85話 変化?1
➖津堂家➖
–伊月視点–
いつの間にか気絶していたらしくお袋が学校まで迎えに来てくれた。迎えに来た際にお袋は「欲望に忠実になり始めてない?」と言われた。緋華と一緒にされても困るから全力で否定したが「アレで気絶するのは相当だと思うけど」と言われてしまったら何も言い返すことが出来ない。雨歌にあんな声で言われて襲わない奴なんていないだろう。意識を飛ばした俺は偉いと思う。
緋華と同じになり始めていないか? いや俺と緋華は絶対に違うから雨歌を襲う訳はない筈だから同じになり始めてはいない。俺は雨歌のことをストーカーとかしていないし、隙があれば襲おうともしていないから理性があるからアイツより絶対にマシだ。・・・考えても特に意味がないからやめてソファーにでも寝転がろうか。
「アンタ、またウーくんの首絞めてないでしょうね?」
「またって起きない時以外は使ってないぞ」
「違うわよ。直接に決まっているでしょう」
「何言ってんだよ」
「覚えていないの?」
はぁ? 俺が直接雨歌の首を絞めたことが……あるな。いつだったか、ちゃんとは覚えていないが雨歌と仲良くなっていって3年くらい経った時か。俺の部屋でおすすめのゲームを一緒にやっていた時に「やっぱり伊月くんと一緒は楽しい」と雨歌が言ったのを聞いてから喉が妙に渇いて飲み物を飲み干したのにもかかわらず喉が渇いた。雨歌のことを出来るだけ見ないようにしていたが「顔赤いけど大丈夫?」と覗き込まれた。
覗き込まれた後のことはしっかりとは覚えていないがお袋がお菓子を持って入って来てくれなければ絞め殺していたって言われた。ただ雨歌の苦しそうな顔を見て俺の表情は歪んでいたとは思う。何故お袋に言われるまで忘れていた理由は全く覚えていないがおそらくショックだったんだろうな。その時からなのか雨歌を好きだったのは。いやぁ~思い出してみると俺さ、その一件で雨歌に嫌われていてもおかしくなかったよな?
「お袋……雨歌はさ」
「どうしたの」
「天使だな」
「・・・人妖学はしっかり学びなさい」
お袋はもうコイツはダメかもしれないという目で俺を見てきた。なんだよ緋華だったら俺の言葉に首が取れそうな勢いで頷いてくれるぞ。なんて考えていたら「ウーくんが天使なのは当たり前でしょう。アンタみたいな子と一緒になってくれるんだから」とお袋がいいながら炊飯釜で頭を軽く叩いてきた。マジで痛いから本当にやめて欲しい。
「これ呼んでおきなさい」
お袋に何かの記事を渡されてリビングからつまみ出された。とりあえずは部屋で読むとするか。しかしお袋はなんで今さら、3年前の記事なんて渡してきたのか不思議だな。
➖津堂家(伊月の部屋)➖
俺はベッドに寝転がりながら3年前の記事を読む。他種族同士の結婚に関して書いてあり、様々な人達の結婚話がまとめられていた。記事の内容を簡単にまとめると、上手くいっている夫婦は《お互いにしっかりと話し合うことが大事》にしているらしい。上手くいっていない夫婦は《種族特性を理由にしている》のか。雨歌と緋華に今度しっかりと話を聞いておいた方がいいな。
「何してるの?」
「なんで入って来てんの!?」
「プレゼント渡すついでに大丈夫かなって」
「一人ではないよな?」
「紫音さんが送ってくれた」
何やってんだよアイツは。雨歌は紫音のこと嫌いって言ったりしているけど、仲はいい方だよな。まぁ別に俺には関係ないからいいけどさ、緋華の兄貴ってことだけは忘れずに警戒はしているのかどうかが心配ではあるな。緋華と違って自分を制御できるやつなので問題はないが……憧れを今でも恋と勘違いしているような奴だから気を付けておかないとな。どうなるか分からないことを考えるよりも今はプレゼンが気になる。
「何を買ってくれたんだ?」
「はい、どうぞ」
雨歌からプレゼントの箱を受け取り包装を綺麗に剥がして中身を確認する。プレゼントは何も入っていなかった。俺って嫌われているのかと思ったが「ちょっとしたイタズラです。プレゼンとは手作りで作ることにしたから」と言って笑った。その瞬間昔のような何かが込み上げてくるがなんとか抑え込んだ。流石に今首を絞めに行こうものならお袋や雨歌の家族が黙っていないだろうな。
厄介な特性だな本当に。俺はハーフだから何も問題はないと思っていたのに何故今日自覚してしまうんだよ。お袋に色々と対策を聞くのは少し……物凄く恥ずかしいが雨歌と離れるのは嫌すぎるからちゃんと聞いておくか。教えてくれない場合は緋華に素直に話してそういう時は力づくで止めてもらおう。
「伊月、もしかして首を絞めたくなったの?」
「・・・どうしてわかった」
「最近はなかったけど、前は結構顔に出てたよ」
顔に出ていたのを何故教えてくれなかったのかはあえて聞かないでおこう。気になるのはなるからやっぱり聞いていた方がいいのか。雨歌は「伊月がさっきみたいな顔をしている時に絞めていいか? って聞いてきたから」と真顔で言い放った。雨歌は意味が分かっていなかったらしく俺の聞いた質問に対して「良いよ」と答えてしまったらしい。
「その節はすいませんでした」
「別に気にしていないから大丈夫だよ」
「責任取って嫁にもらうから」
「男だって」
少しだけ話してから雨歌を帰らせた。お袋は晩ご飯を食べて行ってもらいたかったそうだが俺が我慢できないから帰らせたと言ったら納得してくれた。あと、避妊はしないと言われた。雨歌は妊娠しないとは……言い切れないな。一応人間らしいけど、本当かどうかはわからないから調べてもらおうか。
・・・そういえば雨歌の苦しそうな顔をまた見たいと食事中に思っていたことは秘密だな。




