41話 寝顔1
➖自宅➖
―伊月視点―
ドアを見ながら雨歌が出てくるのをみんなでソワソワしながら待っている。こんなに注目されるとは思っていなかったのであの発言をしたから……雨歌に後で謝ろう。それはそれとしてどうな服装で登場するかが楽しみだな。変なのを選びそうなのが数名いるからそこまで期待をしないでおくか。もし雨歌があの中で気に入ったやつがあったとしても俺が選んだのが一番シンプルでいいに決まっているがな。
なんて考えていたらドアの向こうから「準備できたから入るよ」と言う声が聞こえてきて俺は心の準備をするが他はスマホを構えていた。堂々とスマホを構えているので雨歌に見られて消すように言われて渋々消すだろお前ら全員。その点俺は何も言われないようにスマホを隠してビデオで撮る。
ドアが開き雨歌が現れる。格好を見て空ちゃん以外はポカーンとしている状態で雨歌をじっと見る。用意されていても絶対に着ないような服装をしていて驚いているけど、これだけはわかる。これは絶対に空ちゃんが用意した服だということは全員わかったので一斉に空ちゃんの方を見る。写真のパシャパシャと撮りまくりながら「良き……」と言ってからニヤつきながら俺を見て。
「眼福でしょう?」
それはそうなんだけど、何故にキョンシーなの? そこがまず分からないしそんなのをよく隠し持っていたなとおそらく全員が思った。雨歌は恥ずかしがりながら「これを最後に着るのは嫌だなと思って最初に着た」と言って急いでリビングから出て行った。キョンシーではあったが色々と布面積が少なすぎたな。本当によく着たな。
「後で説教ね」
「……はい」
そういえば雨歌のやつ、写真のことは何も言われなかったから気付いていなかったのか? まあ恥ずかしくて目に入ってなかったんだろうな。涼音さんに説教されることで凹んでいるであろう空ちゃんの方をなんとなくで見てみるとスマホを見ていた。絶対に説教されても反省しないだろ、この子。いきなり後ろから誰かに襟を引っ張られて頭を打った。倒れた時に引っ張った犯人の顔が見えたから分かった。
「痛いなぁ。何すんだよ緋華」
「伊月、動画ちょうだい」
「・・・写真と交換な」
「分かった」
起き上がりながら緋華と会話をしていたら紫音が俺を睨みながら「仲良いな、お前ら」と言ってくる。仲は悪い方だって言っているのに何を勘違いしているんだよ。あとお前にだけは言われたくないからな。雨歌と仲が悪いって言ってる癖に相当仲良くしているじゃねえかよお前。まぁ周りから見たら仲良く見えるだろうな。そんなことはどうでもいいけどな。
「は、入ります」
えっまだ続ける気だったのか。キョンシーの以外はまともであってほしいけど、どうだろうな。とりあえず周りを見渡すと全員ワクワクしているな。あれぇ? お袋と親父がいないぞ。最初からいなかったっけ? 全く気にしていなかったから知らなかったわ。仕事が長くしなってしまっているとかなのか。いやお袋は主婦だろ、来とけよ。
「次のは母さんのです」
ドアを開けて入って来た雨歌はメガネかけていて、キャップを深く被りしているが肩出しトップス? を着ていて魅力的だった。下はスカートを履いていて丈は足首まであった。服装が似合っているかどうかを言おうとした瞬間に紫音に「似合ってねぇ」と言われてムカついてので腹に蹴りを入れると同時に雨歌からキャップを顔にぶつけられていた。
「お兄様、少しお話があります」
緋華が紫音を連行していったので一旦中止になった。とりあえずソファーに雨歌と二人で移動する。雨歌は俺の右隣で体育座りをして、膝で顔を隠していた。何かを言った方がいいのはいいんだろうが経験がないので何も言えずに黙っている。ショックを受けたのか、どうかもわからないから何も言えない。彼女いない=年齢のやつにはハードルが高いぞっての。分からないけどこのままってのもあれだからな。
「似合ってるから気にするなよ」
「・・・」
「おい、何か反応を———へぇあ!?」
雨歌が俺の方へ体を預けてきたのでびっくりしたが、寝ていただけだった。3分くらいしか時間経ってないのに寝つきいいな。今日は色々とあったし疲れたんだろうから緋華の奴が戻ってくるまでは膝を貸しておいてやるか。寒そうな格好だから何か掛けれるものが有ればいいんだが流石にないか。
「ほら掛けてやれ」
「ありがとうございます」
「どうせ家族になるから敬語じゃなくていい」
「なら義兄さんと呼んだ方が?」
「それは許さん」
碧さんが毛布を持ってきてくれたので雨歌に掛けてやる。碧さんは俺のことを認めてないと思っていたけど、認めてくれていたのか? 雨歌が安心して寝ているところを見て認める気になった感じだな。昔、ここに来たばかりの時はあまり寝れていないって話をお袋から聞いたことがあるな。今は安心して眠れているようだから別にいいけど。
「雨歌くん、寝た?」
「飯ができるまでこのままでいいだろ」
「私が選んだの着て欲しかったなぁ」
緋華はそう言いながら俺の右隣に座り雨歌の髪を撫でる。雨歌が少し「ぅんぅ」と声を漏らすが顔は心地良さそうにしているので緋華は撫で続ける。俺はそれを見ながら今日の出来事を思い返しながら考える。本来ならば“緋華”の転生者は妖狐の中にいる奴だったのにそれの拒否できるのか不思議でしかない。そんなにも“カミサマ”ってのは万能なのか? 緋華に聞いた方がいいだろうが人が多すぎる。
「なぁアイツの話を聞いてどう思った?」
「可能だと思う」
緋華は片手でスマホで文字を打って見せてきた。そこには「交換ならね」と書かれていた。交換ってのは転生先を入れ替えるってことだな。確かにそれなら出来るだろうがそれならお前の転生先が“妖狐”じゃないといけないぞ。どういう原理でタイムリープをしているのかが分からないからな。頭を悩ませていると緋華がまたスマホを見せてきた。えっと、「戻る際にこの世界線をリセットすればいい」だと? 全く分からん。
何かをきっかけに前世に戻っているわけだから相当なエネルギーを消費する筈……知らんがな。今世を無かったことにするだけならエネルギーを使わなくてするのか? 記憶を持ったまま時間を逆行しているのならエネルギーは消費されるだろ。・・・だからリセットか!! パラレルワールドをエネルギーに変えて消費すればその世界線は“在る世界”から“無い世界”になる訳か。それなら何回でも繰り返せるわけだな。まあ仮説なんだがな。
「伊月、そこ変われ」
「いやに決まってんだろアホ」
緋華が雨歌に膝枕をしたいのかソワソワしながら俺に言ってくるので断ってやった。緋華はむぅと口を膨らませながら俺を睨んでくる。いつもならこのまま言い合いが起きたりするんだが、今は雨歌が寝ているので何も言ってこない。俺は勝ったと思いながら雨歌の寝顔を写真に撮る。待ち受けにして雨歌の恥ずかしがる顔を拝んでやるか。




