表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新選組余話-比翼の鳥-  作者: 子父澤 緊
黒船と白旗 前編
49/76

異名

夜の四つ、花街はなまちにも人通りはまばらになり、州崎の海から運ばれるしおの香りが鮮明に感じられる。


苦界くがい娑婆しゃばへだてる二重門にじゅうもんの前には、すでに駕籠かごがその男を待っていた。


酩酊めいていした男の足取りを眼で追いながら、清河八郎はさり気ない風を装いたずねた。

「そろそろ教えて頂けませんか。島田様の後ろ盾となっておられるやんごとなきお方の正体を」

島田と呼ばれた男はくくく、と低くわらって首を横に振った。

「それはまだ明かせんな。それに、言っても貴公は知るまい。何となれば、そのお方は、まだ中央の表舞台には立っておられぬ。であればこそ、来るべきその時に備えて、私が露払つゆはらいを務めておる訳だ」

「なれば、えて名を伏せる必要もありますまい」

島田は駕籠かごに身体をあずけながら、充血した細い目で清河八郎という男を値踏ねぶみしていた。

「その手には乗らん。とは言え、今後貴公と仔細しさいを相談する上で、わが主をいつまでも名無ななしと呼ぶわけにもいくまい。ではいいことを教えてやろう」


そして、まるで重大な秘密でも打ち明けるように一呼吸ひとこきゅう置くと、清河に耳打ちした。

「『チャカポン殿』」


清河は、柄にもなくキツネにつままれたような顔で立ち尽くした。

島田は、清河の反応に大いに満足したらしく、

「ごく気安い方々からはそう呼ばれておられる」

そう言い残すと、如何いかにも愉快気ゆかいげに笑いながら駕籠かごすだれを降ろした。


清河は小さくなっていく駕籠かごを見つめながら、キセルを吹かした。

いま全幅ぜんぷくの信頼を置くにあたわずってか。ま、ご慧眼けいがんですな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=782026998&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ