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まずは友達から

「お、お前、人間の血を飲まないと決めてたんじゃないのか!」


 ルーシーは慌ててクラウディアをユートから引きはがそうとした。

 しかし、老婆から少女の姿に戻ったクラウディアの身体能力は何倍にも上がっている。

 ルーシーが引っ張ったところで、両手足でクモが獲物をがっちり掴むようにユートに抱き着いているクラウディアをはがすことはできない。

 さすがのユートも背後を取られた。そして血を吸われようとしている。

 ルーシーは必死に引きはがすことを続ける。

 もしかしたら、ユートを上回る力をクラウディアはもっているのではないかと不安になる。


「止めてください、くすぐったいですよ~」


 しかしルーシーの不安は徒労に終わった。

 ユートに危機感はこれっぽちもない。まるで猫とじゃれ合っている体である。


「はれ?」


 またまた間抜けな声を上げたのはクラウディア。

 首筋に噛みついたのに止めてしまった。

 それどころか、手で自分の八重歯を確認している。

 ユートの首筋には2つの噛み傷が付いている。

 確かに吸血鬼の牙で噛まれた跡だ。血も少し滲んでいる。


「ない、ない、ない……牙が……」


 クラウディアはへなへなと座り込んだ。


「吸血鬼から元に戻ったのですわ。元の人間に戻れた~っ」


 両手を天に突き上げてそう叫んだ。歓喜の涙である。

 クラウディアは大魔王から2つの強力な呪いをかけられていた。

 1つは老化の呪い。

 クラウディアはこの呪いで100歳の老婆へと変えられた。

 そこで時は止まり、300年も100歳の体で過ごしてきたのである。

 これは精神的にも肉体的にも耐えがたい苦痛であった。

 そして2つ目は吸血鬼化。

 定期的に人間の血を飲まないと体が維持できない。

 そして血を飲むと徐々に心は魔族へと変わる。

 自分を見捨てた人間への恨みと血の誘惑で魔族の一員となるはずであった。

 しかし、クラウディアは耐えた。

 人の血はトマトジュースで代用。定期的に飲めば喉が渇くことはなかった。

 トマトは城のガーディアンとして創作したスケルトンやゴーレムに命じて作らせていた。

 古城の中庭には畑や温室が作られ、年中トマトが収穫できるようになっていた。

 自分を退治しようとやってきた冒険者は、ガーディアンで追っ払った。

 それでもしつこい冒険者は、クラウディアの魔法で遠くへ飛ばした。

  自分を殺そうとする強力な冒険者だけと戦い、時にはワープの魔法で遠くへ飛ばし、どうしても無理な場合だけ死力を尽くして戦った。

 先ほど襲ってきたワイトはその冒険者のなれの果てだ。


「大魔王は私に呪いをかけるときにこういったのですわ。老化の魔法は強力な解呪があれば取り除けるが、吸血鬼化の解呪は2つしかないと。この大魔王アトゥムスの血を飲むか我と同等かそれ以上の者の血を飲むしかない。それは不可能と言うことと同義だと……でも、いたのですわ」


 クラウディアはそう言ってユートの手を握る。

 クラウディアの方がユートよりも小柄である。


「この大魔導士クラウディア・マナウス。12歳。今日から、あなた様の押しかけ女房になります!」

「ええええええっ……」


 ルーシーは予想斜め上の展開に思わず叫ぶ。


「ど、どうしてそうなる!」

「だって、あなた様は私を永遠に苦しめる2つの呪いから救ってくださったのですわ。それに吸血鬼の呪いが解けたということは、あなた様は大魔王と同等の力をもつということ。もうこの身も心もユート様に捧げるしかありません!」

(おいおい……お前の呪いを解いたのは勇者のしょん……聖水のおかげじゃないのかよ!)


 ルーシーはそう突っ込みたかったが、グッと言葉を飲みこんだ。

 これ以上、物事をややこしくするのは御免こうむりたい。


「お断りします」


 そんなルーシーの葛藤はつゆ知らず、きっぱりとユートは断った。

 あまりに一刀両断でクラウディアはきょとんとした。冷たい風が二人の間を流れていく。


「そ、そんな。お願いします。クラウをあなた様のお嫁さんに……」

「無理です」

(が~ん)


 へなへなと崩れ落ちるクラウディア。

 しかし、300年も吸血鬼として生きてきた彼女がこんなことでへこたれるわけがない。


「そうですわ。私はまだ12歳。あなた様も13歳。これではまだ夫婦になるには早すぎますわね。では、彼女と言うことで……」

「それも無理です。僕はアリナ様にすべてを捧げていますから、彼女さんは不必要です」


 またへなへなと座り込む。だが、それでも立ち上がるクラウディア。


「では、まずは友達ということでどうです?」

「ふ~ん。友達ね……」


 ユートが考えている。

 これは手ごたえありだ感じたのかクラウディアはほくそ笑んだ。


「いいですよ。では、友達ということで。あ、ついでにルーシーさんも友達です」

「ついでかよ!」


 不本意ながら、ついでと言われてルーシーも友達認定されてしまった。

 突っ込みをを入れつつ、ルーシーはこの展開にまた違和感を覚える。


(ユートは突っ込まないけど、300年前の勇者一行に付き従った大魔導士が12歳の子供というのはどうなんだ。そしてこの馴れ馴れしい態度……。)


 どうも怪しい。

 それにクラウディアはこの300年の間。自分に呪いをかけた大魔王と見捨てた勇者を恨み続けていたと言っていた。

 その大魔王は倒され、勇者も寿命で死んだ。

 恨む対象が消えたから、恩人になるユートに押しかけ女房宣言……いや、今は押しかけ友達になってしまったが、そんなにちょろい奴には思えない。


(これは何かあると思った方がいいな。こいつ、300年以上生きていただけあって、強かだぜ……)


 そうルーシーは思ったが、クラウディアがユートに絡むのは許容した。

 クラウディアも大魔導士で人間を超越した力をもつ。

 ユートと同じで見た目子どもだけど、敵対してはいけない人物だ。

 そういう奴同士でつるむ方がルーシーのような一般人に迷惑がかからない。


「何なら、私も勇者の付き人になるのですわ。その隣の女もどうせ同じでしょう」


 そうクラウディアはルーシーを睨みつけた。

 どうやら、ルーシーをライバル視しているようだが、ルーシーとしてはたまったものではない。

 300年も生きた元吸血鬼で大魔導士。今も強力な魔法がバンバン使える奴と何か争う気持ちはこれっぽちもない。

 それにルーシーにとってユートは恋愛対象でもなんでもない。

 あえて言うなら恐怖の対象。

 とりあえず傍にいればボディガード代わりになっているが、いつ巻き添えになってもおかしくはない。

 クラウディアの申し出にユートも賛成した。

 アリナの世話は自分一人で十分であるが、パーティ全体となるとかなり忙しい。

 ルーシーが加入して随分と楽になったから、クラウディアが加入すれば、もっと楽になる。その分、アリナにきめ細かく仕えることができると考えた。


「分かりました。アリナ様に頼んでみます。これからよろしくクラウディアさん」

「クラウでいいです。ユート様」


 さりげなく「あなた様」から名前呼びをするクラウディア。この女、旦那は「様」付けで呼ぶ貞淑な妻を演じたいようだとルーシーは心の中で毒づいた。


「それじゃあ、クラウ。君の持っているエリクサーを分けてください」


 ユートはそう頼んだ。

 いろいろあったが、ここへ来た目的は勇者アリナを完全復活させる魔法の薬『エリクサー』を手に入れることだ。


「はい、ユート様。エリクサーをお渡しするのですわ。一緒に来てくださいます?」


 そういうとクラウディアは古城の宝物庫へとユートとルーシーを案内した。

 宝物庫には金貨が山ほど積まれ、そしてところどころに貴重な魔法のアイテムが拝見される。


「すげえ……これだけあれば超金持ちじゃん!」


 ルーシーは大興奮するが、くすねることは断念した。

 ユートもクラウディアも絶対見逃さないし、罰を与えられたら絶対に死ぬ。

 この2人の能力は人間を超越している。そして考え方も倫理観も少しおかしい。


「はい、これですわ」


 宝の山からクラウディアは赤い液体の入ったガラス瓶を取り出した。


「これがエリクサーですか?」


 ユートは目を輝かせた。これがあれば勇者アリナは完全復活する。任務はとりあえず達成だ。


「材料があれば私が調合することもできるのですわ。私は大魔導士でもあり、薬師でもあるのですから」


 大魔導士であり、薬の調合師でもあるクラウディアはそう自慢した。

 300年の間暇だったので、薬の研究も随分してきた。

 別の部屋には薬の材料となる薬草や鉱物がたくさん保管してある。


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