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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第5章】 学園動乱編 ~黒きハイエナと勘違いの騎士団~

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第71話:最後の罠


翌日の放課後。

防衛高校の空気は、昨日までの穏やかさが嘘のように、どこか張り詰めていた。

夜間部の合同実技訓練。その連絡が、今朝、全生徒に通達されたのだ。

場所は、地下に広がる、第一訓練施設。課題は、「対複数・連携戦闘訓練」。


「なんだか、急だね。こんな大規模な訓練」

訓練施設へ向かう廊下で、陽菜が不安そうに呟く。

「ああ。それに、昼間部の生徒たちも見学に来ているらしい」

僕の言葉に、陽菜はさらに眉をひそめた。僕たち夜間部の訓練を、昼間部の生徒が、それも大勢で見学するなど、前代未聞だった。


僕たちが、だだっ広い訓練施設に足を踏み入れると、その異様な光景に息を呑んだ。

アリーナの中央には、最新鋭の戦闘シミュレーターが設置されている。そして、その周囲を囲む観覧席には、陽菜の友人たちやクリスティーナをはじめ、多くの昼間部の生徒たちが、固唾を飲んで僕たちを見下ろしていた。

その中には、霧島校長の姿もあった。彼女は、腕を組み、氷のように冷たい表情で、アリーナの中央をただ見つめている。


「――全員、整列!」

拡声器を通した、甲高い声が響き渡る。

教官席の中央に立っていたのは、黒木教授だった。その顔には、いつもの温厚な笑みが浮かんでいる。だが、その目の奥は、獲物を前にしたハイエナのように、ギラギラとした狂気に満ちていた。

(……やはり、こいつが)

僕は、静かに警戒レベルを引き上げた。


「本日の訓練は、諸君らの連携能力を測る、重要なテストだ。シミュレーターから放出される、複数の仮想怪異を、チームで連携し、いかに迅速に鎮圧できるか。……その実力、存分に見せてもらおう」

黒木は、そう言うと、特に僕――アリアの顔を、ねめつけるように見つめた。

「特に、アリア特待生。君には、大いに期待しているよ。その規格外の力で、他の生徒たちの手本となるような、素晴らしい戦いを見せてくれることをね」

その言葉は、激励というよりは、呪詛に近かった。


訓練が開始される。

僕たちは、指定されたチームに分かれ、次々とアリーナの中央へと向かった。

仮想怪異との戦闘は、順調に進んでいく。僕も、エネルギー消費を抑えながら、的確に敵の弱点を突き、チームを勝利に導いていた。

観覧席からは、「すげぇ……」「あれがアリアか」という、感嘆の声が聞こえてくる。


だが、僕はずっと、胸の内に燻る、強烈な違和感を感じていた。

(……何かが、おかしい)

黒木の狙いは、何だ? ただ、僕の実力を見せつけるだけで、終わるはずがない。

必ず、何か、裏がある。


そして、僕のチームの訓練が終わり、最後のチームがアリーナに入った、その時だった。


――ガコンッ!!


突如、訓練施設全体が、激しい揺れと共に、不気味な金属音を響かせた。

「な、なんだ!?」

生徒たちが動揺する。

アリーナの中央、シミュレーターが設置されていたはずの床が、巨大な口を開け、地下からせり上がってきたのは――本物の、巨大な檻だった。

その中には、見たこともないほど巨大で、全身から禍々しいオーラを放つ、多頭の蛇型怪異――ヒュドラが、とぐろを巻いていた。その瞳は、赤い光を放ち、明らかに理性を失っている。


「……なっ! あれは、訓練用の怪異ではないぞ!」

「なぜ、こんなものがここに!」

教官たちが、悲鳴に近い声を上げる。


観覧席の生徒たちも、パニックに陥り、出口へと殺到し始めた。

その混乱の中、黒木教授だけが、恍惚とした表情で、檻の中のヒュドラを見つめていた。

(そうだ……! それでいい!)

彼の脳裏には、完璧なシナリオが描かれていた。

このヒュドラは、彼が裏ルートで手に入れ、昨夜のうちに、この場所に仕込んでおいたものだ。そして、先ほど、遠隔操作で『キマイラ・レイジ』を投与し、強制的に凶暴化させた。


――ガキィィィィンッ!!!


ヒュドラは、その巨体で檻に何度も体当たりし、分厚い鋼鉄の格子が、みしみしと音を立てて歪んでいく。

「まずい! 檻が、破られるぞ!」


黒木は、拡声器を手に取り、高らかに叫んだ。

「アリア特待生! 聞こえているか! 君の力が必要だ! あの怪異を、今すぐ鎮圧したまえ!」

それは、命令だった。

そして、巧妙に仕組まれた、最後の罠。


僕が、もしヒュドラを倒せなければ、「特待生のくせに、この程度の怪異も倒せないのか」と、その無能さを詰られる。

もし、倒せたとしても、彼はこう言うだろう。

「見ろ! アリア特待生は、あまりにも危険すぎる! 彼女の力の暴走が、この惨事を引き起こしたのだ!」と。

どちらに転んでも、僕を社会的に抹殺するための、完璧な舞台。


「さあ、どうするね? アリアくん」

黒木は、マイクのスイッチを切り、僕にだけ聞こえるように、愉悦に満ちた声で呟いた。

「君のせいで、ここにいる生徒たちが、皆殺しになるかもしれんのだぞ?」


その時、ヒュドラの最後の体当たりが、檻の扉を完全に破壊した。

「グルォォオオオオオオッ!!」

解き放たれた厄災が、自由を祝うかのように、咆哮を上げる。

その巨大な影が、パニックに陥る生徒たちの上に、絶望的に、覆いかぶさった。

僕の平穏な日常は、今、轟音と共に、完全に崩れ去ろうとしていた。


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