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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第82話:最初の警告


スーパーからの帰り道。

夕暮れのオレンジ色の光が、僕たちの影を、アスファルトの上に長く伸ばしていた。

陽菜は、買ってもらったばかりの新しいエプロンが入った紙袋を、嬉しそうに胸に抱えている。その横顔は、先ほどまでの騒がしさが嘘のように、穏やかだった。

僕も、彼女の無邪気な笑顔に、少しだけ毒気を抜かれていた。

(……まあ、たまには、こういうのも悪くないか)

そう思い始めた、その時だった。


ピロリンッ♪


僕のポケットの中で、スマホが、間の抜けた電子音を鳴らした。

画面に表示されていたのは、見慣れたクラゲのアイコン。エレクトラからだ。

『――緊急速報! 緊急速報です、女神様!』

いつものハイテンションな文面。だが、その後に続く言葉に、僕は息を呑んだ。


『貴方様たちは、現在、プロの『掃除屋』に監視されています。本日14時から16時にかけて、スーパーマーケット『サンライト』周辺にて、複数の監視・盗撮行為を確認。証拠映像は、別添ファイルをご参照ください』


僕の指が、震えながら添付ファイルを開く。

そこに映し出されていたのは、僕たちが買い物をしている様子を、様々な角度から撮影した、無数の画像と動画だった。

二階の窓から。駐車場の車の中から。商品の陳列棚の隙間から。

僕たちの、全ての行動が、筒抜けだった。


ぞわり、と背筋に冷たいものが走る。

『――敵の目的は、貴方様たちの行動パターンの分析と、弱点の特定にあると推測されます。陽菜様の単独行動は、今後、極力避けてください。繰り返します。陽菜様を、一人にしないでください』


「……蓮? どうしたの、急に立ち止まって。顔、真っ青だよ?」

僕の異変に気づいた陽菜が、心配そうに僕の顔を覗き込んできた。

僕は、何も言えず、ただスマホの画面を彼女に見せた。


陽菜の顔から、すっと血の気が引いていくのが、手に取るように分かった。

「……うそ」

彼女の、か細い声が、夕暮れの静かな住宅街に、虚しく響いた。

さっきまで、あれほど輝いて見えた世界が、一瞬にして、色褪せた、危険な世界へと変貌する。


僕たちの日常は、見られている。

僕たちの平穏は、狙われている。

その、どうしようもない事実が、冷たい鉄の塊のように、僕たちの胸に重くのしかかった。


「……帰ろう、陽菜」

僕は、努めて冷静に、そう言った。

そして、彼女の手を、強く、強く握りしめた。

陽菜も、震える指で、僕の手を握り返してくる。

その手は、氷のように、冷たくなっていた。


家に帰り着くと、リビングのソファで、リリィが僕たちの帰りを待っていた。

僕たちの、ただならぬ雰囲気を察したのか、彼女は「にゃ?」と不思議そうな顔で、僕と陽菜の顔を交互に見上げた。

リビングの隅では、ちびケイちゃんのホログラムが、いつものようにぱたぱたと手を振っている。だが、その姿も、今の僕たちには、どこか不気味な監視者のように見えてしまった。


その夜の食卓は、重苦しい沈黙に支配されていた。

陽菜が作ってくれたオムライスは、いつもと同じはずなのに、全く味がしない。

僕たちは、言葉もなく、ただ黙々と、食事を終えた。


日常は、まだ、壊れてはいない。

だが、そのガラス細工のように脆い平和の、すぐ外側で。

復讐に燃える男が放った、黒い影が、じっと、僕たちが隙を見せるのを、待ち構えている。

その事実が、僕たちの心に、消えることのない、小さな染みとなって、広がっていった。

静かな、しかし確実な脅威。

僕たちの、本当の戦いは、もう始まってしまっているのだと、悟った。


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