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76話 カミ5

➖病院➖

 昨日検査が終わりその結果が今朝出て、退院できることになった。夕方に父さんが迎えに来てくれるのでそれまでは病室でゆっくりすることにした。医師さんも「退院と言っても怪我は治ってないから迎えが来るまでゆっくりしているといい」と言ってくれたので荷物をまとめながらゆっくりしていた。腹に関しては激しい運動をしなければ痛くはないけど……左肩に関しては少し動くだけで痛い。


「右手は、違和感はあるけど痛くはないか」


 腹に刺さっていた剣を止める為とはいえ素手で触るものではないな。刃物は危ないってよく聞くから次からは色々と準備しておこうかな。なんて考えながら荷物をまとめているといつの間にか終わっていたので一息ついた後、肝心なことを思い出して少し嫌な顔をしてしまった。そういえば転校がどうちゃらこうちゃらって話があったなぁ。


 別に転校するのは良いんだけど、暴走しそうなのがいるのでそれが怖いってだけだしなぁ。二人の……特に伊月の下を離れて色々と出来るようになるいい機会ではあるんだけど。流石に駆け落ちやら監禁される可能性があるとなると流石に困るのは僕だけじゃないから気を付けないと。判断や言うセリフを間違えるとどうなるかが分からないからなぁ。僕には荷が重いよ。


「この件だけでいいから頭よくなる薬がほしい」

「ないなら作れば?」

「それが出来たら……何してんですか。緋華さん」


 学校にいる筈の緋華さんが何故かいた。持参したであろうお菓子を食べながら首を傾げていたのを見て、なんでこの人分かっていないのかと疑問に思ってしまう。よく見てみると口角が少しだけ上がっているのが分かったんだけどもあえて何も言わないでおこうかな。暴走を止める役目の伊月が今は居ない訳だし何か言って襲われても困るので言わない方が賢い。


「私と二人で駆け落ちしよう」

「えっ嫌です」

「答えは分かっていたけど即答は予想外」


 緋華さんは右で握り拳を作りながら「ぐぬぬ」と声に出しながら悔しそうにしていた。というか「ぐぬぬ」と言う人っているんだね。そんなことは別にいいとしてなんでまた駆け落ちなんて言い出したのだろうか? ただの気まぐれだったらいいんだけど、おそらく何かあるんだろう。僕が何かあるんだろうと考えていたら、お菓子をこちらに差し出しながら「あ~ん」と言いている緋華さんは物凄く無表情だった。僕の前ではほとんど無表情に近い顔だったけど、それよりも無に近い。


 何度か「あ~ん」で食べさせてもらっているんだけどさ、何故にそんなに無表情で居れるんですか。ケモ耳なので恥ずかしくて無表情なのかが分からないのはセコイ。僕は恥ずかしかったりすると耳が赤くなって伊月とかにからかわれるのにさ……本当にズルい。感情豊かな方ではあるんだろうけど、それでも分かりにくかったりする。いや今はそんなことよりもコレを食べるかどうかを考えないと。


「何か勝手に学校を抜けてんだ」

「ショー先生なんでここに……バレないようにしていたのに」

「お前が勝手に抜けるから迎えに来たんだよ」


 緋華さんはショケイくん先生改めショー先生に襟をガッツリと掴まれてそのまま引きずられて行った。連れて行かれるのを見ながら抜け出してくるのはダメでしょうと思った。抜け出してきても先生に捕まると反省文を書かされるんだろうなぁ。ちゃんと罰は受けないといけないからちゃんと助けてあげたりはしないでおこうっと。


「不澤、お前も反省文な」

「えぇ!?」


 急いで戻って来たのか、少しだけ息が荒くなりながら僕にそう告げる。何故に僕まで反省文を書かないといけないんだよ。僕は悪いことはしてないのに……していないよね? 唸っているとショー先生が「複数の生徒から申し出があってな」と申し訳なさそうに言う。なるほどコレは僕が何かをしたと言うよりも何らかの恨みを持った生徒を落ち着かせる為の行動なのか。


「今回の件もあるから全員ビクビクしているんだよ」

「分かりました。それなら仕方ない訳ないでしょう」

「・・・悪いとは思うんだぞ?」

「何故そんな奴らの為に僕が罰を受けないいけないんですか」


 ショー先生は髪が掻きながら「歳が高いほど種族差別をする輩がいてな。お前より優れているのに……」と話すのを途中でやめて出て行った。最後まで話しておいてほしかったけど、まぁ別に何か問題があるわけではないし問題は無いか。おそらく緋華さんか伊月を好きになった人が色々としようと目論んでいたのを阻止しする為にやったことか。


 推測だけで何かを決めるのはやめておくかな。伊月に学校で何か変化があるかを聞いておかないといけないけど、電話か会って話をしたい。・・・しかしなんでこう色々と巻き込まれるのかな? 呪われているとか本当になるんじゃないのかな。中学までは比較的平和だったのにさ、高校生になってから怒涛の命の危機ラッシュが来ている。ていうかショー先生に掴まれている筈の緋華さんが居なかったな?


「いやぁ~本当にヤバイね」

「“カミサマ”ですか」

「水臭いね。レンと呼んでくれ」


 まさかの病室のド真ん中に神様が降臨なさった。いやなんで? 別に神様に目を向けられるような人間ではないし、何もしていないんだよ。なんて思っていたら「これお見舞いね。美味しいカステラ」とニコニコしながらレン様? は僕にカステラを渡してきた。僕はお礼を言ったが正直言うとカステラはここ1週間の間に来てくれた人達全員が何故か持って来てくれていた。


「神共の中にはパラレルワールドの記憶を有している者もいる」

「どういうことですか」

「簡単に言えば君が狙われる理由だね」


 どういうこと? 狙われる理由と言われましても「はいそうですか」とは言えないですよ。確か伊月が昔話してくれたことがあったけど、それなのか。ある世界から分岐している世界って話だったような覚えがあるんだけども違うっけ? まぁあまり覚えていないのでいっか。えっとパラレルワールドの記憶を持っている神様がいるから僕が狙われるね。


「その神共は君を気にいってしまった」

「レン様はその一人ですか?」

「いや、残念ながらないね。それと様付けはいらないよ」


 神なら様付けはいるのではないでしょうか? まぁ本人がいらないって言っている訳だし付けなくていいか。神様に狙われているのならみんなと相談した方がいいか。レンさんは「そろそろ帰らないとマガちゃんに怒られるなぁ。忠告として1つ、君はこの物語の男みたいにならないようにね」と言いながらボロボロの本を渡してきた。タイトルは『ただのカミサマと翡翠(ヒスイ)髪の少女』というものだった。


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