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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第1話 冤罪の主君令嬢が断罪される

王立オラニエ学園。

その誇り高き講堂は、卒業式のために色とりどりの花で飾られていた。高窓から差し込む柔らかな日差しが大理石の床に反射し、会場を荘厳な雰囲気に包んでいる。


そんな卒業式の壇上には、見るからに高貴な雰囲気を漂わせる1人の青年がいた。

彼はこの国の王太子で、今は緊張しているのか目元にやや鋭さが現れているが、その顔は全体的には優し気な雰囲気をまとっている。背が高くてスタイルもいいし、美しいブロンドの髪と相まって女性人気は間違いなく高そうだ。一見他の卒業生と似た制服だが、明らかに高級とわかる王太子専用の紺色のブレザー。その布地は光を受けて輝き、ブロンドの髪とともに人々の視線を集めていた。

彼はこれから卒業式の答辞をする予定だったし、列席者もそのつもりで見ていた。しかし彼の取り巻きが恭しく差し出した金箔で装飾された羊皮紙を壇上で受け取ると、一度列席者に見せつけるようにしてから(もちろんここからは書いてある文字など小さくて読めない)、ためらいもなく真ん中から二つに引き裂いた。ざわめく会場を満足そうに見回すと、最前列に座る我が主君ソフィエお嬢様を指さして


「ソフィエ・ファン・ライデン!

私、王太子ヘンドリック・ファン・オラニエは今日限りで、ソフィエとの婚約を破棄する。たった今、婚約誓紙も破られその誓いも失われた。」


と王太子は高らかに言い放った。

その瞬間、ざわざわしていた会場の空気が張り詰めた。


ここは王都アントオラニエにあるオラニエ学園の卒業式会場である学園内の講堂。そしてたった今、卒業生代表としての挨拶に登壇したはずの王太子が、お嬢様との婚約破棄を発表したところだ。

横にいるお嬢様は目を見開き、両手で口元を覆っている。信じられないという動揺が、その双眸にありありと表れ「そ、そんな…」と微かにつぶやくお嬢様の痛ましい声が聞こえる。侍女たちによって念入りに手入れされた肩先まである美しいサファイアブルーの髪も、心なしか輝きを失ったように見えてしまう。


ちらちらと周囲からお嬢様の様子を窺う興味本位の視線が感じられる。

すると壇上の王太子は、羽扇子をもった美しく着飾った鮮やかなグリーンの髪の女性を舞台袖から呼び寄せた。そしてなおも何かに急かされているかのように王太子の演説は続く。


「そして、私ヘンドリックの新しい王太子妃は、今後はこちらのクラーラ嬢とすることを発表する。その上で、こちらのクラーラ嬢を不当に迫害した罪及び殺人未遂の罪でソフィエ・ファン・ライデンを私は弾劾する。」


会場は今度はどよめきに包まれた。ライデン辺境伯家はオラニエ王国でも三本指に入る大貴族で、王家といえど簡単に罰する事ができる貴族ではない。そしてクラーラ嬢は確かに美人ではあるが男爵令嬢であり、王太子の正妃としてはありえない地位の低さだった。

クラーラ嬢は「え、私が?信じられない」と戸惑った表情を今は浮かべている。だがその前の婚約破棄を発表した時、巧妙に羽扇子で顔を隠していたが、ニヤリとしたその表情を私は見逃さなかったぞ。この女狐め!


お嬢様の近くで起立していた同級生は、関わり合いになりたくないとばかりに、私たちから少し距離を離している。お嬢様は現在進行形で周囲からの好奇の視線を集めていた。私は黒髪をかきあげて一歩前に出ると、それらの視線を防ぐためお嬢様を背に庇うように立った。

そこで貴賓席にいる学園長から声があがった。


「殿下。そこまで言うからには何か証拠がおありで?」


「先日、クラーラ嬢が階段から何者かに突き飛ばされて怪我をしたようだ。後ろ姿ははっきり見えなかったが、ソフィエにそっくりだったそうだ。

そして一昨日はとうとうこのクラーラ嬢の食事に毒が盛られていたのを、私は確認している。幸い回復したが危ういところだった。しかもこれが初めてではないのだ。そして今回は、ソフィエが毒殺を指示したと思われる書状も厨房のゴミより発見された。

そこの毒婦は決定的な証拠こそ残さなかったようだが、ここまで状況証拠が揃えば犯人は一人しかいない。

ソフィエは私の寵愛を失うのを恐れてこのような暴挙に出たのだろうな。だが、このように気品と知性を備え心の優しいクラーラ嬢に、このような仕打ちをしでかすソフィエを到底私は許すことができない。」


結局、証拠はないという事か。

王太子は随分と興奮している様子で、学園長はそれを察してそれ以上の追及を避けたようだった。一方、王太子は自身がソフィエお嬢様が犯人である理由を説明したのに、会場がソフィエお嬢様を糾弾する空気にならないのが大層不満な様子だ。証拠というが、ただの状況証拠だけだろう。当たり前だ!

両脇の教師たちも事前にこの流れを聞いていないのだろう。おろおろとしてどう事態を収拾していいかわからないようだ。王太子のやることに反対もできないが、ライデン辺境伯家も大貴族である。王太子のいうことを鵜呑みにして、後日ライデン家に睨まれたくもないのだろう。王太子のいう通りであれば学園の管理責任が問われるということもあるかもしれない。


淡い水色のドレスに包まれたお嬢様が私の肩に手をかける。そうでもしないと崩れ落ちてしまうのだろう。手が震えているのが肩越しに伝わってくる。なんとおいたわしい。お嬢様は王太子に非難されるような事など、何一つしておられないのに。


だが、私の身分で王太子とお嬢様の直接の問答に割って入る事は許されない。それをしてしまえば、お嬢様を更なる窮地に追いやるだろう。


周囲を見回すが、今のところはっきりと敵対する意志を示しているのは王太子とその取り巻きだけだが、逆に表立って味方してくれる者もいなそうだ。お嬢様も反論できる状態になさそうだし、このままここにいると面倒な事になりかねないな。


「お嬢様、一旦ここは引きましょう。それともここで王太子に反論なされますか?」


ソフィエお嬢様は黙って首を振った。

ならば、と私はお嬢様をつれて卒業式会場を出ようとする。すると壇上の王太子が


「待て、逃げる気か!?それとも罪を認めるというのか?」


「お嬢様の体調がすぐれないようなので、失礼ながら私が代弁させていただく。

このような席で、このような侮辱を受けることをお嬢様はしておらぬ。この件は後日、ライデン辺境伯家より王家に正式に抗議させていただく。今日のところはこれで失礼させていただく!」


お嬢様の手が、私の肩をぎゅっと掴んだ。

「待て!逃げるな!罪を認めていけ!憲兵隊を呼べ!」などと背後の方で王太子の喚く声が聞こえるが、私はそれらを全て無視して、お嬢様への不敬を承知で、腕をとり背をささえた。周囲を鋭い視線で牽制しながら、会場から今にも崩れ落ちそうなお嬢様をなんとか連れ出した。

出口で預けていた剣を受け取ると、外で待機していた配下の者に事情を説明し、辺境伯邸に早馬を出すように伝えた。そしてライデン辺境伯家の馬車にお嬢様を乗せ、自分も同乗すると王都の辺境伯邸に急ぐように御者に指示した。


馬車が敷地内から出て、しばらくすると憲兵隊とすれ違った。向かっているのは学園の方向だ。こちらに逮捕されるいわれはないし、直ちに逮捕されるとも思わないが、万が一そうなっていたら面倒なことになっていたかもしれない。同時に王太子の手際の悪さも感じた。行き当たりばったりだったのだろうか。

窓の外では王都の華やかな街並みが過ぎ去っていく。馬車が石畳を走るたびに、車内は小さくガタガタと揺れた。その揺れの向こう側で微かに聞こえる


「どうして…?私が何をしたって言うの?」


ふと馬車内を見るとお嬢様が馬車の中ですすり泣いていた。侍女がそれを肩を抱いて慰めている。くっ。

まずクラーラ嬢…あの女狐だが、色目を使って王太子に近づいているという噂もあり、ここ最近の学園内での怪しい空気は感じていた。しかし彼女は男爵令嬢で、王太子とは身分が違い過ぎるはずだ。

正妃を迎えると同時に側妃や妾を迎えるのは、褒められた事ではないが前例がないこともなかった。ただ身分差もあることだし、あって側妃かと思っていた。まさか卒業式で王太子がこのような暴挙にでるとは…不覚だった。


お嬢様は王太子と同年齢だったこともあり、王太子と6歳で婚約し王妃教育を受けてきた。12歳でこのオラニエ学園の中等部に入学。私ことディルクもその3年後、15歳の時にお嬢様の第一騎士としてオラニエ学園の高等部に入学し、お嬢様とこの学園で3年間ともに学んできた。

お嬢様はこの学園の正規の授業だけでなく、王妃教育や王妃にふさわしい人脈を築くため日々努力してこられた。それは一番近くで見てきた私が一番よく知っている。

だからこそあのような場所であのような侮辱を受け、今までのお嬢様の努力を無にするどころか、踏みにじるような扱いをされたことが悔しくてたまらない。


「ディルクもごめんなさいね。こんな私のために苦労をかけて。」


私は黙って首をふった。お嬢様になんと言葉を掛けていいか分からなかった。


ここまで少し急いでいた馬車だが、辺境伯邸の鉄製の門をくぐると、やっと落ち着いたかのようにスピードを落とした。

そこには広大な庭園に囲まれた壮麗な石造りの邸宅があり、門柱に刻まれたライデン家の紋章が、夕暮れの光を受けて鈍く輝いている。

玄関近くで馬車が止まるとすぐに玄関の扉が開き、既に連絡がいっていたのだろう辺境伯その人がお嬢様を迎えるために飛び出してきた。私はお嬢様をエスコートして馬車から降ろすと、途端に辺境伯がお嬢様を抱きしめた。

私は辺境伯に向かって膝をつき、頭を下げた。


「辺境伯。私がついておりながら、お嬢様をこのような目に遭わせてしまいお詫びの言葉もありません。」


すると辺境伯お嬢様を抱きしめたまま頭を撫でながら、


「よい。この度のことはわしも読めなかった。王太子がここまで愚かとはな。王家を厳しく糾弾せねばなるまい。むしろ、ソフィエを無事に連れ帰ってくれてよかった。ディルクも後で呼ぶゆえ、一旦休むがよい。」


「かしこまりました。」


くっ、王太子め――お嬢様が受けたこの屈辱。決して、許しはしないぞ。

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