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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第80話:リリィの違和感


穏やかな日々が、続いていた。

陽菜は毎日、楽しそうに学校へ通い、アリアは、僕の膝の上で本を読むのがすっかり日課になっている。

リビングの隅では、ちびケイちゃんのホログラムが、時折ぱたぱたと手を振っている。

あまりにも、平和な光景。


(……だが、何かがおかしい)


私は、キャットタワーの最上段で、香箱座りをしながら、窓の外に鋭い視線を送っていた。

賢者としての、私の野生の本能が、警鐘を鳴らしている。

ここ数日、このアパートの周辺に、奇妙な『匂い』が漂い始めたのだ。

それは、獲物を狙う狩人のような、粘りつくような視線の匂い。殺気とは違う。もっと冷たく、計算された、無機質な敵意の匂い。


その日も、陽菜が学校へ行く時間になった。

「リリィ、行ってくるね! 蓮と、いい子で待ってるんだよ!」

陽菜は、私の頭を優しく撫でると、元気よく玄関を出ていった。

私は、すぐさまベランダへ飛び出し、屋根の上へと駆け上がった。陽菜が、通学路を歩いていく。その小さな背中を、見守るために。


そして、見つけた。

陽菜が通り過ぎる交差点の角。新聞を広げて顔を隠している、見慣れない男。

向かいのマンションの二階の窓。レースのカーテンの隙間から、こちらを覗く、不自然な人影。

彼らの視線は、陽菜の一挙手一投足を、まるで獲物を品定めするかのように、執拗に追いかけていた。


(……やはり、いる)


私の全身の毛が、ぶわりと逆立った。

敵は、すでに陽菜の行動パターンを把握しようと動いている。これは、本格的な襲撃の前触れだ。

すぐに、蓮に知らせなければ!


私は、急いで部屋に戻ると、リビングで本を読んでいた蓮の足元に駆け寄った。

そして、ありったけの焦りを込めて、鳴いた。


「に゛ゃあああーーーっ! ぐるるるっ、フーーッ!!」

(敵だ! 敵がいるにゃ! 陽菜が、狙われている!)


私は、窓の外を前足で指し示し、必死に訴えかけた。

だが、蓮は、私の剣幕に少しだけ驚いた顔をしたが、やがて、ふっと表情を緩めた。

「……どうしたんだ、リリィ。腹でも減ったのか?」

そう言って、僕の頭を、ぽん、と軽く撫でた。


(ちがーーーーーーうっ!!)


私の悲痛な叫びは、もちろん彼には届かない。

蓮は、立ち上がると、戸棚からカリカリの袋を取り出した。

「ほら、おやつだぞ」


(……今は、これを食べている場合ではないのだにゃ……!むしゃむしゃ……うまい……はっ! いかんいかん!)

差し出されたカリカリの誘惑に、一瞬だけ理性が揺らぐ。


「にゃーん! にゃにゃにゃっ!」

(そうじゃない! 陽菜が、あぶないのだにゃ!)

私は、再び蓮のズボンの裾を引っ張り、玄関の方へと導こうとする。

だが、蓮は、困ったように笑うだけだった。

「ははは。そんなに、散歩に行きたいのか? 仕方ないな。後で、少しだけだぞ」


(……だめだにゃ、こいつ。全く、伝わっていない)


私は、その場にがっくりと項垂れた。

言葉が通じない、ということが、これほどにもどかしいとは。

蓮も陽菜も、まだ、自分たちの日常が、薄氷の上にあることに気づいていない。

その氷が、音を立てて割れ始めるまで、もう、いくばくの時間も残されていないというのに。


私は、もどかしさと、迫りくる脅威への焦りで、苛立ちを抑えきれずに、近くにあった陽菜のぬいぐるみを、八つ当たりでガシガシと引っ掻き始めた。

「あ、こら! リリィ!」

蓮の、呑気な叱責の声が、やけに遠く聞こえた。

もどかしい日々が、始まっていた。


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