表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/142

第83話:陽菜、狙われる


エレクトラからの警告を受けてから、数日が過ぎた。

僕たちの日常は、表面上は何も変わらない。だが、その水面下では、見えない脅威への警戒が、常に張り詰められていた。

陽菜の登下校は、僕がアリアの姿で、気づかれな-いように遠くから護衛するのが日課になった。陽菜自身も、一人で不用意に出歩くことはなくなった。


だが、敵は、僕たちが思っていた以上に、狡猾だった。


その日の放課後。

陽菜は、友人たちと一緒に、賑やかな商店街を歩いていた。明日のホームルームで使う、パーティーグッズの買い出しだ。

「ねえ、このクラッカー、面白くない?」

「こっちの変なメガネもいいかも!」

友人たちと笑い合いながら、雑貨屋を巡る。その傍らには、ミカたち『銀の百合騎士団』の面々も、まるで護衛のように付き添っていた。

これだけ人がいれば、大丈夫だろう。陽菜も、そして遠くのビルの屋上から彼女を見守っていた僕も、そう思い始めていた。


その時だった。

「――あ、陽菜ちゃん!」

背後から、聞き覚えのある声がした。

振り返ると、そこに立っていたのは、陽菜のクラスの、少し気弱で大人しい男子生徒だった。

「どうしたの、田中くん?」

「あ、あのさ……。今、先生に頼まれて、資料を運んでるんだけど、一人じゃ大変で……。少しだけ、手伝ってもらえないかな? すぐそこの公民館までなんだけど」

彼は、申し訳なさそうに頭を下げながら、大きな段ボール箱を抱えている。その額には、汗が滲んでいた。


「え、いいよ! みんな、ごめん、私ちょっとだけ抜けるね!」

困っているクラスメイトを、放っておけない。それが、陽菜の人の良さだった。

「陽菜、大丈夫? 私たちも行くよ」

ミカが心配そうに言うが、陽菜は「大丈夫だって! すぐ戻るから!」と笑顔で手を振った。

僕も、屋上からその様子を見ていたが、相手が顔見知りのクラスメイトであること、そして人通りの多い商店街の中でのことだ。さすがに、危険はないだろうと判断してしまった。

それが、僕たちの、致命的な油断だった。


「こっちだよ、陽菜ちゃん。近道があるんだ」

田中くんは、陽菜を連れて、商店街の賑やかな大通りから、一本脇の、薄暗い路地裏へと入っていった。

古びたビルの壁に挟まれた、人通りのない道。昼間だというのに、太陽の光が届かず、ひんやりとした空気が漂っている。


「……ねえ、田中くん。本当に、こっちで合ってる?」

陽菜が、不安そうに尋ねた、その時。

前を歩いていた田中くんが、ぴたり、と足を止めた。


彼は、振り返らない。

ただ、抱えていた段ボール箱を、ことり、と静かに地面に置いただけだった。

そして、一言も発することなく、猛烈な勢いで、路地裏の奥へと走り去っていった。


「え……? ちょ、田中くん!?」

陽菜が、その不可解な行動に戸惑っている、その刹那。


路地裏の奥、ゴミ箱の影や、非常階段の下から、ぞろぞろと、見知った顔が現れた。

伊集院翔の、元取り巻きたちだった。

彼らは、錆びた鉄パイプや、角材を手に、にやにやと下卑た笑みを浮かべて、陽菜の退路を塞いでいく。

田中は、ただの「おびき寄せ役」。役目を終えた彼は、自分の身の安全を確保するため、さっさとその場から逃げ出したのだ。


「よぉ、橘。久しぶりだな」

リーダー格の男が、肩を鳴らしながら、一歩前に出る。

「お前と、あのアリアのせいで、俺たちは散々な目に遭ってんだ。その落とし前、きっちりつけてもらおうか」


罠だ。

気弱なクラスメイトを装い、陽菜を一人にさせ、油断させて、この場所に誘い込む。あまりにも、巧妙で、悪質な罠。

陽菜は、ようやく、自分が嵌められたことを理解した。


「……っ!」

陽菜は、咄嗟にスキルを発動させようと、身構えた。

だが、それよりも早く、彼女を取り囲んでいた男の一人が、懐から取り出した小さなスプレーを、陽菜の足元めがけて噴射した。

甘い、花のようないい匂い。


「……なに、これ……からだに、力が……」

地面から立ち上る気体を吸い込み、陽菜の身体から、急激に力が抜けていく。意識が、急速に混濁していく。怪異には効かないが、人間には効果てきめんの、強力な麻酔ガスだった。

膝から、崩れ落ちる陽菜。

その無防-備な身体に、男たちの、下劣な手が伸びようとした――。


その瞬間。

――にゃあああああああああああああああああああっ!!

空気を切り裂くような、甲高い絶叫。

陽菜が肩にかけていた、トートバッグの中から、黒い弾丸が飛び出した。

リリィだった。

彼女は、陽菜が家を出る時、こっそりとバッグの中に忍び込んでいたのだ。


リリィは、宙を舞い、最も近くにいた男の顔面に、その鋭い爪を深々と突き立てた。

「ぎゃあああああっ!?」

男の悲鳴が、路地裏に響き渡る。

陽菜の日常は、今、確実に、悪意の牙によって、引き裂かれようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ