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新選組余話-比翼の鳥-  作者: 子父澤 緊
黒船と白旗 前編
65/76

条件

神田お玉が池(かんだおたまがいけ)玄武館(げんぶかん)稽古場けいこばは、相変わらず多くの門人でごった返している。

「残念だが、もう君の面倒をみられなくなった」

激しい稽古けいこを終え、額に汗を浮かべた山南が言った。


良之助は、先ほど母屋で山南を見かけたときから、何かあると思っていたが、この件かと得心とくしんした。

「なぜです?」

山南は、風の入ってくる縁側えんがわのほうへ向かいながら、稽古着けいこぎたもとをつまんでパタパタと扇いだ。


「私は島崎さんに弟子入りすることにした。当分こちらへは顔を出さん」

「で、では、わたしも!」

良之助は、あわててその後を追った。

「それは、駄目ダメだ」

「私が学びたいのは、北辰ではなく、あなたです。あなたが試衛館しえいかんに入門するというなら、乗り換えても構わない」

「君は、まだこの玄武館げんぶかんで、学ぶべきことが沢山あるだろう。それでは、君を任された清河先生にも、申し訳が立たん」

食い下がる良之助を、山南は突き放した。


「しかし、山南さんだって、天然理心流てんねんりしんりゅう何某なにがし此処ここに勝るものがあると思えばこそ、そんな事を言い出したのでしょう?ならば、私だって、それを習得したいと考えるのは、勝手のはずだ」

大方おおかたそんなことを言い出すだろうと思って、私の代わりに、良い後見こうけん推薦すいせんしておいたよ」

「そんなの、誰だろうが納得できません!」

良之助は不服ふふくそうに首を横に振った。


「真田範之介殿は、多摩で天然理心流てんねんりしんりゅうも納めている。たった二年で中目録ちゅうもくろくを取った手練てだれだそうな。相手にとって、不足はなかろう?」


「真田…。あのギョロ眼か」

良之助の闘争心とうそうしんに、火がついたようだった。


「では、そいつを倒せば、また手解てほどき頂けますか?」

「彼は、この玄武館げんぶかん塾頭候補筆頭じゅくとうこうほひっとうだぞ?そんな男にまさる剣士に、私如わたしごときが教える事など、何もないよ」

「逃げ口上こうじょうは結構。如何いかが?」

良之助の挑戦的な視線を、山南は穏やかな表情で受け止め、やがて、ニコリと笑った。

「君には降参だ。ま、よかろう」


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