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新選組余話-比翼の鳥-  作者: 子父澤 緊
黒船と白旗 前編
45/76

容疑者

「それで、私は何をすればいいんでしょうか」

中沢良之助は大きな身体を正して二人にたずねた。


首魁しゅかいと目されるのは、師範代しはんだい海保帆平かいほはんぺい。彼は安中藩士あんなかはんしの次男だが、親は江戸詰めの年寄役としよりやくで、生まれも育ちも神田一ツ橋ってぇ生粋きっすいの江戸っ子だ。この玄武館げんぶかんでもいわゆる生え抜きってやつさ」


清河八郎が言ったのは、良之助の試験を受け持った師範代しはんだいのことだった。


「現在はれっきとした水戸藩士で、最近、江戸馬廻組(うままわりぐみ)に取り立てられたばかりだ」

と、ここで清河は気不味きまずそうに言葉を区切った。


他ならぬ千葉も、水戸藩の馬廻格うままわりかくとして召し出された過去があり、現在、息子の栄次郎も同藩の小十人こじゅうにんとして仕官している。

その辺りの事情を彼なりに配慮はいりょしたものらしい。


「かまわんよ」

千葉周作がうながした。

師のお墨付すみつきを得ると、彼は、小さく咳払せきばらいを入れて、先を続けた。

「水戸では抗戦論者こうせんろんしゃ巣窟そうくつ、弘道館にも出入りしているというし、伝え聞くところでは、浦賀の会談の際、藩主斉昭(なりあき)公に随行ずいこうしたとも」

「ほとんど決まりじゃないですか。彼を締め上げればいいんですか?」

「おいおい、穏便おんびんに頼むぜ。君にこの話をしたのは、彼にさとられないように動いてほしいからだ。君にお願いしたいのは、山南敬介だ」

「山南さん、ですか」

良之助は少し驚いた。

「もう会ったかい?」

「先ほどまで、立ち合っていました」

「ほう。で、どうだった?」

清河は意地悪いじわるな笑みを浮かべる。


「…手も足も出ませんでしたよ」

良之助は苦々(にがにが)しげに答えた。


「彼の思想についてはわからんが、熱心に他流派たりゅうはの道場をまわっている」

「しかし、そんな人は、他にも沢山たくさんいるでしょう?」

清河は、ペリーの書簡しょかんをパタパタと振って見せた。

「この仕事は、武辺一辺倒ぶべんいっぺんとうの男ができるもんじゃない。彼は切れ者で、相応そうおうの学もある」


山南敬介と立ち合った良之助には、清河の言う意味がなんとなく分かる気がした。

「具体的に私は、どう動けばよいのですか?」

「しばらくは彼に張り付いててくれ。山南君には、君が道場に慣れるまで面倒をるよう言っておく。他流試合たりゅうじあい出稽古でけいこに同行すれば、おのずと彼の目的ははっきりするだろう」

「わかりました」


怪文書云々(かいぶんしょうんぬん)は置いても、山南を身近に観察出来るのは、良之助にとって願ってもない話だった。

話を切り上げて道場に戻ろうとした良之助に、千葉がもう一度声をかけた。


「分かっているとは思うが、これを誰がやったにせよ、言わば国をうれいての仕儀だ。同じ日本人同士、節度せつどをもって事にあたってくれたまえ」


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