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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第87話:女王様からの招待状


路地裏での一件から、数日が過ぎた。

僕たちの日常には、奇妙な静けさが戻っていた。敵からの、直接的な接触はない。だが、それは嵐の前の静けさだと、僕たちは理解していた。

街を歩けば、どこかで見られているような視線を感じる。陽菜も、以前のような無邪気な笑顔を見せることは少なくなり、その横顔には、常に警戒の色が浮かんでいた。

僕と陽菜、そしてリリィ。三人の間には、言葉にしなくとも、「戦いが近い」という共通の認識が、重く漂っていた。


そんな、張り詰めた空気で満ちた、ある日の午後。

アパートのインターホンが、軽快な音を立てて鳴り響いた。


「……はい」

僕が、警戒しながらモニターのスイッチを入れると、そこに映し出されていたのは、完璧な燕尾服に身を包んだ、セバスチャンの姿だった。

「アリア様。お嬢様より、皆様へお届け物でございます」

モニター越しの、完璧すぎる笑顔。


ドアを開けると、セバスチャンは、深々と一礼し、金色の縁取りが施された、一通の豪奢な封蝋付きの封筒を、僕に差し出した。

「……これは?」

「お嬢様からの、パーティーへのご招待状にございます」


リビングに戻り、陽菜とリリィが見守る中、僕はその封筒を開いた。

中から現れたのは、美しいカリグラフィーで綴られた、一枚のカードだった。


『――親愛なるアリア様、陽菜様、そしてリリィ様へ

先の黒木教授撃退の祝勝会と、皆様の快気祝いを兼ねまして、ささやかながら、わたくしの屋敷でパーティーを催したく存じます。

皆様の武勇伝を、ぜひ、わたくしたちにもお聞かせくださいな。

心より、お待ちしておりますわ。

クリスティーナ・フォン・エルロードより』


「……パーティー?」

陽菜が、困惑したように呟く。

そのタイミングは、あまりにも、唐突だった。

少し時期外れな祝勝会。僕たちが、見えざる敵の脅威に晒されている、まさにこの時に。


「……どうする、蓮?」

陽菜が、不安そうな目で僕を見る。

僕も、迷っていた。こんな状況で、のんきにパーティーに参加している場合ではない。

だが、これは、僕たちの身を案じたクリスティーナなりの、気遣いなのかもしれない。彼女の善意を、無下にはできない。それに、彼女の屋敷は、この第七区画で、最も安全な場所の一つでもある。


僕が考え込んでいると、足元で、リリィが「にゃん」と短く鳴いた。

その金色の瞳は、「行くべきだ」と、はっきりと語っていた。

(……敵の狙いは、陽菜の誘拐。ならば、一番安全な場所に、こちらから移動するのは、悪くない手だにゃ。それに、あの屋敷なら、面白い情報が手に入るかもしれん)


「……わかった。行こう」

僕の決断に、陽菜は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに「うん」と頷いた。

「そうだね。クリスティーナ先輩も、私たちのこと、心配してくれてるんだもんね」


こうして、僕たちは、クリスティーナからの招待を受けることにした。

それが、敵が待ち望んでいた、最高の「機会」を、自ら作り出すことになるとも知らずに。


その夜。伊集院権三の元に、『掃除屋』からの報告が届いていた。

『――ターゲット一同、週末、エルロード邸にて開催されるパーティーに参加する模様。屋敷の警備は最高レベル。正面からの侵入は、不可能に近いでしょうな』

「……ふん。好都合だ」

権三は、モニターに映し出された、エルロード邸の俯瞰図を見ながら、歪んだ笑みを浮かべた。

「籠の中の鳥は、狩りやすい。パーティーが始まる前に、最高の『余興』を用意してやるとしよう」


僕たちの知らないところで、女王様からの善意の招待状は、復讐に燃える男の、邪悪な計画の、最後のピースとなって、完璧に嵌ってしまっていた。

華やかなパーティーの幕開けは、同時に、僕たちの日常を終わらせる、最終決戦のゴングでもあったのだ。


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