23話 お泊まり2
➖自宅(部屋)➖
晩ご飯を摂った僕は今何故かベッドの上で両手足を拘束されています。緋華さんと空が僕の部屋で何かを話しているとこを見ていたら拘束されたよ。怪我しているところが痛いから痛み止めを飲みたいんだけど、この二人に言ったら飲ませようとしてくるからやめておこう。流石に口移しではないだろうけども怖いので絶対に言う気はない。
「縛るだけ縛って放置ですか」
「何もしないよ」
「なら解いてください」
「雨歌兄さんが逃げないって言うなら」
逃げないよとは言えないかなぁ、何をしてくるかが分からない訳だしね。手の拘束に関しては緩くしてくれたみたいだからありがたいけども……足が結構硬めにしているか。こんなことになるなら緋華さんに泊まってもらわずに伊月に泊まってもらえばよかった。足の拘束をなんとかすればあとは簡単に出来る筈。
なんで僕が逃げる前提で話をしていたのかを聞きたいけど、答えは聞きたくないんだよね。二人はまた何やら小声で話し始めたので今のうちに抜け出してお風呂にでも入ろうかな。気付かれないように足の縄を解いてそのまま手の縄を解きながら部屋を出てとりあえずはリビングに行きお風呂に誰も入ってないかを確認しに行く。
➖自宅➖
リビングには母さんと碧兄さんが居て何かを話しているみたいだけど、無視して入ると驚いたようにこっちを見てきて二人して口をポカーンと空けたまま固まった。母さんと兄さんの動作が一緒似すぎて僕が笑ってしまった。ツボに入ったらしく呼吸困難になるまで笑い続けた。
「落ち着いたか?」
「久々……に笑っ……た」
「そんなになの?」
母さんと兄さんが呆れながら言ってくる。二人の顔に実際には書かれてはいないけど、そんなに面白いのかというのが見える。落ち着いたので椅子に座ると母さんが水を出してくれた。それを飲みながら何を話していたかを聞くが「まだ早いかな」と母さんに言われた。兄さんの方を見ると頷いているので僕には内緒にしたい内容なようだ。
何も聞こえなかったので、気になる程度で聞いただけだから教えてくれなくても別にいっか。何も問題はないだろうからね。
「雨歌くん……なぁで逃げるのかな?」
「音もなく来ないでください」
緋華さんが音もなくリビングに来て僕の首に腕を回してきた。僕は少しだけ驚いたけど、ドアが見える位置に居た筈の二人がどうやって来たの? という顔をしていた。また禍神なのかと思ったけど空が後から入って来たのでその可能性は無くなった。緋華さん、逃げたんではないですよ。
お風呂に入りたくてここまで来ただけなので逃げでは決してないです。あ~そういえば僕、お風呂に入れないんだったわ。明日の朝にシャワーは浴びれるから、今日は濡れたタオルで体を拭いて寝るか。必要なのが着替えとタオル、あとはお湯かな。準備をするために椅子から立とうとするも立ち上がれない。緋華さんが上から抑えているから立てないでいた。
「どこに行くの?」
「お風呂に入れないのでタオルで体を拭こうかと」
「私が拭くから部屋で待っていて」
リビングから出て行った。空を見ると「話し合いをして、ジャンケンで負けてしまいました」と言ってきた。だから小声で話し合っていて僕を拘束して逃がさないようにしていた訳か。もし話の内容を聞いた僕は絶対に逃げるし済ませてしまうからね。観念して僕部屋に戻ることにした。
➖自宅(部屋)➖
部屋に戻り着替えに準備を済ませてベッドで寝転がりながら緋華さんが来るのを待っている。リビングから出る際に碧兄さんが「血の繋がりを感じる」とか言ってたけど一体なんに対してなんだろうか。今の状況に関してを言っているなら兄さんも似たようなことを経験をしたということになるけど……経験したのなんで? 風邪をひいた時に拭いてもらったんだろうね。
「・・・何をしているの?」
「考え事をしているだけです」
「え? その態勢で?」
逆さまに見えている緋華さんに言われて気が付いたがベッドから上半身が落ちていた。緋華さんに無理矢理起こされ服を脱ぐように言われ、それに従って上の服だけを脱いだ。そういえば包帯を巻いているわけだから一旦外さないといけないよね。外そうとしたら緋華さんに止められた。
「あの……外さないと拭けないのでは?」
「よくよく考えたら私以外に傷つけられたんだよね?」
「緋華さん、ステイ」
なんとなくで言ってみたが全く効果はなく緋華さんに包帯を破られて同じところを噛まれた。しかも強く噛むので血がダラダラと流れているのが分かる。噛む力が少しずつ強くなっていくので緋華さんにやめるように言ってみてもやめようとはせずにそのまま力を込めてくるのでデコピンをくらわすことにした。デコピンをされたことに驚いたのか噛むのをやめてこちらを向く。
「流石にこれ以上は肩が動かなくなるのでやめてもらえませんか」
「ご、ごめんなさい」
「怒っていないので、そこの薬を取ってもらってもいいですか」
とりあえずは止血剤と痛み止めがいるので緋華さんに取ってもらうことにした。緋華さんは薬を取りながら「ごめんね。頭に血がのぼって」と言ってきたので気にしないでくださいとだけ言った。緋華さんは正面に座って手当をしているが、どうしたら気にしないのか。僕も同じようにするとかは……いやそもそも顎の力がそこまでないしな。どうしたものか。そっか、別に肩じゃなくてもいいじゃん。
「緋華さん左手を出してください」
「いま?」
「今でお願いします」
左手を出してきたので掴み薬指を咥えて力一杯に噛む。緋華さんは少し痛そうな顔をしているが関係ないので傷が出来るまで噛み続ける。血が出てきたのか、鉄の味がした。なので薬指を口から離し手当をしたら終わりだ。僕は「これで気にしなくなりましたか?」と言ったが聞こえていない様子で左の薬指をジッと見ていた。はぁ、仕方ないとはいえ傷モノにしてしまったのに責任を取らないといけなくなったな。婚約をしているので何も問題はないとは思うけど。
全く動かなくなった緋華さんを見ながらどうしたもんかと今回のことを考える。伊月にこっそりとどうすればいいかを聞いてみたところ、「放っておいても問題はないだろ。とりあえずは俺に言われたことだけを共有しとけ」と言われたけど大丈夫なのかな。対策の取りようはないしこのまま放置した方がいいのか。まあまずはオカルト研究部のことをなんとかしないといけないから。
・・・にしても動かないな? どうしたんだろ?
➖津堂家(伊月の部屋)➖
–伊月視点–
禍神ねぇ、流石にそんなのがゲームでは出てこないだろうから妖狐に聞いても何も情報はないだろうな。雨歌の話が本当ならソイツは転生者ってことになるだろうから無視は出来ないが他の情報がないと探りようがないから放置するしかない。考えているとスマホが鳴ったので画面を見ると妖狐からだった。
「どうした?」
『紫藤さんは危ない』
「マジでどうした?」
『原作で彼を殺したのは彼女だった』
おっと衝撃の情報だな。驚きよりも何故今言った? という疑問の方が勝っているので冷静ではいれるが……今教える情報ではないのは確かだな。コイツのことを少し警戒した方がいいかもしれないのか。俺を混乱させるのと緋華に警戒させるのが目的ってところか。思い出したことを共有してくれているだけなんだろうがどうしても怪しい。
「なんでそれを教えた?」
『思い出したからだけど』
「他は?」
『・・・何もないよ』
何もないか。協力してくれているわけだから警戒しておくだけにしておくか。雨歌に何かするわけではなさそうだしなコイツは。雨歌が提案したのに協力してくれたし信用は今のところは出来るな。
「例の件も頼む」
『任せて』
通話を終わらせてそのまま、ベッドにダイブして目をつぶった瞬間に電話が掛かってきた。今日は電話が掛かってくるのが多いなと思い誰かだけを確認して雨歌だったので出る。何があったかは知らないが電話越しに慌てているような声は聞こえるがもしもしと言っても返事が返ってこない。
『あ! 伊月どうしよう』
俺が電話に出たことにやっと気がついたみたいのだけど、何をそんなに慌てているんだよ。どうせ緋華がやらかして雨歌が慌ててるってところだろうなと思っていたけど、雨歌が言ったことに耳を疑った。
『緋華さんが気絶した。どうしよう』
「・・・へぇ?」
・・・・・・・・・・・・え?




