37話 幻覚から現実へ2
➖教室(1-1)➖
午後の授業も全て終わりいつも通り机でだらける。伊月が帰る準備を済ませてやってくるまでがいつも通りだけどHRが終わって1分も経たないうちに教室にやって来た緋華さん。瞬間移動を習得でもしているんですかアナタは。クラスメイトがびっくりしてコソコソと何か喋りながらこれからどうなるのかを楽しみって感じの視線を寄越してくるんですよ。その中で一人だけ異様に僕だけを敵視している視線があるのは何故かな?
机にうつ伏せになっているとはいえ意外と僕は視線に敏か―――痛い。顔を上げると伊月が握り拳を作りながら笑っていた。伊月が口パクで「早く帰るぞ」と言っていた。居心地が悪かったんだろうなぁこういうのはあまり伊月は好きじゃないだろうし。僕はすぐに帰る用意をして2人で教室を出たのだが。
「なんでいるですか?」
「えぇウチもいたらダメなの」
「いやダメではないんですけど」
緋華さんと伊月が凄く睨んでいるんですよ。何故今ここで僕と手を繋ぐんですか? この二人がアナタを見る時の目が怖いのでどうにかして欲しいと思っているんですけど、あっ! 無理なんですね。なら仕方ないですね。二人は意外と睨むだけにしておくタイプなのかな。緋華さんは絶対に許さないと思っていたけど、案外甘いのか。
妖狐さんは色々と協力してくれるから何かお礼したいって思っているけど、断られないかな? いい人そうではあるから二人も何言えないしできないんだろうな。伊月は特に助けられているところもあったよね? 覚えてないけども。
「そういえばさ、不澤くんってどっちの方が好きなの?」
「両方好きですが」
「どっちのほうが好き?」
「僅差で……ア―――」
今何を言おうと僕はした? それより二人はどこへ行った。周りを見渡すと学校ではなく別の所にいたのが分かった。もしかしてここは夢の中――ではないか。妖狐さんの手の温もりが凄くリアルなんだよね。いつからここにいるのかが分からないんだけど。自分を殴ってみるのが一番いいかもしれないけど体が何故か急に動かない。一体何がどうなっているんだ。
「いやぁ大変だったなぁ」
妖狐さんは何故か悲しそうな顔をしながら手を離し僕の正面に来る。妖狐さんは「君はウチの幻術に掛かっていたんだよ? 教室から出た時から」と言われた。教室を出た瞬間幻術が発動したってことなのかな。その辺は分からないから知ってそうな人に頼ろうと体を動かそうとしたら倒れた。今なんでか動かなくなっていたんだった。
「ふははっ。なんでずっと変わらないの」
「―――」
「無駄だよ」
声すら出せないって相当ヤバイ状況なのか。なんで動かなくなってのかを考えなきゃいけないけど情報が少なすぎるから今考えられるのは2つ。『教室を出た後にすでに動かなくなっていた』か『これに気が付いたから別のが発動した』のは考えられるけど一体どっちなんだろ。
「・・・2回目からこっちを選んどけばよかった」
妖狐さんが意味が分からないことを言って僕の方へと来て、どこかに運ぶ為なのか。僕は抱えられてどこかへと連れて行かれそうになった瞬間に男の声が聞こえてきた。妖狐さんは驚いて後ろを振り返った後、強い衝撃が体中に走った。妖狐さんが蹴られて僕もろとも吹き飛んだみたいだった。物が何もなかったのが良かった。
「禍神の次はお前か」
「1番厄介なのにバレた」
「・・・やめたらどうだ?」
誰だろうと思ったけど、ショケイくん先生だわコレ。タバコの匂いがするから結構分かりやすいなこの人。この前、バレて水原先生に凄く怒られて凹んでたのにもう吸っちゃってるじゃん。というかここって学校なんだよね、他の生徒や教師勢に全然気づかれてないってことは全員に掛けているってことになるよね。抜け出したのはショケイくん先生だけなのか。
本当にこの人は何者なんだよ。あの時もそうだったけど、結構凄いことしているよね? あの時は周りの音が消えていたから異常な空間になっていたのが分かる。今は音は聞こえるけど空間自体は異常だと僕は感じるんだけど、そこの所どうなんでしょうか。
「今すぐに解け。お前ならよく知っているだろ」
「分かりました」
妖狐さんが幻術を解いた筈なのに僕は何故か眠りに落ちた。次に目が覚めた時、僕は保健室のベッドの上で寝ていた。ヴァル先生は「あら起きたのね。睡眠不足だからちゃんと寝てね」と言ってきた。先生いわく、教室を出たあと、僕は眠ってしまったようだ。緋華さんと伊月が保健室に運んでくれたようだった。さっきのは夢なのか? と疑問に思ったがどうやら二人は廊下で待っているようなので急いで保健室を出た。
➖保健室➖
―水原視点―
「これでいいの?」
「あぁ」
ショケイくん先生ことケイさんは今日起こした生徒の問題をなかった事にするために被害者である不澤雨歌くんを騙すことにした。私やヴァル先生はもちろん反対をしたがケイさんの「説教ならしたから問題はないだろ」で私達は呆れて従うことにした。ケイさんは色々と問題行動を起こしがちではあるが生徒のことを1番に考える人だ。それはそれとして処すことはするらしい。
「今回は簡単に引いてくれてよかった」
「妖狐さんが問題を起こしたのは今日が初めてですよ」
「そうだったな。あのガワではな」
一体なんのことを言っているかは分からないけど何もなくてよかったと私も思った。妖狐さんが何が目的でそれをしたのかは分からない。ケイさんに「何も聞いてやるな」と言われたので聞きはしていないが気になる。ヴァル先生は「喋りなさい」とケイさんに詰め寄ってはいるが本気ではなさそうだった。ケイさんとヴァル先生は付き合いが長くお互いの弱点を知っている仲だと言っている。
(幻覚から現実へか)
またケイさんが意味のわかない事を言った。ヴァル先生はその言葉が聞いたようで驚いて固まった。




