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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第91話:月下のワルツ


エルロード邸の大広間ボールルームは、シャンデリアのきらびやかな光と、人々の上品な笑い声で満ちていた。

僕は、陽菜とクリスティーナに両脇を固められ、学園やギルドの有力者たちに、次から次へと紹介されていた。

「こちらが、先日、グリフォンを単独で撃退されたという、噂の特待生アリア様です」

「おお、これはこれは……」

好奇と、畏敬と、そして少しの探るような視線が、僕に突き刺さる。僕は、ただ、愛想笑い(マスクの下で)を浮かべ、差し出されるグラスを受け取るだけで、精一杯だった。


やがて、オーケストラの生演奏が、優雅なワルツの調べを奏で始めた。ダンスタイムの始まりだ。

その、最初の曲。

「アリア様。一曲、お相手を願えませんこと?」

クリスティーナが、僕の前に立ち、まるで王子様のように、優雅に手を差し出してきた。

断れるはずもなく、僕は、その手を取るしかなかった。


クリスティーナのリードは、完璧だった。ダンス経験など皆無の僕を、彼女は、まるで羽のように軽やかに、ダンスフロアの中心へと導いていく。

くるり、とターンするたびに、僕のワンピースの裾と、銀髪が、ふわりと舞う。

周囲からは、「まあ、なんてお似合いの二人……」という、ため息混じりの声が聞こえてきた。


その光景を、フロアの隅で、陽菜が、じっと見つめていた。

その手には、ジュースの入ったグラスが、強く握りしめられている。唇を、きゅっと、噛み締めて。


クリスティーナとの、夢のような(僕にとっては悪夢のような)一曲が終わり、僕がようやく解放されると、その腕を、むんずと誰かに掴まれた。

「……蓮。ちょっと、来て」

陽菜だった。彼女は、不機嫌そうな顔で、僕を強引に引っ張り、喧騒から離れた、月明かりが差し込むバルコニーへと連れ出した。


ひんやりとした夜風が、火照った僕の頬に心地いい。

「……どうしたんだ、陽菜」

「……別に」

陽菜は、ぷいっとそっぽを向き、バルコニーの手すりに寄りかかった。

「……蓮ってば、クリスティーナ先輩の方が、いいんだ」

拗ねたような、小さな声。

その、あまりにも分かりやすい、やきもち。

僕は、思わず、笑ってしまった。


「――陽菜が、一番に決まってるだろ」


僕の、素直な言葉。

それを聞いた陽菜の肩が、びくっ、と跳ねた。

彼女が、ゆっくりと振り返る。その顔は、月明かりの下でも分かるほど、真っ赤に染まっていた。


――その、甘い光景を。


バルコニーへと続く、カーテンの影から、三人の少女たちが、固唾を飲んで見守っていた。

(いっちゃえーーーっ!)

ミカは、興奮のあまり、目の前のカーテンの裾を、ぎゅっと強く握りしめた。

アヤとユキは、無意識に、お互いの身体を、がしっ、と強く抱きしめ合い、その瞳は、僕たち二人に釘付けになっている。


「……ここで、踊るか?」

僕は、バルコニーに漏れ聞こえてくる、ワルツの調べに合わせるように、陽菜に手を差し出した。

「誰もいないし」

「……うん!」

陽菜は、はにかみながら、その手を取った。


だが、ダンス経験のない、僕たち二人。

ステップは、ぎこちなく、お互いの足を何度も踏みそうになる。

そして、僕がターンしようとした瞬間、ドレスの裾が足に絡まり、バランスを崩してしまった。

「わっ!?」

「危ない!」

倒れそうになる僕の身体を、陽菜が、咄嗟に支える。

気づけば、僕は、陽菜の腕の中に、すっぽりと抱き上げられるような形になっていた。

腕は、僕の腰に、しっかりと回されている。

僕たちの顔は、もう、触れ合うくらいに、近かった。

お互いの瞳から、目が、離せない。

そして、どちらからともなく、ゆっくりと、顔の距離が、近づいていき――。


「――そこで、何をしていらっしゃるのかしら?」


氷のように冷たい、しかし、どこか楽しげな声。

バルコニーの入り口には、腕を組んだクリスティーナが、立っていた。

そして、その視線は、僕たち二人ではなく、カーテンの影で奇行を演じている、友人たちに向けられていた。


「「「ひゃっ!?」」」

三人は、びくりと肩を震わせる。

ミカは、慌ててカーテンの皺を、シュシュッと直すふりをした。

アヤとユキは、抱き合ったまま、無理やり社交ダンスのようなポーズを取って、ごまかそうとしている。無理がありすぎる。


はっ!と我に返った僕と陽菜は、慌てて手を離した。

陽菜は、「むーっ!」と、真っ赤な顔で、友人たちをじろりと睨む。

友人たちは、「いや、あはははは!」と、乾いた笑いを浮かべるだけだ。


クリスティーナは、そんな友人たちに、にっこりと、完璧な笑みを向けた。

「皆さん。あとで、しっかり、教えてくださいましね? 一体、何があったのかを」

その瞳は、全く笑っていなかった。

嵐の前の、静かで、甘くて、そして少しだけ騒がしい、最後のワルツは、こうして、幕を閉じたのだった。


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