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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第90話:鏡の前の、二人きり


パーティーの開始時刻が、刻一刻と近づいていた。

ゲスト用の広い部屋には、大きな姿見が置かれ、少女たちは最後の身だしなみチェックに余念がない。

僕は、陽菜が選んだ純白のワンピース姿で、所在なげにソファに座っていた。その隣では、タキシード風の首輪をつけたリリィが、退屈そうに尻尾を揺らしている。


「お嬢様、少々よろしいでしょうか」

不意に、セバスチャンが部屋のドアをノックし、クリスティーナを呼び出した。

「どうしましたの、セバスチャン?」

「はい。警備システムの一部に、微弱なノイズが確認されまして。念のため、ご確認を」

「まあ、物騒ですこと。わかりましたわ、すぐに行きます」

クリスティーナは、僕たちに「少しだけ、席を外しますわね」と優雅に微笑むと、セバスチャンと共に部屋を出ていった。


その直後だった。

「あ、私、ちょっと飲み物取ってくるね!」

ミカが、にこりと笑って部屋を出ていく。

「わ、私も、お手洗い!」

アヤが、慌てたように後を追う。

「……ユキも、行くの?」

「う、うん! ちょっとだけ!」

ユキも、顔を赤らめながら、そそくさと部屋を出てしまった。


しーん……。


広い部屋に、僕と陽菜、そして猫一匹だけが、取り残された。

あまりにも、あからさまな友人たちの気遣い。

僕と陽菜は、顔を見合わせることもできず、気まずい沈黙が、気まずい空気となって、部屋を満たしていく。


沈黙を破ったのは、僕の方だった。

僕は、意を決して立ち上がると、姿見の前に立つ陽菜の、その後ろに立った。

鏡の中の僕たちは、まるで物語の王子様とお姫様のようで、なんだか、むず痒い。


「……陽菜」

僕が、か細い声で名前を呼ぶ。

「……なに?」

陽菜も、鏡越しに僕を見つめ、小さな声で答えた。


「……そのドレス、すごく、綺麗だ」


僕の、精一杯の言葉。

それを聞いた瞬間、陽菜の肩が、びくっ、と小さく跳ねた。鏡に映る彼女の顔が、みるみるうちに、真っ赤に染まっていく。

「……れ、蓮こそ……。すごく、綺麗……だよ」

しどろもどろに、そう言ってくれる。


僕たちは、鏡の中の互いを見つめ合ったまま、動けなくなってしまった。

僕は、気づけば、陽菜の、震える小さな手を、そっと握りしめていた。

陽菜も、その手を、ぎゅっと、握り返してくる。

二人の間に、言葉は、もう必要なかった。


――その、甘い光景を。


部屋のドアの、ほんのわずかな隙間から、三つの瞳が、ギラギラと輝きながら覗き込んでいた。

ミカと、アヤと、ユキだった。

「「「…………っ!!」」」

三人は、声にならない叫びを上げ、興奮のあまり、お互いの身体をぎゅーっと、力いっぱい抱きしめ合った。

(きゃーーーっ! 手、握った!)(ミカ)

(もう、いっちゃえ! いっちゃえよー!)(アヤ)

(尊い……尊すぎます……!)(ユキ)


興奮のあまり、お互いを強く抱きしめていた三人は、不意に、抱き合っている相手が誰なのかに気づき、ハッとした。

ミカとアヤ、アヤとユキの目が、至近距離で合う。

「「「……あ、いや……」」」

なぜか、三人とも、顔を真っ赤にして、慌てて身体を離した。


「……そ、そう!陽菜たち、どうなった!?」

ミカが、ごまかすように、再びドアの隙間から部屋を覗き込むと――。

目の前に、陽菜の、真っ赤な顔があった。


「――なーに、見てるんですかっ!」


「「「ひゃーーーっ!?」」」

三人は、小さな悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように、廊下の向こうへと逃げていった。

陽菜は、ドアの前で、ぷんすかと頬を膨らませている。その顔は、怒っているというよりは、羞恥心でいっぱい、といった感じだった。


ちょうどその時、クリスティーナが、廊下の向こうから戻ってきた。

「あら? 皆さん、何を騒いでいらっしゃるのかしら?」

彼女は、真っ赤な顔の陽菜と、空っぽになった部屋を交互に見比べ、不思議そうに首を傾げた。


「さ、さあ! パーティー、行きましょう、先輩!」

陽菜は、僕の手を強引に引くと、そそくさと部屋を後にしてしまう。

僕たちの、少しだけ進んだ(かもしれない)関係は、友人たちの、熱すぎる視線によって、一旦、保留となった。

華やかなパーティー会場の喧騒の中、リリィだけが、これから起こるであろう本当の脅威を、ただ一人、静かに警戒し続けていた。


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