第六話
第六話です。
英文、頑張ったけど上手く行かなかったから今回は『』で書いてます。
くそう……
囚われてから四日。
三人は差し障りのない実験や検査に最初訝しさを覚えたが、それも今は徐々に慣れてきた。
「いつまでやるですか?」
「さあ?」
「普通にごはん食べれるし、危険はないしでいいんじゃない?」
身体能力の測定やMRIでのチェック。
そのほか血液の検査や脳波の測定などが繰り返し行われ、食事は三食で実験以外は自由。
それ以外で部屋から出られることは無いが、逆を言えばそれだけこなせばいいのだけなので不便ではない。
むしろ運動不足で太ってしまうのでは? と女性陣が戦々恐々としているくらいだ。
訪れる人物はビルと研究員以外になく、何の成果があるのかさっぱりわからない。
ちょくちょく顔を見せるビルは特に話をすることなく三人の顔を見るだけで帰ってしまうのでこちらも意図は不明。
概ね平和に過ごしていた三人の裏で、着々と計画が動いていたのだが、それを知るすべはなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(ひひ……ついに完成した……アイツらを解析して新しく創り上げた新型ベルセルク……それを使ってできたコイツがあれば……私の計画は……)
もっときわどい実験が出来れば三日もかからなかったのだがと悔し気につぶやいたが、地道な実験でも成果は確実に上がっていた。
元々完成間近ではあったのだが、如何せん最後のピースとなるベルセルクが未完成品だったがために鉄心の計画は進まなかったのだ。
予定よりも大幅な遅れは生じたが、それでも何とか形となり、納得のいくものが出来上がったと鉄心は歓喜に満ち溢れていた。
(あとは戦闘実験でコイツの戦闘力を確かめねば……データ上は問題ないのだが実戦となれば色々イレギュラーもあるだろうからな……調整が終わればアイツらはもう用無しよ)
幸いこの場所にはサンプルである失敗作が大量にあるのだから調整には事欠かない。
あと数日データを取り、規定値に達すれば最終調整としてあの三体を処理できる。
あの面倒な傭兵も始末して社長室の女も消せば晴れてトップに立つことが出来る。
そう思うと今までの苦労で耐え抜いた日々も愛おしいものに感じてくるから不思議なものである
(やっとここまでこれたのだ……焦ることは無い……)
そう心の中でつぶやいて、自らが生み出した最高傑作を撫ぜる。
その顔は酷く、醜く歪んだ笑顔だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
さらに三日が過ぎ、合計一週間となったその日はいつも行われる実験ではなく別のものを行うと研究員に伝えられた。
「入れ」
「なんです? ここ……」
「やけに広いけど……」
「闘技場……か?」
「「え?」」
二人が驚くのも無理はなかった。
ここ一週間、安心安全で来たのにいきなりの事態。
まさか、などと楽観的に考えて見たものの、蒼太の言う通り戦闘訓練なんかで使われそうな広大な円形の部屋。
観客席なんかあれば間違いなくコロセウムだと思われる。
一体何が始まるのだろうと周囲を見渡していると上から声が掛かる。
コロセウム全体を見渡せる位置に作られた一室。そのガラス窓の向こう側に見知った顔があった。
「久しぶりというべきか、お二人さん」
「秋元さん?」
「助けに来てくれたの?」
「恵里姉、明らかにそんな様子ないですよあの人」
唯一あった事が無い朱音は冷静に恵里香の発言に突っ込みを入れる。
「助ける……助けるねえ。……なかなか面白いジョークだ。発信機を渡して罠に嵌め、苦労して捕まえたサンプルを逃がすと思うか?」
「……そういうことだったか」
「まあ、これから行われる実験の結果によっては解放してやらんでもない」
「どこまで本当だか」
「私の最高傑作を倒すことが出来れば出してやろう」
「期待しないでおこう」
「……生意気な奴め……まあいい。おい、ゲートを開けろ」
鉄心の指示で蒼太たちの正面に当たる部分にあったゲートが開く。
その奥から現れたのは異形。
身長2Mほどの異形の生物だった。
その生物は人の形をしており、顔は鉄仮面をしていて判別は出来ない。
なにより、その生物の上半身は二人の人間が背中合わせをしているのだ。
それに伴って腕は四本、一つの下半身に二つの上半身。
それがこの生物の姿だった。
「り……両面宿儺です!?」
「知っているの朱音ちゃん」
「両面宿儺は今から推定1600年前、飛騨に存在したと言われてるです。異形の人として言われてて、日本書紀によれば風貌は身の丈がおよそ二メートルで頭の前後に二つの顔を持ち、手足が四本あったとされてるです。ゲームでもたまに見かけるですよ!」
「まさにソレじゃねえか……」
体長から特徴から全てが一致している。
伝説の上で語られる生物と酷似した異形は三人を静かに見定めながらゆっくりと近づいてくる。
「やるしかないな」
「あ、足手まといにならないようにするね」
「攪乱ならまかせろです!」
いまいち身体能力に自信が持てない恵里香とは対照的に、銃をもった兵士と大立ち回りを演じた朱音はやる気に満ち溢れている。
「さあ、奴らを殺せ!」
「ち、やっぱりかよ!」
「約束守る気ないね!」
「当然です!」
鉄心の合図で飛び出した宿儺は振り下ろしの正拳を繰り出してくる。
二人は左右に、蒼太は後方に跳び退る形で危なげなく回避したのだが……。
「げ、なんてパワーだよ」
「地面抉れてる……」
「スピードも結構あるですよ」
手首まで埋まった拳をゆっくりと引き抜き、正面の顔は蒼太と恵里香、背後の顔は朱音をしっかりととらえている。
「死角なしとかふざけてるよな」
「どうするの?」
「行くですよ!」
二人に一声かけた朱音は最初の一歩でトップスピードに達し、小柄な体躯を生かして足を刈り取りに行く。
それを見た蒼太は同じく駆け出し、朱音の援護をする。
背後に近い横合いから膝関節目掛けて突進してきた朱音に対して反応を見せた宿儺の背面は、迎撃態勢を取るが、それよりも早く宿儺に到達した蒼太の対応に正面の身体が反応したため、反発するように著しく体勢が崩れる。
「パワーやスピードはなかなかだが、下半身が一つなのは問題だな」
「ですです」
朱音は最大速度で膝関節に頭から突っ込み、見事機動を落とすことが出来た。
その隙を見逃すことなく顎に向かって蹴り上げを放つ蒼太。
そちらは反応して宿儺に避けられてしまうが、わずかに掠らせることが出来たようだ。
「うにゅ~……いちちちち~です……」
「無茶するなオマエ……」
頭を抱えて蹲る朱音に呆れたような声をかける。
「二人ともスゴイ……え?」
やろうと思えば同じことが出来ると思う。
朱音は恵里香以上に運動が苦手だったのだから。
しかし、遠巻きで見ていた恵里香だからこそいち早く異変に気付くことが出来たともいえる。
ガラン! と大きな音を立てて転がる鉄仮面。
その下に隠されていた素顔に恵里香は目を疑った。
「蒼太……」
「どうした?」
「宿儺の顔……」
「顔? ……保莉菜さん」
仮面の下に隠されていた素顔は二人があった事のある人物だった。
「じゃあ後ろの身体は……」
「夏目さんか? 人間のやる事じゃねえ……」
「ははははは、もうバレてしまったか。お察しの通りあの建物に居た二人だよ」
さも愉快そうに鉄心は言う。
「お知り合いです?」
「ああ……一日だけだけどな」
「酷過ぎる……」
「この二人は新型のベルセルクとの親睦性が著しく高かったのでな、おかげで私の計画に必要なこいつが完成できた。ありがたいことにな」
「あの女……約束破りやがったな……」
蒼太の表情が怒りに染まり、即座に表情が消える。
あの時ビルに向けた顔、ただただ冷たい殺気を放つ顔。
二人は思った。
――完全にキレたと。
その光景を別の場所で見ている男が居た。
ビル・トンプソン。
未だ勝ち誇った様子の鉄心を見て、蒼太に目線を移し頭を振る。
やってはいけない事をアイツはやったのだ。
これはもう止まらない。
そう確信した彼は即座に近くに居た自分の部隊の人間に声をかける。
『……撤収だ、荷物をまとめるぞ。出来るだけ早くだ、他の奴らにも伝えとけ』
『は……了解です。隊長は?』
指示だけ出して自分は動きそうにないビルに部下は疑問を投げかける。
『俺はここの社長に報告してからお前たちの後を追う、わかったらいけ』
『了解しました』
ビルは後悔していた。
仕事を受けた事ではない。任務とは言え、自分の半分にも満たないような人物に銃を向けた事に対して後悔していた。
これが戦場であったなら仕方がないと納得も出来ただろう。
しかし、ここは平和な日本。
ベルセルクというよくわからない薬で人外の力を手にしていたが、大凡戦場に出てくるような人間ではないものを相手にした。
自分が朱音という小柄な女性を捕まえなければ、あの蒼太という男はここに連れてこられることもなかったのではないか?
そうすればあそこの異形の化け物にされた人物は生きていられたのではないか?
自分が戦争屋をやっていた理由はなんだ。
戦争を早めに終わらせれば犠牲が減る可能性があったからやっている。
戦争で被害をこうむるのはいつだって武力を持たない民衆なのだから。
自分の相手となった国の民衆には悪いと思う。
しかし、そこは必要経費と割り切れる。
割り切りたくはないが割り切れる。
じゃあ、今行われている事はなんだ?
新しく作る薬が、より多くの人間を救う手助けになる。
そういわれて、自分が加担した今の状況はいったい何なのだ?
市民を隔離し、実験を繰り返し、それが希望になると信じて手助けした結果があの化け物だというのか。
ビルは戦場において死神と呼ばれている。
それはあくまでも敵対したものにとってだ。
これではまるで人類にとっての死神ではないか。
捕らえることに疑問が無かったわけではない。
その子を解析すれば完成品に近づけられる、だから連れてきて欲しい。
拒否するようなら多少の怪我はいとわない。
確かに彼女は人と明らかに違う力を発揮した。
だからこちらも力で応戦した……いや、これは言い訳だろう。
何か償いをしなければならない……そこまで考えたビルは正面を向きなおし、社長室に向かって歩き出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「入るぞ」
「ビルか、今度は何だ?」
「アンタの側近がやらかした。約束通り俺たちはこの仕事をおりる」
「なんだと!?」
「できるならアンタもとっとと逃げた方がいい。じゃあな」
「おい待て! ……鉄心……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(なんだ? いったい何が起きている?)
宿儺の正体が蒼太の知人だと判明してから一気に旗色が変わった。
宿儺の攻撃が当たらないのは最初とあまり変わらないのだが、宿儺の被弾率が一気に増えたのだ。
(この時の為に何十もの感染体をつかってデータを集め、蹂躙できるほどに改造を施したというのにこの有様はいったいなんなのだ!?)
レイジ十体にまとめて組み付かれても圧倒できるほどの力を持つ宿儺が蒼太の一撃を腹に受けては蹲り、顔に受けてはたたらを踏む。
絶対の自信をもってぶつけた自信作をこうも簡単にあしらわれている。
悪夢というより他ならない光景だ。
「何をやっている! 早く殺せ!」
「喚くな、クズ」
鉄心が声を上げた瞬間、地面に転がっていた鉄仮面を蒼太は投げつける。
激しい衝撃音が響き渡り、ガラスに大きなヒビが入る。
「そ……そんな……強化ガラスをこんなに簡単に……」
「そこで待ってろ、直ぐに迎えに行ってやる」
その言葉を耳にした鉄心は腰を抜かした。
アイツは冗談ではなく確実に宿儺を倒して自分の下にやってくる。
そうなったら間違いなく待っているのは……。
――死
鉄心は漏らしていた。
圧倒的な恐怖。
決して踏んではいけない虎の尾を踏んだ、決して触ってはいけない逆鱗を触った。
やってしまったと気づいた時にはもう手遅れだった。
ビルは言っていた「アイツはwolfだ」と。
家族や知人に手を出したなら必ず報復されるだろうと。
自分は鼻で笑った。
そんなことは無いと高をくくった
その結果がコレだ。
もはや恥も外聞もない、ここから逃げなくては。
悟られぬように、音をたてぬようにひっそりと這いずりながら出口を目指す。
それが叶う事はない。
大きな音をたててガラスを突き破り、鉄心を押しつぶすように降ってくる宿儺。
もがくように必死に脱出を試みる鉄心の顔に影が差す。
恐る恐る顔を上げればそこには何の表情もなく、ただ冷徹な瞳を携えた蒼太が立っていた。
「よう、待たせたな」
「ひ、ひ、来るな……来るんじゃない!」
「いいぜ、見逃してやるよ。ただしそれには条件がある、出来なきゃ……」
「な、なんでもする! 言え、条件はなんだ!」
「お前の上にのしかかってるやつをもとに戻せ、レイジ化は解けなくてもいい」
「そ……それは……」
「できないのか?」
「……」
「沈黙は肯定だ、じゃあな」
「ま、まってくげぇ!」
蒼太は宿儺の両目をそっと閉じて動くことが出来なかった二人を迎えに行くのだった。
保莉菜さん達の事はきっと皆さん気づかれてましたよねぇ。
次話かその次あたりで完結予定です。
最近ゾンビ出てきてない。主人公がそっち側だから許して……
お付き合いいただきありがとうございました。




