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54話 役割1

➖公園➖

―伊月視点―

 人間がいない公園に着いたのだがここは住宅街のど真ん中って今日は土曜日だぞ。何故か一人として人がいない。というか虫などもいないのは不自然過ぎるからおっさんに聞こうと思い声を掛けようとした瞬間すべり台のある所から『ワン!!』と犬が鳴く声が聞こえた。そこを見るとぐちゃぐちゃになっているがなんとか子犬の形をしているモノがいた。それは見ただけで分かるがもうすでに生きてはいない。


「飼い主がクズ野郎だったらしく死んだ後あそこに埋めたんだとよ」

「聞いて無いが?」

「そこのが聞きたそうにしていたから言っただけだ」


 雨歌の方を見るとジッと犬がいる所を見つめていた。握っている手に力がこもっていて「なんで?」という顔をしていた。ピンク女にもいいところがあるのか、次からは日祟(カスイ)って呼んでやるか。そんなことよりも雨歌が心配だな。こういうのは可哀そうや悲しいなどの感情を持ってしまったら憑りつかれるかもしれないからしっかりと守ってやらないといけないな。


「オレらはこういうのを祓いっているってわけ」

「守護者としての役割か」

「まあ祓ったところで怨みは消えねぇから意味はないが」

「お前がするのか」

「んや、オヤジの手伝いだ。勉強中だからな」


 日祟は祓った後の説明をしてくれた。祓い終わった後は遺体を掘り起こして供養するそうだが、その際に遺体があった場所に札を埋めて終わりだそうだ。札を埋める理由としては怨みをその札の中に閉じ込め、それを生贄に使われていた翡翠の髪を持つ人間に食わせるそうだ。生贄のところの話をする時の顔は悔しそうにしていたが、何も声を掛けれないので仕方なく見なかった事にした。


 普通のやり方で怨みが浄化出来ないのであれば誰かを生贄にしてそれを浄化できるなら俺でもそれを選ぶ。大勢がそれを仕方ないで我慢するだろうが、コイツはそれを悔しそうに出来るのは尊敬できるかもな。もしかしたらコイツが守護者になったら何かが変わるかもしれないから今からが少しだけ楽しみだがあの男の近くにいたらそれもしなくなるかもな。


「日祟、今回はお前がやってみなさい」

「オヤジ……前にやったら失敗したんだぞ」

「前と状況が違う」

「分かったよ」


 日祟は覚悟を決めたようで子犬の所まで歩き始めた。緊張していたみたいだが、大丈夫なのかと心配していたらおっさんがこちらまで下がって来て「心配か?」と尋ねてきた。俺が答えら前に雨歌のやつが先に「心配ですね。僕らより残桜(ざんおう)さんの方が心配ですよね?」と返した。おっさんの両手を見ると何か文字が書いている札を持っていた。おっさんは雨歌が質問したのに対して答えずに微笑むだけで済ませた。


「・・・君たちはアレを祓う方法はどうすればいいと思う? 止めを刺す為の道具はこの小刀だ」

「もし結界を使えるのならその中に閉じ込めて小刀で刺すですかね。俺は」

「他のにならその方が安全でいいだろうが……違うな」

「待つ」

「いい答えだ。ああいうのは何もせずに待つことが正しい」


 おっさんは小刀を懐にしまいながら「さてあの子はどういう方法でするのかが楽しみだ」と大きな独り言を言った。俺らは出入口に居るのですべり台の所まで行っている日祟には会話内容は聞こえていないだろうから質問したのか、このおっさん。もし日祟が俺と同じ方法でやろうとした時にどうするつもりなんだ? 止める気はあるのか。


 今考えても意味がないかもしれないがどうなのかだけは知っておきたいが雨歌が少ししか心配してないようなのでここは信じることにした。日祟は自分に似せた式神を出して子犬の後ろに行かせて、その場でしゃがみ何かを書いて小刀を出した。すると子犬が威嚇するように『ガヴルゥゥ』と鳴き始めその姿が禍々しくなっていった。大丈夫なのかとおっさんに目を向けると既に札を投げる準備をしていた。まだ日祟にさせてあげたいみたいで構えているだけだった。


 日祟は禍々しくなった子犬の姿を見ても臆することなくさらに式神を二体出した。その式神は子犬を挟むように左右に分かれて完成したのは、子犬の前後左右を囲む形での結界だった。それを見たおっさんは苦い顔をしたがどうするかがまだ分からないからなのか動こうとはしない。日祟は取り出した小刀を地面に書いた何かに刺し立ち上がり子犬の近くまで歩き始めた。


「伊月くんは足は速い方か?」

「それなりには速い方ですが」

「最悪が起きるかもしれないから準備だけお願いできるかな?」

「分かりました。雨歌、離しておくな」


 雨歌は頷いて手を離した。俺はそれを確認してからいつでも走れるように準備をするが結構遠い。100m以上はあるのではないかと思えるくらいには遠い。最悪の場合は怪我をしてしまうかもしれないがなんとかしよう。日祟の行動ではなく子犬の行動に集中するように切り替えた時、子犬の右前足が巨大化して式神の1体を潰した。その際に日祟は驚き後ろに倒れてしまったので足に力を籠めるがおっさんの手で静止させられた。


「あんなことを言ってしまったが君に怪我をさせれない」

「おっさん、アイツが死ぬぞ!!」

「伊月、ちゃんとアレを見て」


 雨歌に言われて子犬の方を見るとそれはすでに子犬と呼べるほどの大きさをしておらず、姿はさらに禍々しくその瞳は奥には復讐の炎があるのではないかと思えるくらいに赤くなっていた。あの犬を見ておっさんに止められた理由が分かった気がするが見捨てられないので足に思いっきり力を籠める。次は止められようが走れるようにしてやる。


「僕の方に意識を向けるからその間に行ける?」

「何を言っているだ君は――」

「雨歌、良いのか?」

「もちろん。その後、助けてくれるんでしょ二人で」

「ああ、任せろ」


 雨歌がおっさんの背後から移動したので、俺も地面を思いっきり蹴り上げ遠回りではあるが大回りしながら日祟の所まで向かう。雨歌が時間稼ぎをするための準備の為に必要なので無駄に走る。犬の視線が日祟から雨歌に変わったがそれは一瞬だった。雨歌が小石を持った瞬間に一目見ただけなので時間は1秒ほどだったから助けるのはこのままでは難しいが、近くまで来たので戻る気はない。


 犬は大きく口を開けて日祟のことを食おうとしていたので足の筋肉が千切れてもいいと思いながらもっと力を込めてスピードを出そうとしたが地面から足が浮いた。肩を見ると鳥の(あしゆび)が見えたのでおっさんの式神だと分かったが日祟を助けなかったのかと思いその方を見ると犬の口が開いたままになっていた。目を凝らしてみると薄っすらとヒビらしきものがあったのでおっさんの結界かもしれない。


「お礼は言うが無茶はしないでくれないか」


 俺と雨歌はおっさんのいる所まで戻されたが日祟はまだすべり台の所に居た。おっさんはハト型の式神を日祟の所まで飛ばすが左前足であっさりと潰された。どうすれば助けれるかと考えてみるが知識がないので下手なことは出来ない。先ほどと同じことになるだけだろうからしても意味がないだろうし……どうしたものか。


「ヤバイかもな。思っていた以上に怨みが強いな」

「そんなになんですか」

「事前に調べて想定していたんだが、嘘を吐かれていたみたいだ」


 だから日祟にさせようと思ったのか。おっさんは「アレを使うしかないか」と言い、スマホを取り出してどこかに電話を掛けた時に『キャッン』と犬の声が聞こえてきた。犬が蹴り上げられていて俺たちはびっくりしたが、蹴り上げた奴は誰なのかを確認すると古村が右手をポッケの中に入れて左手は日祟に差し出していた。何故ここにアイツがいるんだよと思ったが、そんなことよりも日祟が助かったことにホッとした。


「化け物が、消えろ」


 古村は日祟を立たせると右手をポッケから出して、どこからか剣を取り出して落ちてきている犬に向かって淡く輝く白い斬撃を飛ばす。おっさんは「やめろ!!」と叫ぶがすでに遅く放たれた斬撃は犬の体を真っ二つにした。終わったのかと思い雨歌の方を見ると上を向いていた。何を見ているのかが気になったので俺も上を見ると羽先が青いカラスが1羽飛んでいた。なんでだろと考えていたら、おっさんの大きな声で考えるのをやめた。


「まずは娘を助けてくれたのは礼を言う」

「いえ、大したことはしてないです」

「だが君は娘に近づくな」

「何故です?」


 俺と雨歌は少し離れた所から話を聞くことにしたがヤバそうな雰囲気が出ている。おっさんは何かに対して怒っている様子だったが何に怒っているかまでは分からなかった。俺はとりあえず日祟が怪我をしていないかをざっくりと遠目から見る。日祟はどこかおかしいような雰囲気を纏わせていた。


「日祟、私達の役割は?」

「あの化け物共の消す」

「違う。その男から離れなさい」

「違わないから。あといやぁ」

「・・・1か月やるからその男から離れるか、守護者は諦めなさい」


 そう言うとおっさんは公園から出て行った。俺と雨歌はおっさんに話を聞くために後を追って出た。明らかにおかしくなっているな。一体何があったんだ、あの一瞬で。

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