55話 役割2
➖住宅街➖
―伊月視点―
日祟を置いて俺はおっさんと一緒に夕方の住宅街を歩いている。雨歌は疲れたのか、俺の背中で爆睡していた。おっさんは申し訳なさそうにしているが、別に悪いことをしていないわけだから気にしてはいないんだがそうもいかないようだ。まぁ関りなんてほとんどない娘の同級生を危険な仕事に連れてきたわけだし、自分の娘は死ぬかもしれなかったから申し訳なく思うかもな。
「本当にすまないね」
「おっさん、謝り過ぎだ」
「そうか……そういえば君がデザインして物は見せてもらったよ」
「そうか。俺の方こそ悪かった」
「気にしないでくれ」
仕事とプライベートは完全に分けるタイプなようで少し前とは雰囲気が全く違った。このおっさんの娘だから好きな男の前では性格が分かるのか? 性格が変わっているというよりかは変えられている様な感じだったんだが気のせいではないだろうな。子犬を祓う前は「こういうのを祓いっている」と言っていたのにあの男がきた後は「あの化け物共を消す」と言ったからな。古村の奴は一体何をしたんだ? あの子犬を消す際に持っていた剣も不思議だ。おっさんに聞いてみた方がいいかもな。
「おっさん、あの男が使ったのってなんだ?」
「魔剣って言ったら君はどうする」
「どうもしないが」
「・・・神共に与えられた物だとしか答えられない」
とりあえずチートを持った奴だと認識しておけばいいのかもしれないな。対策しておくにしてもあんなのをどう防げばいいのかがわからないからな、森前先輩ならなんとかする方法を知っているかもしれないから個人的に聞いておくか。俺も古村も下手に動けないからその間に色々と調べておかないといけないな。それにいまだに雨歌のことを転生者だと思っているだろうからそれを最大限利用すればいいわけだしな。
「待って……くれ」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえたので振り返るとそこには肩で息をしている日祟がいた。俺もおっさんも予想外な出来事で戸惑っていた。日祟は先ほどとは全く違う雰囲気をまとっていた。おそらくおっさんに話をしに来たんだろうから俺はこっそりとその場から少し離れようと行動したら「お前らに聞きたいことがあるんだ」と言ってきたから俺は止まった。おっさんの方を見ると少しだけ口角が上がっていた。
「オヤジ、返事はもう少しだけ待ってくれる?」
「あぁ1ヶ月なら待つよ」
「ありがとう。津堂、ソイツはなんでオレに大丈夫って言ってきたんだ?」
そんなことを言っていたのか? 言ってなかったとは思うんだが、気のせいってことはなさそうだな。雨歌は何も声に出していなかったから口パクで伝えたのか。でも雨歌はコイツになんでそんなことを伝えたんだ? そんなことを伝えるような仲ではないのにそれでも伝えたってことは……アレか二人ってのはおっさんとではなくて日祟と二人でってことか。何を考えているかはよく分からないが、おっさん以上に期待をしていたんだろうな。
「分からんから自分で聞け」
「寝てるだろ」
「学校があるだろうが、そん時に聞けばいい」
「オレとコイツは接点が……」
「なら無視するといい」
俺はそれだけを言って二人に背を向けて歩く。少しだけ小走りしながら、考え事をする。日祟が正気に戻ってくれたのならよかったが古村に近づいたらおかしくなるなら学校ではあまり近付かない方がいいかもしれないか。まぁ雨歌が気にしないのであれば俺も付き添いで一緒に喋りに行ってやるか。俺も流石に疲れたから雨歌の部屋で少しだけ休ませてもらうか。
「おい、その背負っている奴を置いて帰れ」
「古村……お前の命令なんて聞くとでも?」
「お前も一緒に消す」
古村が何故か正面に来ていて俺に雨歌を置いて帰るように指示してきた。しかも俺が言うことを聞かない場合はあの子犬を斬った剣で俺までも殺すようだ。雨歌を狙う理由は転生者だと思っているからだそうな。もう少し後で何かをしてくると思ったんだが今直接くるのは予想外過ぎるぞ。逃げるにしてもあの剣射程範囲も効果もほとんど謎のままでいるから逃げれないかもしれないな。おっさん達がまだ近くに居てくれるのであれば雨歌だけを助けれるが……どうしたものか。
俺が半歩だけ後ろに下がった瞬間に拳が顔に飛んできた。避けた際に雨歌に当たらないようギリギリで避けたら俺の右頬を少し掠めた。掠めただけなのに頬から血が流れてきた。マジかよ……これ当たれば俺ヤバいのでは? 10歩は離れていた筈なのにすぐ目の前まで来れねぇんだよ普通の人間はな。流石はどチート主人公様だな。
「これで分かったろ。ボクは君の為に言っているんだ」
「・・・雨歌をどうするつもりだ?」
「物語を正しくする」
「ってことは殺すんだな。雨歌を」
俺の言葉を聞いた古村は「何を当たり前なことを言っているんだ」とでも言いそうな顔をしていた。俺の中で何かが切れる音が聞こえた。右足で古村に思いっきり蹴りをくらわるともろにくらった為、バランスを崩したので俺は先ほど小走りで来た道を戻る。あの公園におそらくではあるが結界らしきものを張っているだろうから誰も居ないはず。そこまで行ければ本気で殴り合える。
走りながら後ろを少しだけ確認すると古村がもうすでにいなくなっていた。俺がどこに向かうのか分かったのかな? それで先回りして不意打ちをくらわせる作戦なんだろうな。後ろばかり気になっていたらいけなっ!?――危ないな。視線を前に戻したら目の前に古村がまた居て殴られそうになった。ギリギリのところで避けたが……瞬間移動でもしたんのかよアイツ。神の奴、古村の転生先を絶対に間違えているだろ。
➖公園➖
公園に着くまでの途中何度も古村に先回りされて攻撃をくらいそうになった。全部避けたので怪我をしなくて済んだが、もしやられていると思うとゾっとするな。そんなことを考えながらすべり台の所まで来て分かったが予想通りだな。札が何ヶ所かに貼られているみたくそれが結界の役割を果たしているのか、誰も居なかった。雨歌を子犬が埋まっているであろう近くに寝かせておく。というかよく起きないなコイツ。ん? やっと来たみたいだな。俺はすべり台から離れて出入口まで向かう。
「ボクに勝負でも挑むのか?」
「そうだが」
「ふん、お前は自分の役割だけを果たせよ」
「お前バカだな。果たしているだろ」
俺の返しが癪に障ったのか、先ほどより早く拳が顔の近くまで来たが左手で軌道を逸らして右手でみぞおちにパンチをくらわす。古村はその場に膝をつきながら「ごふぁう」という声を漏らす。それを見た俺は「お前こそ役割を果たせよ」と思ったが声に出さなかった。
「ふざけるな」
やっと痛みが治まったのか、分からないが立ち上がりながら声を荒げる。今の状況が受け入れられないみたいで「ボクは主人公なのにあの雨歌さえいなければ……紫藤緋華も手に入ったのに」と言っていたのを聞いた瞬間、鳥肌が立ち思わず顔面に殴りかかってしまった。しっかりと俺のことを見ていなかったのかそのままくらってぶっ倒れた。
流石に緋華の名前が出てきたからびっくりしたということにしておこう。恋愛は個人の自由なので否定をしてはいけないからな。気持ち悪いと思った事は絶対に内緒にしないといけない。これは雨歌にも言えることだが緋華どこがいい訳なの?




