第二話
体調不良で予定していた日に完成しなかったです。
スミマセンです、はい。
ブックマーク評価感想、読んでくださっている皆様に感謝です。
「こっちだ!」
「うん!」
現在二人はネクロに追われている。
第二隔壁に侵入したとき、数はまばらだったので通りやすくするのに少しだけ減らしたのが失敗だった。
それに反応して続々と集まってきてしまったのだ。
流石に大量のネクロを相手にするのは今の蒼太でも荷が勝ちすぎる。
「あのマンションのベランダ上へ!」
「わかった!」
幸いだったのはレイジが居ない事。
大して頭のよくないネクロは高いところに登れば手を伸ばしてくるだけで追いかけては来ないからだ。
階段は平気で駆け上ってくるが。
「屋上伝いに行こう!」
「OK!」
高いビルやマンションと割と密集しているのが幸いして移動はそこまで苦にはならない。
苦にはならないのだが……。
「冷静になって考えるとこの高さに簡単に跳べたんだよね……」
「ん? あ……そう……だな」
それは二人が超人的な膂力を誇るレイジと同じ存在だと証明するようなものだった。
「……あんま気にするな、今はこの力が役に立っているんだからさ」
「……うん」
人の外見をした人に非ざる者、人に排され、レイジには襲われ。
いや、手出ししなければ実際はレイジに襲われないのだが、二人はまだそれを知らない。
これは朱音と違い、なまじ戦えるが故の弊害であった。
「ま、このままいけばあと30分もしないでつくからさ。後のことはそん時考えよう」
「……わかった」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「着いた、まわりに奴らは……居ないな」
言った通りおよそ30分ほどで蒼太は懐かしい自宅に到着した。
「立派な家だね」
「父さんが残してくれたんだ。大したもんじゃないが、思い出の多く残る俺の城だ。朱音、いるか?」
声をかけて見るも反応はない。
「鍵どこやったかな……」
ごそごそ鞄を漁っている蒼太を見ながらなんとなく恵里香はドアに手をかけてみた。
「そ、蒼太!」
「どうした?」
「……開いてる」
「なんだと!」
街のこの状況で家の鍵が開いている、これが意味する事を考えて蒼太は血の気が引いた。
慌てて家の中に飛び込み、朱音の名前を呼ぶ。
返事は勿論返っては来ない。
「蒼太! こっちに来て!」
「どうした! 何かあったのか!?」
「こ……コレ……」
「な……これは……」
恵里香が見つけて蒼太が愕然としたもの。
凄惨な朱音の痕跡。
「……ヤオイ穴って……何?」
「俺に聞くな……」
「それにこの主人公、蒼太に似てない?」
「言うな……」
「うわ! うわ! スゴイ! ねえ見て、結構実物に近いよ!」
「止めてくれ!」
「あ、でも長さは本物の……」
「お願いやめてぇぇ!!」
普段おちょくられてる意趣返しも込めて恵里香は散々蒼太を弄り倒したあと別の場所の捜索に向かった。
蒼太はテーブルの下にタブレット見つける、見てみるとあるスレッドが待機状態になっていた。
「……ステルスか」
「蒼太!」
「こ、今度は何だ!」
「コレ……」
ベランダから中に入ってすぐの所に広がる肉片とおびただしい血痕、それに血の付いたバケツ。
部屋に争った形跡はなく、そこだけが浮いたような空間。
「……となると」
蒼太は即座に物置に向かう、案の定レインコートと破砕斧が無くなっていた。
「朱音は襲われた訳じゃなく、ここから逃げ出す選択をとったみたいだ」
「え?」
「これを読んでみろ」
持ってきていたさっきのタブレットを恵里香に渡す。
スレの内容を追っかけ、ステルスの件を見て納得した。
「おっかけないと……でもどこに向かったのか分かんないね」
「それならわかる」
「どうして?」
「アイツの思考は割と単純だ、アイツなら家から出て正面に行く」
そんなバカなと恵里香は思ったが、証拠も情報もない。
付き合いは蒼太のほうが圧倒的に長いというか恵里香はあった事すらないので従うことにした。
「じゃあ行くか……って、それはおいていけよ……」
「えー……朱音ちゃん保護したら続き書いて欲しかったのにー……」
「勘弁してくれ……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
蒼太の家から出発して30分ほど、先と同じように屋上伝いに跳んで移動しているためにその速度は最低でも自転車くらいは出ている。
隠れながら移動している朱音とならば、発見までそう時間はかからないと思った。
「蒼太」
途中恵里香が声をかけてくる。
「何だ?」
「さっきから気になってたんだけど、レイジの数少なくない?」
「……そういわれればそうかもな」
蒼太も少し気にかかったので一度足を止めてアイツらの動きを観察することにした。
屋上から眺めていると確かにレイジの数が少ない。
見つけたものと言えば庭でゴルフスイングの練習をしているレイジくらいだ。
「なんか、普通のおっさんみたいな行動だなアイツ」
「だね」
スイングを終えて家に入り、少しすると外に出てきて家の前で伸びをしてからまたスイングに戻るレイジ。
「一定の行動を繰り返してるのか」
「……なんか悲しいね」
これ以上は変わらないだろうと思った時、ゴルフレイジの状態に変化が現れる。
唐突に膝をつき、その場に倒れ伏したのだ。
一体何がおこったのか分からず、二人はその様子をじっと観察する。
ほんの少ししてからゴルフレイジは立ち上がり、そして他のネクロと同じようにフラフラと歩きだしたのだ。
「……ネクロになった?」
「なんで?」
「俺に聞くな……」
始めて見る現象に戸惑う二人。
結局理由は分からなかったので移動を再開しようとしたところ、同時に腹の虫が悲鳴をあげた。
「……さっきのレイジの家で何か作るか」
「……お願いします」
家主がどこかにいってしまったのなら遠慮することは無いだろう。
人が居ない以上その辺の倫理観は必要なかった。
適当に冷蔵庫の中を漁り、腹ごしらえしたあとに蒼太は違和感を覚える。
(アレ? そう言えば第二隔壁に来る前に飯食わなかったか?)
最後に食事をしてからの時間を考えると夕食までは速すぎる。
なのに身体は空腹を訴えた。
(いくらなんでも早すぎないか?)
「蒼太、また難しい顔してる」
「ん、ああ……なあ恵里香、俺たちが飯食ってから何時間たった?」
「え? 4時間くらい……かな」
「例えば12時に飯食って次に腹減るのは何時だ? 個人差があるからお前の感覚でいい」
「うーん……6時くらい……あれ?」
「気づいたか?」
「うん、スンゴクお腹空いたから夕食の時間かと思ったけど全然早いね」
「そうなんだよな……」
「なにか引っかかるんだね?」
「ああ、憶測でいいなら言えるが?」
「教えて」
「わかった」
蒼太はさっき倒れたレイジのことも気にかかっていた。
今考えてる憶測が合ってるなら説明がついてしまうからだ。
蒼太の憶測、それは。
――「カロリー消費」
レイジの特性であるあの膂力は非常に燃費が悪いのではないだろうかと蒼太は考える。
通常人間は脳がリミッターをかけて全力を出すことが出来ない。
そのリミッターを解除できたなら人間は岩をも砕く力を発揮できるという。
しかし、そのような事をすれば自らの身体を破壊してしまう。
だから全力が出せないようになっているのだ。
そのリミッターを完全にではないが解除できる術も存在する。
例えば薩摩示現流。
この流派には奇声をあげながら重たい木刀で立木を打ち据える「立木打ち」と言われる修行がある。
これを修めることで初太刀に信じられないような力を込めて放つことが出来るという。
トンボと呼ばれる独特な構えから放たれるこの一撃は決して受けてはならないとすら言われていた。
もしこのような力を常時展開できるとするならどうだろう?
レイジたちのような人外の動きも可能なのではないだろうか?
しかし、それでは身体の方が参ってしまう。
ならどうするか?
単純な話筋力を上げて強化してやればいい。
100%で壊れてしまうならそれに耐えられる身体を作ればいい。
ベルセルクという薬は脳のリミッターを解除し、それに耐えうる肉体を与える薬なのではないかというのが蒼太の予想である。
そうすると先のレイジがネクロになった理由も説明がつく。
要するにエネルギーが足りずに餓死したようなものだ。
酵素なのか何なのか分からないが、人外の膂力を維持するためのエネルギーが足りずに宿主の細胞から足りないものを摂取、補充されない限りそれは行われ続けるだろう。
それすらも出来なくなったら……。
「ネクロになる」
「でも今まで大丈夫だったよ?」
「それは俺たちが積極的に力を使わなかったからじゃないか?」
「あ……」
そう、ここまで移動するのに積極的にレイジの力を二人は使ってきた。
目が赤い色を宿しているときがそうなのだろう。
今は白に戻っている。
「俺たちは自分の意志でオン・オフ切り替えられているからこの程度ですんでるんじゃないか?」
恵里香には否定するような言葉が出てこなかった。
むしろそれが正解のような気もする。
「ま、一応気をつけようぜ」
「そう……だね」
非常用に携帯出来る食料を持っていく。
今はそれしかないだろう。
この先も間違いなくこの力に頼ることになるだろうから。
少し短い気もしますが今はこれが精一杯。
もう少しサクサク行きたい気もしないでもない。
次回は……ちょっと未定。
本年度もご愛読ありがとうございます。
来年もよろしくお願いいたします!




