36話 秘密3
➖屋上前のドア➖
―伊月視点―
ヤバイ雰囲気の山田から逃げた俺は緋華と合流して何故かオカルト研究部の部室にいた雨歌を屋上に連れてきた。なんで居場所が分かったかというと緋華の奴が盗聴器とGPSを仕掛けていたので分かった。マジでコイツ仕掛けてたのかと少しだけ引いたがまあ別にいいかと思った。悪用するようなタイプでもないだろうし雨歌のことを超絶好きな奴だし、問題はない。なんてことを考えていたら、狐の耳をした女生徒が登ってきた
「なんで一人なの?」
「雨歌と緋華が二人で話しているからここで待ってんの」
「ウチが言ったこと信用していないの?」
「ノーコメント」
妖狐は「まあいいや」と言いながら階段に腰を落とす。俺は何が良いんだかと思いながら少し離れたところに腰を落とす。妖狐は思い出したように口角を上げながら写真を1枚渡してくる。何やら壊れかけている祠と体が透けた巫女服? を着ている翠髪の少女が映っていた。大きな岩に座っているので誰かを見上げているような視線になっていた。何故こんな写真を持っているのかが疑問だが聞くのは危険だな。
「へぇ、聞かないんだ」
「危ないだろ、お前が」
俺の野性の勘がコイツは本当に危険だと言っているのでここは大人しく従っておく。なんで今まで気が付かなかったのかが分からないくらいに今のコイツの雰囲気は相当ヤバイものだった。隠すのがうまい奴でも少しボロが出る筈なのにコイツは全く出してなかった。ただ俺が鈍かっただけかもしれないが何故今ここでそれを出す必要がある?
「ウチは父親を殺したことがあってね」
妖狐は楽しいことでも話すように笑いながら前世のことを話し始めた。母を苦しめていた父を殺す為に友人を使い森の中に誘い込み二人を焼き殺したと自白した。その後、母を毒殺して遺体は二人と同じ所で焼き遺灰を海へと撒いた。その犯行を誰にもバレなかったが病気を亡くなったらしい。なるほど、この写真は被害者って訳か。祠と関係があるって言ったら神様くらいだぞ、知ってんのは。
「はい、コレもあげる」
もう1枚追加で写真を渡された。その写真に写っているのは緋華と雨歌の血縁者であるムアイだった。ムアイにハグされているところが撮られている。流石にこれに関しては強い衝撃を受けた。聞いた話では緋華は会っていなかった筈だ。この写真を誰かに見られるのはマズイな。緋華が色々と疑われて最悪の場合は捕まるだろう。そうなると雨歌が悲しむからなんとかしないといけない。
待てコイツは転生者でゲームの知識はあるだろうが緋華の秘密は知らない筈だ。何故話せた? 緋華しか知りえない情報を……ゲームでの知識にしては何かがおかしい。“カミサマ”ってやつに教わったという線はあるが、その“カミサマ”という奴を見たことないから信用はできない。神って言ってもなんでも知っているわけでもないだろう。
「それでね、ウチは気付いたんだ」
何かをずっと語っていたみたいだけど聞いてなかったんだが……聞いていましたよ感を出すか。もう1度よく知らん話を聞かされたくないんだよな。仕方ないから俺は「何に気が付いた」と言ってあげた。妖狐は凄く嬉しそうに「バッドエンドが好きなの」と言ったので階段から突き落とそうとした。何をされるか分かったもんではないので本気でコイツを突き落とす。
「ちょ、マジで落ちるから」
「落ちて頭打って記憶を失え」
「なんでそんな急に殺る気になってんの!?」
「俺の行動の大半は雨歌の為だ」
おいそんな冷めた目で見るなよ。顔に「アナタもバカなの?」って書いているのでもっと力を強くすると妖狐が騒ぎ始めたので諦めた。他の人に見られると俺が完全に悪人に映るんだろうからな。どうやってこの女狐を懲らしめるかを考えないとな。暗闇での暗殺とかは俺がそういうのはできないし、やり方を知らんから無理だろ。
「何があってもウチが味方するから」
「てめえのはいらん」
「彼のね」
「どうせお前が殺ったんだろ」
妖狐は「さぁどうだろうねぇ」と言ってきた。犯人コイツなんだろけど、今の感じ放っておいても問題はさほどないだろうな。緋華がどう思うかは分からないが雨歌には危害を加えない限りがアイツも何もしないだろうな。よくよく考えたらこちらに協力的ではあるからな。・・・いや本当になんで緋華の秘密を知っているかが疑問なんだが。
「この世界は何回目だと思う?」
「知らないけど。5514106」
「はぁ?」
「ワタシが戻した数は」
何を言っているんだ? 妖狐が戻した数ってのはアレか、タイムリープをしているってことか。待て待てそれは緋華がしていることなのにお前がなんでやってるんだよ。しかも500万回以上だと何をふざけたことを言っているんだよ。したことがないから分からんが途方もないくらいのことをこなしているのか。一人で考えていると頭を不意に撫でられて固まった。
頭を撫でられて不思議と不快ではなくて、別に撫でられてもいいかと思える。緋華に撫でられている時と同じ感覚がするな。案外似ているかもしれないなこの二人は。妖狐は撫でながら俺に「変えれるといいね」と少し寂しそうな声で言う。俺が答えようとすると屋上の扉が開き二人が中に入ってくる。妖狐はすぐに頭から手を退かし二人の方を見る。
「妖狐さん?」
「どうしたのぉ」
「いや泣きそうな顔をして」
「雨歌くん」
緋華は今の妖狐を見えないように雨歌を抱きしめて耳を塞いで会話を聞こえないようにしている。おいその役目を変われなんて思っていたら緋華と妖狐の空気が変わったのを分かって何が起きるかを大人しくみる。緋華は「まだ諦められないの?」と言い、妖狐は「無理だから。ウチが知っている人じゃなくても……そこにアナタがいるのなら」と言う。それを聞いていた俺はなんの話をしているのかが分からずに二人を交互に見ることしかできなかった。
「アスノファル学校恋物語~Close to you~」
「流石に知っているよね」
「それに出てくる緋華のモデルはアナタね」
うわぁ何か新情報が出てきたぞ。一旦整理をしよう。ゲームでの緋華のモデルが妖狐で、しかも殺人鬼であって捕まりもしてないと。緋華と同じタイムリーパーで500万回以上やり直している。それは想い人である誰かを忘れられないからなのか。前世の記憶があるのなら緋華に対して最初転生者である可能性が低いって言っていたのは何故だ? よしわからん。
「雨歌くんを殺すの? ゲームの時のように」
「無理だよ」
「私と同じで愛してるもんね」
今なんて言った? もうキャパオーバーだぞこっちは。頭が限界を迎えているのにまだ話は続くみたく、妖狐が「“カミサマ”にアナタを緋華に転生するようお願いしたの」と言った。緋華は何も言わずただ妖狐を見ていた。おそらく妖狐のタイムリープは前世に戻り同じ1度目の死を迎えて転生をしてこの世界で雨歌と出会うって訳か。今回緋華に転生しなかった理由は雨歌が助かる可能性があった方に掛けたってことでいいのか?
これは雨歌には聞かせられないから三人の秘密にしないとな。




