100話 訓練⁈ 1
➖地下訓練場➖
父さん達の職場の訓練場にみんなでやって来ました。地下に建設されているので移動が相当大変ではありました。訓練場の全てを使えるわけではなく一角を借りて基礎を学ぶって形になるみたい。そもそも基礎って何をするのかは分からないけど、アルネさんがしっかりとしてくれるとのこと。
「ケイよ、ホワイトボードなるものを出すのじゃ」
「わかった。基礎って言っても何からするんだ?」
「ある程度は授業で習うと聞いたのでのぉ。復習を兼ねて色々と聞いていく」
「とりあえずは座っておけ」
アルネさんの言葉を聞いて僕は少し汗をかき始めていた。どうしてなのかを聞かれると一切覚えていないので質問をされても困る。普通に学校に通っていたら大丈夫とか言われるような問題が出されても答えられる自信は一切ないことは胸を張って言える。
「義務教育で習っておると思うが儂ら妖は魔法は使えぬ」
「妖術と魔法は別のモノってこった」
一緒じゃないのはなんとなくは分かるけども……何が違うかは分からないんだよね。妖術に関しては人や妖怪が使うモノとされている。魔法はよく知らないからあとで緋華さんにこっそり教えてもらおう。そういえばドラゴンってどっちに当てはまるのかな? 質問はまたあとで言えばいいのかな。
そもそも種族間なんてほとんど壊れているんだから別に妖術や魔法のことについて学ばなくてもいいじゃん。みんな言っていたし別に覚えてなくてもいいんだよね。・・・それって僕の周りの人達だけではなかろうか。やっぱり今後のためになるだろうから覚えておこう。
「儂は妖術しか使えぬ。コハクは魔法は使えぬからのぉ」
「ちなみに俺はどっちも無理だ」
「では緋華よ。適正を調べるにはどうすればよい?」
ショー先生って両方無理なのか。ん? 適正なんて調べられる!? それは知らないんだけどぉ。急いで緋華さんと伊月の方を見ると気まずそうに顔を逸らした。ってことは普通に適正を調べられるものがあってそれを僕に隠していたのか。別に隠していたのはいいんだけど、わざわざ顔を背けなくてもいいじゃんか。
何か事情があって調べていないのだろうから仕方ないとは思うから……逸らしてほしくはなかったなぁ。何かやましいことがあるみたいにとらえてしまうからさ。僕が2人をガン見しすぎてしまったからなのか、アルネさんが「代わりに主殿が答えるのじゃ」と言ってきた。そんなのは知りませんと言いたいけど……義務教育で習うって言っていたから答えないと。
「…………水晶です」
「半分正解じゃ。ケイ、お主から説明せい」
「特殊な水晶で、一滴血を垂らすと分かるな」
「へぇ〜そんな感じなんですね」
思わず心の声が漏れてしまった。アルネさんは目を大きく開けショー先生は頭を抱えていた。緋華さんと伊月は立ち上がり逃げて行った。いや、僕を置いて逃げるのはやめてほしいと思ったけど……メンツ的に連れて行けないのだろう。三人とも2人よりは速いだろうし。
「俺とコハクは追いかけるから頼んだ」
「うむ、ついでにアヤツらに事情を聞いておいてくれと助かるのじゃ」
「わかった。コハク、餌付けされてないで行くぞ」
ショー先生とコハクさんは追いかけて行った。そして職員達に餌付けをされているのは何故なんですかね。アルネさんと2人っきりはあまり良くないのでは? と言いたいけど、他の職員もいるから問題はないか。何かされることがあれば守ってくれるだろうしね。
「儂は主殿に命を預ける」
「何故でしょう」
「簡単じゃ。儂を殴って止めようと思った馬鹿は主殿と小娘だけじゃから」
この場合の小娘が誰を示すのかはわからないけど、相当大事な人だったんだろう。コハクさんに向けるような顔をしている。アルネさんはあそこで死ぬ気で悪者を演じていたとのことだった。コハクさんを守る約束もそれで果たそうとしていた。
ただの僕の自己満足なだけだから命を預けられても困るんだけど、言っても聞いてくれないだろう。だから僕は仕方なく預かることにした。何か悪さした場合は殺せるってことだろうからいいや。父さんや母さんからは何か言われるだろうけど秘密にしておけば大丈夫。
「聞きたいことがあるのじゃがよいか?」
「いいですよ」
「古村匡介と言う童は父親の魂が憑依しておると聞いたのじゃが」
「らしいですね。僕には分かりませんが」
あの人が古村くんに憑依しているとか言っているけど、あまり信ぴょう性がないと思うところもあれば、砂原響が知っていることまで知っているから嘘ではないと思う。いつから入れ替わっているとは分からないから無視をしておこう。
「古村に主殿の父親は憑依はしておらぬ」
「今、なんて言いました?」
「魂が一つしかないんじゃよ」
なんでそんな爆弾を言っていたんだよぉ。アルネさんは「さてと色々と準備をおしておくかのぉ」と呑気なことを言ってるし、僕も気にしないでおこう。流石に全くは気にしないなんて無理だからちゃんと緋華さんと伊月に話しておいてからしないと。
「主殿の適正は知っておるか?」
「分からないです」
「うむ……結果はエラーじゃな」
「知っているんですか!」
「眩寺殿が教えてくれての」
父さんが教えてくれたのならそりゃ知っているか。エラーってことは何も出来ないってことになるのかな?
アルネさんに聞いてみたら「何もない者もおるが、複数持ちの多くにエラーが見られるらしいのじゃ」と答えてくれた。色々と調べてくれているのか。
「主殿の場合は……また別の理由じゃろう」
「訓練すれば使えますか?」
「これは無理じゃな」
じゃぁ今朝の稽古をつけるとか言っていたのはなんですか! 妖術や魔法をカッコよく使えると思ったのに。無理だと言うのであれば仕方ないかもしれないけど、使ってみたかった。伊月の超能力だって、緋華さんの変身だって羨ましいと思ったこともあるしね。稽古って言っても護身術とか教えてくれる輪だろうからいいけどさ。
「術は教えれるがコントロールは教えるつもりじゃ」
「何もコントロールすることないでしょ」
「・・・この瓶に少し唾液を垂らしてみぃ」
アルネさんから言われた通り、瓶の中に唾液を少し垂らしてみたら何かが暴れて始めた。何が入っているのか気になって覗こうとすると止められた。アルネさんが言うには「悪い妖精が入っておる」とのことだった。その中に僕の唾液を垂らさせて意味があるのかな?
「主殿は知らぬだろうが人間の唾液や汗、その他の体液は妖怪や妖精には媚薬になる」
「えっ? じゃあなんで垂らさせたんですか」
「知っておかないといけないからじゃ」
そこからアルネさんは僕の体や漏れ出ているモノを説明してくれた。まず僕の体はヨダレが出まくる餌らしく寄ってくるモノ達のほとんどが体目当てとのこと。漏れ出しているモノに関しては悪い奴らを引き寄せる匂いみたいなのらしい。しかも厄介なことに命の危機になると濃くなるみたい。
それに当てられるとおかしくなって僕を襲うことになる。そこは僕に操られることにならないのは残念だった。身の危険を感じると毒などを出す動物みたいだと思えばいいのかな? それでも厄介すぎるとは思うんだけどもね。
「主殿の周りには効いておらぬから安心せい」
「よかったです。それをコントロールするための訓練ですね」
「それはそのままでよい。別のやつじゃ」
アルネさんは縄を取り出して来て「まずは捕まった時の脱出方法じゃ」と邪悪な笑顔を近づいてくる。




