どこか現実離れした光景だった。


男は、神田明神の鳥居とりいの前で大の字に横たわり、虚空こくうを見詰めていた。

その眼は光りを失い、もうまばたきをすることもない。


動かなくなったその肢体したいを中心に、まるで地面に大輪たいりんの華を描いたように鮮血せんけつが飛び散っていた。


中沢良之助は、野次馬ヤジウマの最後列から、役人が死体を検分する様子をながめていた。


「なにごとです?」

隣に立つ男が話しかけてきた。

彼の背丈では人だかりの向こうの様子が見えないらしい。

「誰か殺されたようです」

辻斬つじぎりか何かですか」

「いや…」

良之助は言いよどんだ。

「あれではまるで、何かに押しつぶされたような…」


その時、良之助たちの背後から誰かが声を発した。

「これを見ろ!」

振り返ると、参道脇の草むらに陣笠じんがさを被った与力よりきらしい男がかがんでいる。

死体の周りに集まっていた同心達が、人ごみをき分けて、良之助たちの前を通り過ぎていった。

与力よりきの指す足元には30貫目かんめ近くはあろう大石が転がっている。

血が、べっとりとこびり付いていた。


「なぜこんなところに血痕けっこんが」

役人達は首をうなっている。


「取り返しの付かないことを」

良之助の隣にいた男は、そうつぶやいて立ち去った。

「…え?」

振り返った時、男はすでにきびすを返していた。


良之助は、その言葉の真意しんいを測りかねたが、それより気にかかったのは、ちらりと見えた男の横顔だった。

坂を下って行くその男の面差おもざしは、姉の琴と生き写しだった。


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