333件目 ミオとの会話
例によって、ナース服に着替えたボクは、初等部で仕事をした。
怪我人はやっぱりちょっと多くて、初等部の保健委員の子たちに、手当の仕方を教えたりしつつ、仕事をこなす。
しばらくすると、サッカーの三回戦目が行われる時間になったので、一度救護テントから離れて、体操着に着替えた後、グラウンドに向かったんだけど……
『『『棄権します!』』』
またもや、棄権されてしまった。
その結果、またしても不戦勝。
勝ちには変わりないんだけど……あの、すごく、微妙な気分なんだけど……。
ただ、クラスメートのみんなは、ボクとは違って普通に嬉しそうにはしてたけど。
そんなこともあり、再び手持ち無沙汰になったボク。
救護テントの方に戻ってもいいけど、それはそれでもったいないような気がする。
どうしようか……。
美羽さんたちもどこかにいるとは思うけど、『気配感知』で見る限り、普通に楽しんでるみたいなんだよね。
多分だけど、声優さんとして、こういった本物の学園を見るのは演技の参考になる! って思って、それで色々と回ってそう。
常に向上心が大事、って前に美羽さん言ってたからね。
いいと思います。
そうなってくると、これからどうするか、だけど……そう言えば、師匠に会っていない気がする。
家で顔を合わせたきりだよね?
ちょっと、会いに行ってみようかな。
「んーと……向こうかな」
こういう時『気配感知』が便利だなぁ、って思いました。
少し歩き、『気配感知』が引っかかった位置に到着。
師匠はどうやら、学園の屋上にいるみたい。
一応、学園内には入れるけど、万が一盗難があるとまずいということで、各教室は施錠されています。
ちなみに、屋上も本来なら行けないはずなんだけど……あの人、もしかして地上から屋上まで軽く跳躍して行った?
十中八九、そうなんだろうなぁ……。
教師なのに、普通にやっちゃいけないことをしているあたり、師匠って本当にマイペースだよね。
なんとなく、師匠とお話したいし、ボクも上に行こうかな。
周囲に人がいないことを確認したら、ボクは跳躍して、屋上に上った。
「ん、おお、イオじゃないか。どうしたんだ、こんなところで」
「ちょっと、師匠と話したいなぁと思いまして」
「そうか。お前、あたしが好きなんだな?」
「もちろんですよ。師匠は、ボクの命の恩人ですし、面倒見がよくて、なんだかんだで優しい人ですからね。あと、カッコよかったり。その……綺麗、ですから」
「お、おう、そうか」
あれ? 師匠、なんで顔を赤くしてるんだろう?
あれかな。ちょっと照れてるとか?
たまに、今みたいに可愛い反応を見せる時があるから、師匠ってずるいと思います。
「それで? 話がしたいと言ったが、具体的に何を話すんだ?」
「うーん、なんとなく師匠と話したいと思っただけですから、特には?」
「なんだそれ。……まあいい。じゃあ、あたしから適当に話でも振るか」
そう言うと、師匠は何か話題はないかと考え出す。
「ああ、そうだ。ちょっと前に、お前のステータスが気になってチラッと見たんだが、お前のステータス、それなりに向上してたぞ」
「え、ほんとですか!?」
「ああ。マジも大マジ。ちなみにだが、攻撃力に至っては、あと2増えれば、1000だな」
「え、えぇぇ……」
「あとは、魔力が一万になってたりとか」
師匠が言った、ボクのステータスの数値になんだか微妙な気分になった。
これが、向こうの世界に暮らしていて、最強になりたい! もっと強くなりたい! っていう考えの人なら手放しで喜ぶんだろうけど、ボクは平穏な生活を望むので、ハッキリ言って、これ以上上がらないでほしい、というのが本音。
目立つだけだもん。
むしろ、なんで強くなりたいのかわからないです。
強くなっても、戦いが無くなればほとんど意味ないのに。
「多分、あれだな。あたしがこっちに来てから、お前は度々『感覚共鳴』で能力やらスキルやら、魔法やらを習得していたからな。あとは、たまーにあたしとも組み手をしていたのもあるだろう」
「……全部、師匠が原因じゃないですか」
「そうは言うが、お前にとって必要なものだってあっただろう?」
「……ありましたけど」
一番必要だったのは『アイテムボックス』かな。
あれって、すごく便利だし……。
まあ、ボクのは、なぜか物を生成できちゃうんだけど。
「でも、組手はボクからじゃないですよね?」
「それは……あれだ。お前がたるんでないかの確認をだな……」
「こっちの世界では、向こうのように高い身体能力が必要になる事態なんて、ほとんどないんですよ? それに、ステータスって一度そこまで行ったら、下がらないんじゃないんですか?」
仮に下がったとしても、老化とか、弱体化してしまった時くらいだと思うし。
「いや? 下がるぞ?」
なんて思ってたら、ステータスは下がるそう。
え、本当に?
「お前がふっつーに生活している間、あたしは世界中を飛び回っていてな。その過程で、ステータスについて知ることができた。その内容を見た限りだと、ステータスは下がる。間違いない」
何でもないように言いつつも、どこか自信ありげ。
……あの、今世界中を飛び回ってるって言った?
「師匠、一体何してたんですか?」
「そりゃお前、ブライズ退治だぞ?」
「ブライズって、あれですよね? 体育祭の時に突然現れたあの黒い靄」
「そうそう。あたしはあれを野放しにするのがすっげえ腹立ったから、世界中を飛び回って潰して回ってたんだよ。あとは、ミレッドランドの奴らの保護とか」
「そ、そうなんですか……」
なんだろう。ボクが知らないところで、師匠がすごいことをしていました。
一体、いつから……って、体育祭の時だよね。
……あれ? でも、世界中を飛び回っていたのなら、平日の学園とかどうやって日本に……。
「師匠、あの……一体どうやって海外に……?」
「ん? まあ、飛行機を使ったりしてたぞ? ……最初は」
「……すみません。最初はって、どういうことですか?」
「いやな? いくら最強の暗殺者だとか、神殺しの暗殺者だとか、魔神とか、悪魔とか、魔王とか、世界一番ヤベー奴とか言われていたあたしとて、初めてのまともな職業。そして、しっかりした時間のルールがある以上、飛行機や船を使うってのは、ちと面倒でな」
師匠って、本当に今まで何をしてきたんだろう……?
魔神って……。
あと、世界で一番ヤバい人、っていう認識のされ方もしてたんだね。
「で、まあ、『空間転移』を使って、世界中をぽんぽんと」
「それ不法入国ですよね!? ぽんぽんと、って軽く言ってますけど、明らかに犯罪ですからね!?」
何してるのこの人!?
しかも今、『空間転移』って言ったよね!?
それって、読んで字のごとく、空間を移動するって言う、夢のような能力だよね!?
「別にいいだろ? 世界が割とピンチになるよりかは、不法入国なんて可愛いもんだぞ?」
「せ、世界が割とピンチって、あの……一体どういう……」
「そのままの意味だ。まあ、その辺の話は別にしてもいいか……。簡単に言うとな、ブライズの正体は、ありとあらゆるものが滅亡した地球の人間や動物たちだった」
「…………え?」
今、すごくとんでもないことをカミングアウトされたような……。
普通にサラッと言っちゃったから、自然に聞いてたけど、結構とんでもないことだよね?
「向こうではまあ……あくまで予測だが、とあることが原因でそこの世界の神が激怒。で、人類滅亡。その後は、神の手が離れたから魔力が有害なものに変化し、最終的にブライズが生まれた。ま、大まかに言えばこんなところだろう……って、どうした?」
「ど、どうしたって……驚きすぎてちょっと……。あと、それって、いつの話ですか?」
「あー、そうだな……たしか、お前が並行世界に行く二日前だな」
「あ、そ、そうなんですか……」
それって、割と最近な気が……。
ボクが並行世界に行く二日前って言うことは、四月の上旬だよね?
まだ、一ヶ月半くらいしか経ってないんだけど……。
「……あれ? でも師匠。なんで、ブライズの正体を知ってるんですか? あと、発生原因の方も」
「その世界に行ってきたからな」
「……はい?」
「だから、ブライズの世界に行ってたんだよ」
「え、えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」
い、いつの間にそんなことしてたの!?
ブライズの世界って……な、なんでそんなことに……。
「ちなみにだが、ブライズはもういない」
さらに驚きの情報が、師匠の口から発された。
ブライズ、もういないの?
なんで?
「なんで、という顔をしているな? ならば、話してやろう。実はな――」
と、師匠はブライズの世界についてのことを話し出した。
大雑把に師匠の言葉でまとめると、あまりにもウザすぎて消したくなった。学園長先生にブライズがいる世界を探してもらって、転移装置を創ってもらった。四月の上旬に乗り込んだ。ブライズの王様を倒した後、協力者の人が造った世界を消滅させる兵器を起動させて帰って来た。
「――とまあ、こんなところだ」
う、裏で本当にとんでもないことが起きてたんだけど!?
せ、世界消滅って……師匠、何してるんですか……。
しかも、そんな重大なことを今までボクに話してなかったし、なんでこんな平和な球技大会中に言うんだろう……?
話をしたいと言ったのはボクだけど、これはいささかインパクトが強すぎるよ……。
……そっかー、師匠、神殺しだけじゃなくて、世界破壊もしちゃってたんだ……。
…………うん。どういうこと?
「ちなみにだが、その世界破壊の影響で、ブライズはもういない。絶滅した。その後は、再び世界を回って、残党を消して回っていたな。ミレッドランドの奴らも回収できたし、あたしの仕事はもうないってわけだ」
「……あー、だから師匠、四月の下旬くらいから、休日に家にいることが増えたんですね」
「ま、そう言うことだ」
「……あと、なんだか見たことがないお酒があったのも」
「………………な、なんのことだかわかりかねるなぁ?」
ボクは知っています。
師匠の部屋には、大量のお酒があるということを。
そして、ボクが師匠の部屋を訪れる時、毎回バタバタして、散らかっていたであろう物を全てクローゼットか『アイテムボックス』に詰め込んでいることを。
できればもっと、生活面の方もしっかりしてほしいんだけどなぁ……。
「お酒を止めはしませんけど、ほどほどにしてくださいよ?」
「わかってるよ。というか、『猛毒無効』を持ってるあたしからすりゃ、酒なんて自分から効力を弱めようとしない限り、酔っぱらわんし、アルコールは残らん」
「そうは言っても、体にいいわけじゃないんですから、ほどほどにしてください」
「へいへい。まったく、こういう面ではあたし以上に強いんだもんなぁ、イオは」
「むしろ、そこしか師匠には勝てませんけどね」
「そりゃそうだ。なんてったって、あたしは世界最強の神殺しだからな!」
「ふふっ……そうですね」
師匠はずーっとこんな調子なんだろうなぁ、なんてふと思った。
きっと、死ぬまでこんな風に接してくれるんだろうなぁって。
師匠はまだまだ寿命が長いらしいから、きっと、ボクが死ぬ時も今のままなんだと思う。
師匠より先に逝ってしまう弟子って言うのも、なんだか嫌だね……。
できれば、師匠よりも長く生きて、師匠に看取られるんじゃなくて、師匠を看取る側になりたいものです。
……まあ、解呪の影響で寿命が元の人間くらいになってるみたいだけど。
あ、でも、魔力が増えていたみたいだし、ちょっとは延びてるかも。
それでもきっと、師匠よりは短いんだろうけどね……。
「ん、どうしたイオ? そんな暗い顔して」
「いえ、ちょっと未来のことを……」
「ははっ、そうか。未来か。……ま、あたしはずっと見守ってやるから、安心しな」
「……っは、はい」
もしかして、ボクが思っていたこと、師匠にはお見通しだったのかな……?
多分、そうなんだろうなぁ……。
だって、師匠って何でもありだから。
「さて、と。ちと長話もしすぎたみたいだし、あたしも一度仕事の方に戻るかね」
「師匠、今って仕事中だったんですか?」
「いや? ただの休憩だよ。まあ、イオと話しすぎて、ちょいと十分くらい遅れたが」
「うっ、す、すみません……」
「いやいいんだよ。世の中にあるどんなことよりも、お前との会話の方が、あたしは大事だしな」
「そ、そそ、そうです、か……え、えへへ……」
真正面からそう言われて、つい嬉しくなる。
こうやって、大事に思われているのって、すごく嬉しいし、すごくあったかくなる……。
ボクは、師匠みたいな人になりたいなぁ……生活面以外はだけど。
「そんじゃま、あたしはそろそろ行くぞ」
「あ、はい」
「じゃ、またあとでな」
そう言って、師匠は屋上から飛び降りていった。
……普通に考えたら、今の光景って大事件だよね、って思ったけど……ボクも似たような物なので、お互い様だよねと内心苦笑いした。
どうも、九十九一です。
久しぶりに大き目の章でちょっと長めに書いている気がします。ただ、私自身がスポーツが好きじゃないこともあって、地味に書くのが大変。体育祭だったらまだマシなんですが……どうにも、球技限定だとちょっと……。
それから、やっと終盤の土台ができました。初期の頃に考えていた物をベースに、今まで書いてきた伏線になってしまっている部分を加えて、この作品の終盤部分の土台が完成しました。正直、かなりシリアスになりそう……。
例によって、二話投稿についてはいつも言っている通りですので、よろしくお願いします。
では。




