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荒鷲、西の空を舞う  作者: ひえん
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第23話 海峡上空の空戦奇譚

 ドイツ軍内では大きな問題に頭を抱えていた。

 それは今後実施されるであろう英本土上陸作戦である。最大の関門は世界有数の戦力を有するロイヤル・ネイビーの排除である。だが、それをもしもなんとかできたとしても、もう一つの大きな問題があった。それは揚陸と輸送である。現時点ではイギリス本土攻略に必要な兵力を送り込むにはとにかく船が足りないのであった。特に大型の船舶はそう簡単に量産できる物ではなく、主要な造船所はどこも新造艦と整備、修理中の艦艇の面倒で手一杯である。代わりに空挺降下という案が出たが、航空機の搭載能力は極めて限定的である為、一時しのぎにしかならない。それに空挺降下は降下時の事故で兵員や装備を損耗するリスクも大きい。

 この問題を担当する部署は連日猛検討を続けていたが、うまい解決案が出てこない。そして、米国で新たに建造された船舶に関する報告書を見ていた士官が妙案を思いついた。


「そうだ!ブロック工法でパーツを大量生産し、現地で大型ボートを組み立てさせよう」


第二三話 海峡上空の空戦奇譚


 ポーツマス沖のイギリス海峡上空、今現在ここではイギリス空軍とドイツ空軍による空中戦が発生していた。ただ、その状況は複雑であった。それが何故かというと、輸送船団を襲うJu87と迎撃に飛び上がったデファイアントが空中戦を始めたものの…デファイアントは銃座が効果的に射撃できる位置を目指してひたすら動く。しかし、Ju87はそれから逃れる為にジグザグに飛んで逃げ回るという事がただ続くからであった。こうして、この追いかけっこがひたすら長引いて決着がつかないのである。


「ああ…まどろっこしい」

「こりゃ駄目だな」

「増援が来たから楽できると思ったんだがなあ…どうするよ、小隊長?」

「連中の鼻先を叩いて引っ掻き回すぞ。よし、行こう!」


 この奇妙な空戦を見かねた3機の九七戦は状況を打破すべく動いた。場数を踏んだ彼らは以心伝心、小隊長の短い指示で素早く的確に動く。

 まず、左旋回を続けるJu87の正面側に回り込む。そして、機銃弾を敵編隊に浴びせながら交差する。正面からの攻撃をいきなり浴びた敵機は反射的にバラバラと回避、その結果として敵編隊は崩れた。そして、その後ろでJu87を追っていたデファイアントの銃座が回避運動で横っ腹を晒した敵機を狙う。タイミングを見計らい、銃座に据えられた四連装の7.7mm機銃が猛然と火を噴いた。そして、飛び出した曳光弾はJu87の胴体側面に突き刺さる。その刹那、デファイアントのパイロットは敵機の胴体側面から破片が飛び散り、風防が赤く染まる瞬間をしかと見たのである。そして、その被弾したJu87はグラリと傾き、そのまま錐揉み状態となって落ちていく。他のデファイアントもそれぞれ敵機に向けて銃撃を始めていた。そして、運悪くこの攻撃をまともに受けたJu87の内、2機が撃墜、更に2機被弾した。しかし、デファイアントの攻撃もここまでで終わり、残りの敵機は撃ち漏らした。

 だが、この結果によって残ったJu87は爆弾を捨てて大陸方面へ遁走を始めた。損害に耐えきれなくなったのだ。こうして、輸送船を守る目的は達成することができたのである。

 だが、第700中隊第2小隊の九七戦3機はホッと一息ついた所で何かに気付く。


「おい、あっちからBf109が来るぞ!」

「いや、こっちじゃない…味方を狙っている」


 先ほどまで離れた場所で空戦していたBf109の一部がこちらの方へと突っ込んでくるのが見えた。機数は2機。針路から察するに彼らの狙いはデファイアントである。複座のデファイアントは一般的な単座戦闘機よりも重く、運動性に劣る。軽量身軽な単座戦闘機にとってはまさに絶好の獲物である。そんな彼らはスピットファイアを諦めてJu87の敵討ちに来たのであろうか、それともデファイアントの方が落としやすいと踏んで空戦を抜け出したのだろうか。どちらにしろ、ここで阻止せねば味方が危険だ。


「よし、食い止めるぞ」

「デファイアントの中隊へ、Bf109が2機。そちらに向かってるぞ!」

「何?くそ…あれか、退避する!」

「了解、こちらも援護する」


 デファイアントの中隊は慌てて針路と高度を変更。Bf109に対して背後を晒す、逃げる為だけでなく銃座の射界を確保する為である。そして、その銃座は一斉にBf109へと銃身を向けた。しかし、Bf109は臆することなくそのまま進む。一度やり過ごせばそのまま格闘戦で叩けると踏んでいるようだ。まだ九七戦には気づいていない。


「真横から仕掛ける」

「任せろ」


 軽く降下し、速度を付けながら九七戦3機がBf109へと飛び掛かる。そして、そこでやっとBf109が九七戦に気付いた。2機のBf109は一斉に急降下、速度を付けて逃げていく。こうなると追い付くのは難しい。敵機が離れていくのを見届けると、3機の九七戦は第1小隊に合流すべく移動を開始。さて、空中戦はどうなっただろうか、小隊長は無線を飛ばした。


「中隊長、そちらの状況は?」

「ああ、敵さんたちは諦めて帰って行ったよ。そっちは?」

「デファイアントがJu87を叩き落としたのが効いたのか慌てて逃げていきましたよ。こちらに損害無し」

「そうか、ひとまず合流して帰還しよう」

「了解」

「こちらアラワシ、敵編隊撃退に成功。我に損害無し。これから帰還する」


 第2小隊の九七戦は第1小隊のいる方向へと針路を向けた。


 眼下を走る輸送船団の航跡を眺めながら。


輸送船団を守り抜いた九七戦

今後の戦いはどう続く…


という事で更新です。

デファイアントがどう動けば活躍できるかなあ、と頭の中で動かしながら楽しみつつ書きました。

次回更新をお楽しみに

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