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62話 お灸1

自宅リビング

 僕は確か伊月の膝枕で寝ていた筈なのに何故空の膝の上で寝ているの? と全く理解が出来ないままジッと空を見ていたら「雨歌兄さん、おはよう」と笑顔で言ってきた。とりあえず「おはよう」とだけ言って起き上がり、緋華さんと伊月を探す。リビングにはいないみたいなので帰ったのかな。時間はまだ16時か……あの二人なら帰っていないと思うんだけど。


「・・・雨歌、起きたか」

「伊月どうしたの?」

「少し疲れることがあってな」


 リビングに物凄く疲れている顔をしながら伊月が入ってきてドアから少し離れた所に立って居た。少しじゃあないでしょうが、伊月が猫背になっているのは珍しすぎるんだけど。寝ている間に一体何があったのかを緋華さんか兄さんに聞けば分かるかな。どうしようかと思っていたら伊月が「膝借りる」と言って僕の膝に寝転んだ。空は「ズルい……」と言いながらソファーから立ってリビングから出て行った。僕もソファーから立って伊月に近づいた。


「緋華さんは?」

「あ~知らない方がいい」

「う~か~くぅん」

「えっ!?」

「はぁ?」


 緋華さんがいきなりリビングに入ってきて僕に抱き着こうとするので反射的に近くにいた伊月を盾にして僕は避けた。そのまま二人は驚いた顔をしながら倒れていった。緋華さんが倒れたのは一瞬で速攻で立ち上がり僕にまた抱き着こうとしてきたので避けた。伊月は倒れたままで「流石にもう無理だぞ」と言いながら力尽きた。本当に僕が寝ている間に何があったのだ。


「なんで避けるの?」

「妙にテンションが高いですから」

「そんな警戒しなくても大丈夫だから一瞬で終わるから」


 ヤバイ人の目をしているんだけど誰か止めれないか。僕はそう思い距離をおくがじりじりと緋華さんは近づいてくるので距離は全く遠くならないので意味がない。万事休すと覚悟を決めたら力尽きた筈の伊月がゆらりと起き上がってきて緋華さんの頭を掴み「お前ぇ散々お灸を据えたよなぁ」と言いながら詰め寄っていた。緋華さんは何かやらかしていたようで少し動揺していた。


 伊月は緋華さんを引きずってリビングから投げ出してからソファーに座った。リビングから投げ出された緋華さんは見覚えのあるタコ足の影に連れられて上の部屋に引きずられていったのを少し空いているドアの隙間から僕はそれを見てしまったのだが……何も見なかったことにした。母さんから何も連絡はないから今日の晩ご飯どうしようかな。まぁ別に時間はあるわけだしもう少し待っていてもいいかな。


「はぁ、本当に疲れた」

「何か飲む?」

「麦茶を頼む」

「ちょっと待っていてね」


 自分の分と伊月の分の麦茶を持ってソファーに向かう。伊月に手渡して隣に座って一緒のタイミングで麦茶を飲む。僕は一口だけ飲んでコップをテーブルに置いたけども伊月は麦茶を飲み干してテーブルにコップを置きながら「お前に残念なお知らせだ。罰ゲームは実行できる」と言って僕の肩に手を置いてドヤ顔をしてきた。僕との勝負に勝ったくらいでドヤ顔しやがってムカつくな。


 伊月のことは放っておくとして、よく学校側が許可を出したと思うよ。そんなことよりも制服はどうしたものか梨奈姉さんを借りるってのは無理だし緋華さんのも……いやそもそもサイズが合わないか。制服も用意しないといけないのは面倒すぎるんだけど。誰か都合よく持って来てくれないかなぁと思っていたら勢いよくドアが開き、母さんが片手に紙袋を持って入って来た。


「話は聞いたわ!!」

「涼音さん……カメラ仕込んでいましたね?」

「雨歌ちゃん、明日の制服いるでしょ。はいこれ」


 僕は母さんから紙袋を受け取ったけど、そんなことより気になることを伊月が言っていた。カメラを仕込んでいるなんて一切気付かなかったのだけどもどこにあるの? 僕はカメラらしきものを探していたら伊月が「そこにあるだろ」と言いながら指をさしていた。指している方はテーブルの上にあるテッシュだった。僕はそれに近づいてテッシュの箱を取りカメラらしきものが無いかを探すと穴が開いていた。


 穴は直径1㎝ほどのだったので気付かなかったがカメラレンズが見える。箱を解体してカメラを取り出して母さんを見ると冷や汗を掻いていた。僕が「母さん」と呼ぶと母さんはビクッと一瞬体が飛んだと思ったら今度は何故かオドオドして涙目になり始めて、僕はえっどうすればいいのとなった。僕は別に怒ったりしているわけではなくて気になったから話を聞こうとしただけなのに。


「雨歌ちゃんに……嫌われたぁ~」

「・・・涼音さんってこういう人だったか?」

「いや違うかな」

「うわぁ~ん」

「泣いてっぞ。どうにかしろよ」


 僕にどうしろって言うんだよ。何も出来ないでしょうが。初めてだよ母さんが泣いているところを見――これウソ泣きでは? まぁどっちにしろ、どうにかしないといけないことには変わりはないんだけど少し面倒だから放置でいいかな。僕は放置することに決めたので紙袋の中身を確認する。伊月は僕の行動を見て「えぇ」という声を出したが何も気にしないでおくことにした。


 紙袋の中には女子生徒が着るようなものではなかった訳でもない。普通の女子生徒の着ている制服で僕の体格でも着れそうな感じというかピッタリでは? と思いどこで買ってきたのかを母さんに聞くとケロッとしながら「空ちゃんが持っていたのを持ってきたの」と言っていたが空は僕よりも大きかったよね。しかもあと3年後だよ? 高校生になるのは。


「雨歌ちゃん用ってあの子言ってたけど?」

「母さん流石にそれは叱ろうか」

「はぁ俺の周りはおかしい奴らしかいないのか」

「「類友でしょ」」


 伊月は僕と母さんのツッコミに少しだけ頭を抱えてしまった。母さんは「伊月くんはご飯食べてく?」と聞いていた。伊月は「今日は遠慮しておきます」と言ったけど、緋華さんはどうするんだろうかな?


「緋華ちゃんも帰るそうだからね」


 あの足は母さんのだったのか。母さんは台所に行く際にボソッと(流石にまだ孫は抱きたくないからちょっとだけお灸を据えちゃった)と言っていたのを聞いてしまった僕は怖っと思った。

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