第三話
第三話です。
新キャラ登場。
――とあるビルの屋上。
あれからさらに三日すぎた。
まだ朱音の足取りはつかめない。
蒼太は焦り、いら立っていた。
時間が過ぎれば過ぎるほど朱音の生存は怪しくなる。
そも、人ひとり探すのに人員が二名というのがすでに無理がある。
その上地上に降りれば余計にわかりにくく、ネクロが邪魔になってしょうがないのである。
「くそ、なんか痕跡でもみつかれば……」
「ステルスでひっそり移動してるなら無理だよ……」
恵里香も大分参っていた。
仕方なく壁に向かいつつ、地上の様子に目を光らせる。
これしかないのである。
実際恵里香の言ったことは真実なのだ。
極力ネクロを避け、レイジを避け、無理をしない範囲で休み、こっそりステルス補充をしている朱音を探すのは至難を極めた。
現在朱音との距離は大分離れてしまっている。
いや、離れてしまったという方が正解だろう。
なんとなく自分の考えに不安になり、捜索範囲を広げてしまった蒼太のミスである。
そのまま直進していればひょっとしたら出会えた可能性があったのを逆に広げてしまったのだ。
二人の移動速度ならば、今戻れば追いつける。
しかし、自分たちが見当違いの所に居るという事すらわからない今の状況ではどうすることも出来ない。
携帯電話は既に試した。
コールはするが、朱音が出ることはなかった。
これが蒼太の焦りに拍車をかけている要因の一つでもある。
この時朱音は携帯を携帯していなかった。
というか家を出るときに置いてきてしまっていた。
これはステルスを作る為に精神的に参ってしまった朱音の失態であり、家を見たときに携帯の存在に気づかなかった蒼太たちのミスである。
「くそが……」
とあるマンションの一室に温くなったビールと共に置いてあったビーフジャーキーを荒々しく齧りとりながら悪態をつく蒼太。
ぼやいたところで事態が好転するわけでもないが、ぼやかずにはいられない。
今日も一日が終わる。
収穫もなく、不安そうにする蒼太を恵里香はそっと抱きしめた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
捜索五日目、朱音にすれば六日目。
蒼太たちはかなり朱音に近づいていた。
ともすれば再開が叶ったかもしれないこの日は、三人にとって実に不幸と呼ぶ出来事が起きる。
一つは朱音の拉致、そして蒼太たちは……。
「助けてくれぇぇぇ!」
「蒼太!」
「ち、この忙しい時に! わかってる!」
もはや朱音を諦める選択も見え始めていた二人の眼下には、ネクロに追われる男性の姿があった。
蒼太は近くにあった工事現場から剣先スコップを調達し、自分たちがレイジだと悟られぬよう進行方向に先回りして、あたかも悲鳴を聞いて介入した生存者というのを装う。
「シャラ!!」
スカン! という金属の音が響き、ネクロの首が落ちる。
刃物でもないスコップで硬い骨を切断したことに対して疑問に思われそうだったが、男性はパニック状態だったので追及されずに済んだ、目が赤い事にも気づいていない様子。
「義によって助太刀する! 殿は務めるから逃げろ!!」
間違ってはいないが、どこか時代を間違えたセリフが出たことに少し恥ずかしくなる。
「あ、あああ、助かった! 拠点にしている場所がある、アンタも一緒に!」
突然の乱入に驚いたのか転倒しているが、生存者だとわかった男性は安全な拠点があると告げてきた。
「わかった、案内しろ! ヤバイと思ったら俺にかまうな! 恵里香、この人を!」
「うん! えーい!!」
蒼太の指示で横合いから手ごろなサイズの角材を持った恵里香が飛び出し、男性に近寄ろうとしていた別のネクロの頭を殴り飛ばす。
「大丈夫? さ、立って!」
あの恐怖に怯えていた彼女はどこに行ったのだろう、これも「ベルセルク」の影響なのだろうか? と少しだけ蒼太が悲しくなったのは内緒だ。
「お、女の子!? いや、わかった。アンタも無理はしないでくれ!」
もう一人いたことと、それが女の子だったことに驚きはしたが、戦力が増えることはやぶさかではない男性は即座に納得し、拠点に向けて転進を始める。
「大丈夫だ、少し蹴散らしたらすぐ行く! オラァ!!」
追いすがるネクロの中でも速度があるものの足を潰し、突き飛ばしながら二人の後を追う。
全てを相手取るにはやはり量が多すぎる。
戦いとは数なのだ。
「兄ちゃん、こっちだ!」
非常用の避難梯子を上った先で男性が声をかける。
蒼太は残りを無視して一目散に梯子を上った。
「はあ……兄ちゃんのおかげで助かったよ、アイツらは登れないからもう安心だ」
レイジなら登れるけどな、と呟いたのを聞かれてしまい説明する羽目になった。
どうやらこの辺りでは見かけていないらしいので警戒程度で良いと伝えておく。
そのまま建物の奥に案内され、大き目の部屋にたどり着く。
中には数人の生存者が寛いでいた。
「おい夏目! なんだコイツ等は!」
「俺がゾンビどもに見つかって死にそうになっていたところを助けてくれたんだよ」
「ちっ、これ以上食い扶持増やしてどうすんだよ!」
「ちょっと、やめてよ飯田さん! この人たちが居なかったら、その食事すら夏目さんは持ってこられなかったかもしれないのよ!?」
「けっ」
「ごめんなさぁい、飯田っちはぁ~お腹が空いてイライラしてるだけなのぉ~」
「るせえ! 黙ってろこのオカマ野郎!」
随分と濃い面子だ。
「とりあえずぅ、自己紹介するわねん」
この一番濃ゆい人は上杉健治、筋骨隆々で口ひげが素敵なおっさん。
なぜかレスリングスーツのようなものを着ている。
レオタードかもしれないが、どちらにせよコメントに困る恰好をしている。
フレディ・マーキュリーが好きらしい。
源氏名は嘉万保莉菜、酷いネーミングだ。
助けた男性は夏目陽介、先ほどの傲慢な飯田という男に頭が上がらなく、今回の食料調達も無理やり押し付けられたようだ。
確かに押しの弱そうな顔をしている、線も細くてどことなく儚い感じがする。
悪く言えば存在感が薄い。
飯田を窘めた女性は海野真鈴、どことなくキラキラしてる感じがする名前。
恵里香と同い年で大学に通っていたそうだ。
ちなみに胸部装甲は恵里香よりも厚い。
友達になればムードメーカーポジに収まるであろう明るい性格をしている。
最後は飯田哲哉、これは本人の自己紹介ではない。
なので保莉菜(源氏名で呼ばないと拗ねる)が教えてくれた。
二人も簡単に自己紹介して現在の状況を聞く。
状況は見たまま、誰かが食料調達(もっぱら夏目)に行き、その間は残ったメンバーが拠点を防衛する。
しかし、現在困ったことになっているという。
「実は近くのマンションに俺の知り合いが籠城しているんだ」
しかもこれまた数人での籠城で、ここよりも状況は悪いらしい。
何とかして助けに行きたいが、食料調達もこのザマで救出なんかもっての外。
戦えるのが飯田と保莉菜だけだというのも二の足を踏む原因だ。
どちらかを防衛要因として残しても不安が残る。
そこで現れたのが強烈な戦闘能力を持つ蒼太と恵里香という事だ。
「恥を忍んで二人にお願いしたい、どうか俺の知り合いを救出してくれないか?」
突っ込んで聞けばここ二日ほど連絡が途絶えているそうだ。
最悪ゾンビ化か死亡だとしても知り合いの状況を見てきて欲しい、生きていて可能なら連れてきて欲しいとのことだ。
しかし、そうなると当然……。
「何人いるかわからねえ、俺たちだけの食料でもヒイヒイ言ってる状況で救出だぁ? ふざけるのも大概にしろよ夏目!」
と、このありさまだ。
「……わかった、可能なら救出だな。ついでに食料もかき集めてきてやる、それでいいか?」
「蒼太くん!」
「男前ねん!」
「どっかの誰かさんより度胸あるわね!」
「ふふん!」
恵里香がドヤ顔している。
殴りたい、その笑顔。
「ちっ、言ったな? じゃあやって見せてもらおうじゃねえか」
実は蒼太もこの男の態度には少々嫌気がさしていた。
「交渉成立だな、上手く行ったら文句いうなよ?」
「生意気なガキめ……上手く行ったらな」
「おっけー、行くぞ恵里香」
「ちょっとん、恵里香ちゃんも行くのぉ?」
「え? 行きますよ」
「うーん……私は実際に二人の実力を見てないからなんとも言えないけど、女の子がそんなとこ行くのは忍びないわねん……代わりに私が行くわん!」
「え……」
蒼太的にご遠慮願いたい。
「決めた! 行くわよん、蒼太ちゃん!」
話も聞かず強引に蒼太の腕を引っ張っていくのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――???
「はい……はい……接触しました……ええ……向かわせました……指示通り巣窟になってます。ですが、女が残りました……はい……わかりました、女は保留ですね。……鉄心さん」
お付き合いいただき有難うございます。




