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84話 居残り1

➖教室(1-1)➖

 緋華さんが飛び出した後、伊月とリム先生と僕で職員室に戻って状況を説明した。ショー先生は少し疲れた顔をしながら「助かった」と言ってくれて僕達を教室に帰された。一時間目は自習になっていたらしく、水原先生が持ってきた激ムズプリントを書かされていたそうだ。砂孤さんから教えてもらった。それからは別に何事をなく普通に過ごせていたが忘れていたものがあったことに気がついたのは放課後になってからだった。


「最悪だよ」

「喋っている暇があるならしっかりとやれよ」

「多すぎるよ」

「人妖学だけは最初から手伝ってやるよ」


 なんとか反省文は終わったが、伊月から今朝もらったプリントを一切手を付けていなかったことに気が付いて放課後急いで取り掛かるも30分で撃沈してしまった。伊月が全部手助けしてくれたらよかったんだけど「出来るとこまでしないと意味がないだろうが」と言われたので渋々一人でやっている。人妖学とは人外と妖怪のことが学べるものであるが物凄くややこしいし面倒なものが多いので、多くの生徒が嫌っているのである。


「てかさ……僕に出されたのってみんなの倍でしょ」

「人妖学だけは……な」

「みんなと同じでいいのにさぁ」

「お前はマジで人妖学だけは勉強しろ」


 そういえば人妖学の担当先生も同じことを言っていたような気がするなぁ。なんでかは知らないけどクラスのみんなもそれに頷いていた筈。人間は特に学んだ方がいいとされているらしいがその理由は身を守れるからだそうだ。それのせいで世界規模で人間が起こしている事件が問題視され始めたって話を聞くからなぁ。まぁその事件って多種族も関わっているので人間だけが悪いって訳ではない。


 事件のことは僕には関係ないって訳でもないだろうから覚えておいたけど、こんな覚えることが多いのを学ぶのは学生の時だけで十分だよ。護身にはなる程度で覚えておこうっとは思う。今回起きたことが特殊過ぎて次は起きないとは思うけどね。結局は人も他の種族も怖いものは怖いから何しても同じだとは思う。やっぱり人妖学を覚えるのはやめておこう。


「おい、お前まさかやめる気はないだろうな?」

「ないよ。どっちにしろしないといけないし」

「・・・これはお仕置きだな」

「はぁ?」


 伊月がやめる気があるかどうかを聞いてきたのに何故にお仕置きされるのさ僕。プリントを書くのをやめないってことを伝えたのにそれは理不尽じゃないですか。しかも結構ブチギレな感じだしコレは逃げないといけないような気がする。どうやって逃げようか? いやそれよりもこれって緋華さんと今朝やったのと似たようなことになるのでは? 逃げるか逃げないかってのはやったね。


「やめようと思っていたのは人妖学であっ———ぶない」

「チッ避けられたか」

「何しようとしてんのさ」

「俺へのご褒美」

「・・・あっ!」


 伊月は僕と緋華さんが話していた内容を聞かれていたんだからそれについて欲しくなったのかな? まぁ別にあげてもいいんだけどさ、緋華さんの場合は留年するとか言っていたからそうするしかなかったからで伊月はそういうのは一切問題はないじゃん。伊月が欲しいご褒美って全く想像が付かないからあげようにもあげれないってのが本音だけどそうなこと言っても悲しむよね。直接聞———いやお仕置きじゃねえじゃん。


「伊月は何がいいの?」

「・・・・・・緋華と同じがいい」


 緋華さんと同じってどんだけ欲が無いんだか。誕生日とかであげるような物でもい……誕生日? 今ってまだ四月だよね? 僕は慌ててスマホで月を調べると5月3日となっていた。入院している間に伊月の誕生日が過ぎていたことに驚愕してスマホを落としてしまった。仲良くなってから一度も忘れたことが無かった伊月の誕生を二日も過ぎて気付くとは。


 ご褒美とか考えている暇じゃないじゃんか。こんなものはさっさと終わらせて伊月の誕生日プレゼントを買いに行こう。よし、物凄くやる気が出てきたから僕は「伊月、これ全部さっさと終わらせて買い物行こう」と伊月に勢いよく言った。伊月は「いいけど、涼音さんが迎えに……連絡入れとく」と言って母さんに電話を掛け始めた。僕は集中して終わらせる。

・・・一時間掛かってしまった。



➖正門➖

「もう動きたくないよぉ」

「お疲れさん、このまま帰るか?」

「無理だよ。伊月へのプレゼント買うから」

「ん? プレゼント?」


 伊月が僕と買い物を行くことを母さんに伝えたら、ついでに買い物に行くからと車で迎えに来てくれると言ってくれた。海兎が母さんと買い物をするから僕と伊月は二人で買い物をしていいとのこと。緋華さんは生徒会での仕事を罰として手伝わされていたので今回はなし。やっぱり勉強の後は甘いものが欲しくなるなぁ。ちょっとだけなら食べてもいいのかな? 晩ご飯が入らなくなるか。


「なぁプレゼントってなんだ?」

「贈り物だけど」

「分かってるわ。そういう意味じゃなくてだな」

「遅くなったけど君への誕生日プレゼントだよ」


 僕がそう言うと伊月は「忘れていたわ」と謎が解けたみたいに少しだけスッキリした顔で言った。忘れていたとかマジかよと思ったけども口には出さない。僕もすっかり忘れていたのでそれを言ってしまうとブーメランだから。どんなのがいいのか今のうちに決めておかないといけないなぁ。毎年色々と贈っているけど今年は婚約者になっている訳だし何か意味があるような贈り物をしたい。もちろん緋華さんにも今年から本格的にそういう意味合いのを贈ろうと思っていた。


 緋華さんにはイヤリングかいぬぐるみにするとして伊月には……時計かネックレスだね。時計は……おじさんからもらったって言っていたような記憶があるからネックレスにしようかな? まぁ別に時計にしても全然いいんだけど何個もあっても使うことはあんまりしないだろうからなぁ伊月は。そうだ忘れる前に言わないといけないことがあるんだった。


「伊月、しゃがんで」

「どうした?」

(誕生日おめでとう。だぁいすき)


 伊月の耳元でそう言って離れると、ボンという効果音が出そうなくらい一気に顔が赤くなりぶっ倒れた。それを見て僕は絶対に次は耳元で言わないようにしないといけないと思った。ちなみに伊月は帰ろうとしていた生徒数名に保健室に運ばれて行った。僕も付いて行きますと言ったが「君は帰りなさい」や「アレはダメでしょう」と男女の先輩に言われた。聞かれていたし見られていたみたいで少し恥ずかしくなった。


 おばさんに連絡を入れて、一応緋華さんにも連絡を入れた。そういえば僕が一人になってしまったけどいいのかな? 海兎に電話をして繋いでおけばいっか。母さんは運転中だろうし、スピーカーにしておけば聞けるだろうから事情を説明するか。


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