26話 違和感1
➖生徒会室➖
昼休みが始まって1分も経たないうちに梨奈姉さんが入って来て僕を生徒会室に連れてきた。抵抗しようにも突然のことだったので何も出来ず連行された。伊月も驚きすぎてピクリとも動かず固まっていた。何もないのならいいんだけど、中で待っていたのは会長さんや夢藍先輩、それに五三郎先輩もいたのでただ事ではないのでは? 僕以外はみんな座っていて会長さんの正面で立たされる。梨奈姉さんはいるけど兄さんがいない。そういえば今回の件は動かないって言っていたような気がする。
「お昼時に申し訳ございません」
「・・・要件をどうぞ」
「あの部活の件に関して関わるのはやめてください」
僕だけを連れてきた理由は中心として動いていると思っているからなのかな? 会長さんは確か理事長の娘さんって聞いたから何か事情があるのか。赤い瞳が真っ直ぐ僕を見て頷くのを期待しているような目をしている。会長さん以外の人は頷くまでは返してくれなさそうな雰囲気がしている。梨奈姉さんの目には少しだけ焦りが出ているけど、何かあったなこれは。
伊月に急いで連絡を入れたいけどもスマホを没収される可能性があるからやめておこうっと。まずは状況整理する。会長さんは僕の発言を待っているわけだから何かを言わないと進まない。僕が生徒会に色々情報を共有したところで意味がないから協力出来ないか。こっちに引き込むことももちろん出来ない。何も言わずにここから逃げることもできないし、できたとしても梨奈姉さんが家に帰ってくるのでどっちにしろ捕まる。
「無理ですね」
「そうですか。仕方ないですね」
「何をする気で?」
五三郎先輩が会長さんに何かしらの指示を受けたみたいで僕の方まで来た。先輩が「すまん」と僕にだけ聞こえてくる声で言ってきたので、ここで捕まって洗脳されるのかな。それは避けたいところだけども肩を怪我している僕には少ししんどいなぁ。激しい運動は控えるように言われてるんだけど、ここは逃げることを優先として行動しないといけないかな。梨奈姉さんは……味方してくれなさそうだね。
「逃げたいので逃がしてくれませんか?」
「悪いが無理だ」
分かっていたけど無理なのね。仕方ないので怪我のことは一旦忘れるとして全力で逃げることにしようっか。あとで二人に怒られるのは確定しているから受け入れるかな。なんて考えていたら五三郎先輩が僕の左腕を掴もうとしているので先輩の伸ばしてきている腕を掴み、引っ張りながら先輩の背後に行き背中を蹴り飛ばす。バランスを崩してしまった先輩は受け身を取ろうとしていたので右腕を軽く蹴ると受け身を取れず倒れた。
大きな音がして倒れたので今度謝ろう。入って来た前のドアから逃げるのでこのまま走るしかないのだけど、会長さんが大きなコウモリの羽を開かせてこちらに飛んでくる。吸血鬼特有の牙も見せながらしこっちに来るってことは……血に反応するのかな? 左肩に強い衝撃与えれば血は出てくるが、右の親指を噛んで血を出すことにしよう。
立ち止まり会長さんが僕に手を伸ばせば捕まえられるところまで待ち、少しだけ嚙み千切った親指を会長さんに見せる。一瞬だけ目線が血の方にいったのを確認できたので左手で右腕を掴み右の親指を会長さんの口の中に入れる。好きでもない奴にされたら嫌であろうことも種族としては抗えない筈。会長さんに少しだけ血を飲ませている間に残りの二人を見るが、何故か驚いて固まっている。
「そろそろヤバイかな?」
スマホのバイブ音が鳴り始めたので緋華さんが激おこ!! って感じになっているだろうから親指を引き抜き、そのまま急いで生徒会室を出る。左手を使ったせいで血が出て来ているなぁこれは。仕方のないことなので緋華さんや伊月に怒られないだろな流石に。
➖屋上➖
「いや、説教はするからね」
「それでよく怒られないと思ったな」
「そこをなんとかなりませんか?
「「ならない」」
なんとか生徒会室から抜け出した僕は緋華さんから掛かって来ていた電話に出た。屋上に伊月と二人で待っているとのことだったので手を洗ってから屋上へと向かった。屋上に着いた後、伊月から僕のお弁当を受け取り三人仲良くご飯を食べていたところ、緋華さんから何があったのかを聞かれたので正直に答えたら正座をさせられて説教をされている。普通なら逃げれないのを逃げてきたんだよ? ただの人間で非力な僕が、何かを犠牲にしないと無理だよ。
「まあいいか。月曜日にでも謝りに行くぞ」
二人からこってりと怒られた後に伊月がそう言ってきた。あれ、もしかして今日って金曜日なのか? 仕方がないとはいえあんなことをしておいて2日何をしないでいるのは流石にいやなんだけど、どうしたらいいかな。土日も生徒会がやっていればその時にでも謝りに行きたいんだけどダメかな? 伊月の顔を見ていると僕の考えを察したのか、「無理だし、ダメに決まっているだろ」と言ってきた。緋華さんの方も見ると伊月と同じ意見だったらしくウンウンと頷いていた。マジか。
「まあそれなら放課後に謝りに行こうっと」
「流石にやめておいた方がいいと思うけど?」
「お前ってどういう神経してるんだよ」
呆れながら二人に言われたんだけど、二人も大概どういう神経しているのって思う時はあるからね。僕がそう思われることの方が多いだけだから……二人が言うなら間違いはないだろうから月曜日にしておこうか行くのは。お菓子とか持って行った方が良さそうだし、兄さんか梨奈姉さんにでも聞いておこうかな。首を突っ込んだのは僕の方だし、それをやめるように言われて断ったのは僕が悪いだろうからね。
そういえば親指の怪我が治っているのは何故? ヴァンパイアの能力か何かなのかはわからないけど、心配をすべきなのか? 体には何も違和感はないし洗脳時の思考が弱まっている感覚はないから問題はたいしてないかもしれないか。それは兄さんに相談しておくとして、梨奈姉さんが焦っていた理由が全く分からないなぁ。何かあったと考えれるんだけど少しだけ違和感があるような気がする。
「緋華さん、生徒会ので梨奈姉さんはどんな感じでしたか?」
「えっとね……仕事はできるけど少し抜けている感じかな」
「ただのゴリラなだけだろ、姐さんは」
「焦っていた時は?」
「私は見ていない」
僕が知っているのは梨奈姉さんが焦るのは兄さんに劣等感を感じていた時だけだった。それも梨奈姉さんが中学3年生になってからは無くなったと思ったんだけどなぁ。父さんに聞いてみても分からないだろうから母さんに聞いた方がいいのかな? 母親って子のことはしっかりと見ているからね。例外はあるから僕が知っていることが全てではないから一応空にも聞いておこう。
「私、今日用事があるから先に帰るね」
「珍しいな」
「まあね。雨歌くんにあげたいのがあるからね」
「それって僕がいる所で言っていいんですか?」
緋華さんは楽しそうに「うん、だから楽しみにしていたね」と言って教室に先に戻って行った。一体何をプレゼントされるのかが楽しみなような怖いような気がするのは僕だけだと信じたい。右肩を伊月に叩かれたので見ると「どんまい」と言われたが、ムカつかなかった。顔が少しだけ不安そうにしていたからムカつくことができなかった。本人は隠しているつもりで他人なら騙せただろうけど長年一緒に居た僕の目は騙されない。




