42話 好き嫌い1
➖自宅➖
僕は誰かに肩を揺らされて起きる。いつも間にか寝てしまっていたみたいだったので勢いよく飛び起きると「危な」と伊月の声がした。左横を見ると伊月が驚いた顔をしていたので僕は先ほどまで頭を置いていた場所を見る。もしかして……膝枕されていたのかな? 伊月は僕が何を考えているのかが分かったみたいで「寝苦しそうだったから」と微笑みながら言ってきた。少し恥ずかしいので顔を左手で隠すが伊月に赤くなったのを見られた。
「なんだ? 惚れたか?」
「ばーか」
「お前の方だろ」
そういうことを言ってるわけじゃなくてさ、気付いてないからバカって言ってんの。誰も学力でバカとは言ってないよアホめ。惚れてるけど、なんですか? 別に何も悪いことなんてしていないわけだし問題はないでしょ。・・・ムカつくからどうにかして伊月を照らさせれないものか。僕が恥ずかしくなくて伊月を恥ずかしがること……何かあるわけ? ほとんどないと思うんだけど、どうしたらいいんだろ。そうか本人に聞けばいいじゃんか。
「伊月、僕に何をして欲しい?」
「キスだな。雨歌に言われ———!?」
「ぷはっ……こんな感じなんだ」
「おま……な、何をやってんだよ」
何ってディープキスだよ? 僕だってこういう事は出来るんだからね。緋華さんが「ズルい」と言いながら僕に抱き着いてきた。緋華さんが来たことで僕はここはリビングだという事を思い出して僕は顔を真っ赤になったが緋華さんに両腕をがっちりと掴まれたので顔を隠そうとしても隠せない。伊月は放心状態になっているんだけどなんで。なんとかして意識を取り戻してもらわないとここから逃げれない。
「お前ら、飯だからイチャつくのはやめろ」
兄さんが止めてくれたからよかったんだけど、みんなの視線が色々と刺さって痛い。母さんもう少し声を小さくして「雨歌ちゃん、ポンコツ悪女なのね」と言ってね? ポンコツ悪女ってなんだよ。しかも僕は男だってわかってわざと間違えて言っているよね絶対。緋華さんから肩を叩かれたのでそっちの方を見ると口を開けていた。何をしてんのこの人は。分からないから何もしないでおくとして、どこで食べようかな。テーブルの上は食材が並べられているから座れない。
「ほら三人とも着替えておいで」
「ありがとうございます、おばさん」
「お義母さんでいいからね」
おばさんから着替えを受け取り放心状態の伊月を叩いて元に戻して、まだ口を開けている緋華さんにデコピンして二人を連れて着替えに行く。僕の部屋で一人ずつ着替えることになり先に緋華さんでその次が伊月で最後は僕になった。別に僕と伊月は男同士だし何も問題はないって言ったのに緋華さんが「絶対にダメ」と言うのでとりあえず頷いておいた。緋華さんが着替えている間、廊下で座りながら伊月に「二人で着替えた方が早いから着替える?」と言ったが伊月は「それはダメだ」と言われた。
何も問題はないし別に何も気になんてならないと思うんだけど、二人がそういうなら従った方がいいかな。待って僕の着替えって伊月に動画に撮られて緋華さんへと送られたのがあるよね確か。その時伊月は部屋に居た訳だし別に本当に何も問題ないじゃんね。伊月が「一応言っていくが、お前と結婚出来ないと思っていた時の話を出すなよ」と言われた。それを聞かされた僕は「あ、はい」と言うしかなかった。
伊月と緋華さんがダメだという理由がなんとなく分かった。分かったんだけどね、体育の時はどうすればいいのかを聞きたいんだけど? ショケイくん先生に話をしないといけないのかなぁ。まあ後で考えるとして今日のご飯は焼肉なのかな。食材を見る限りではそれっぽいけど聞いてなかったから何かが分からないけど。
「伊月、今日はなんだと思う?」
「焼肉だろ」
「だよねぇ。伊月が嫌いなのカボチャだよね」
「お前に食わせてやるから心配するな」
伊月はカボチャが嫌いで出てくると毎回僕にこっそりと渡してくる。僕は嫌いなものはないのでなんでも食べれるから普通に美味しく食べている。家で出ている時ってどうしているんだろうか気になるけど、流石に出てないんだろうな。おばさんは嫌いなものは無理に食べなくていいっていう人だから、普通は出てこないかな。伊月が何かおばさんを怒らせた時には出てくるみたいだけども。
緋華さんは嫌いな食べ物があるってのはあまり聞いたことはないけどゴーヤは食べれないって言ってたなそういえば。アレ苦いから嫌いな人は多いだろうから仕方ないよね。嫌いではないけど苦手ではあるかな。僕が食べたくないと思うもの一つだけあるわ、それは生のタマネギ。一度生焼けを食べてからは本当に食べたくないと思うようになってしまっているんだよねこれが。
好き嫌いのことを考えていたらいつの間にか緋華さんと伊月が入れ替わっていた。緋華さんが右隣に座ってニコニコしているんだけどなんで? 座るのはわかるけど何もしてこないでずっとニコニコとしているのは怖いんですけどなんとかしてくれないですか。話を振ればいいのかな?
「緋華さんは伊月の嫌いなんですか?」
何を聞いてるんだよ僕は。嫌いじゃないのなら間接的にとは言え婚約なんてしないだろうが。緋華さんを顔を見るとまだニコニコしていて「嫌いだけど、雨歌くんは好きでしょ」と答えた。はい、好きですって言えたらいいけど恥ずかしいのでそれは言えない。本人に直接言うのならいいんだけど、本人がいない所で言うのは少し……
「雨歌、着替えてきていいぞ」
思いのほか伊月が早く出てきて僕はビクッと驚いた後に逃げるように部屋に入った。僕はおばさんからもらった着替えを広げて見るが……また女装しないといけないの? ここは部屋なんだから自分の服を取って着替えればいいんじゃないか。




