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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第5章】 学園動乱編 ~黒きハイエナと勘違いの騎士団~

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第68話:二つの正義


女子会の熱気が冷めやらぬ、週明けの放課後。

僕は、一通の短いメッセージを受け取り、一人、防衛高校の本校舎、最上階にある校長室の前に立っていた。

磨き上げられた重厚なマホガニーの扉が、僕のような夜間部の生徒にとっては、まるで異世界への入り口のように、威圧感を放っている。


コンコン、と軽くノックする。

「――入りなさい」

中から聞こえてきたのは、凛とした、どこまでも冷静な女性の声だった。

僕は、ゆっくりとドアノブを回し、部屋の中へと足を踏み入れた。


校長室は、僕が想像していたよりも、ずっとシンプルで、機能的だった。壁一面に広がる本棚には、古今東西の戦術書や歴史書が-ぎっしりと並んでいる。そして、部屋の奥。街全体を見下ろす大きな窓を背に、彼女は静かに座っていた。

霧島レイカ。

この防衛高校の全てを統べる、若き女校長。

彼女は、僕の姿を認めると、銀縁の眼鏡の奥の鋭い瞳を、すっと細めた。


「よく来てくれたわね、アリア特待生。まあ、そこに座りなさい」

勧められるがままに、僕は革張りのソファに腰を下ろす。きしり、とソファが軋む音だけが、静寂に満ちた部屋に響いた。

彼女は、何も言わず、ただ僕のことを見つめている。値踏みするような、探るような、全てを見透かすような視線。僕は、サングラスの下で、無意識に身を固くした。


やがて、彼女はゆっくりと口を開いた。

「……紅茶は、嫌いかしら?」

「……いえ」

「そう。なら、良かったわ」

彼女が指を鳴らすと、どこに控えていたのか、秘書らしき女性が音もなく現れ、僕の前に美しいティーカップを置いた。カップからは、ベルガモットの爽やかな香りが立ち上る。


「さて、本題に入りましょうか」

霧島校長は、自分のカップを手に取ると、その黒い水面を見つめながら言った。

「単刀直入に聞くわ。あなたが、ケイ……いえ、『エレクトラ』から、黒木教授に関するデータを受け取ったことは、知っているわ」

「……!」

僕は、息を呑んだ。この人は、どこまで知っているんだ。

「驚くことはないわ。この学園のネットワークは、全て私の管理下にある。彼女が、あなたに接触したことも、その内容も、全て把握している」

彼女は、僕の動揺を楽しんでいるかのように、静かに微笑んだ。


「あなたという存在は、劇薬よ」

霧島校長は、唐突にそう言った。

「あまりにも強く、あまりにも謎が多い。あなたの力は、使い方を間違えれば、この学園の秩序を根底から破壊しかねない、危険な毒にもなる」

彼女は、一度言葉を切ると、窓の外に広がる夕焼けの空に視線を移した。

「……でも、今の淀んだ学園には、それが必要なの」

その横顔には、学園を憂う、指導者としての苦悩が滲んでいた。


「黒木教授の動きは、私も把握しているわ。彼は、伊集院権三という大きな腐敗が失われた後に生まれた、新たな膿よ。放置すれば、いずれ学園全体を蝕むことになるでしょう」

彼女は、再び僕に向き直った。その瞳には、冷徹な、しかし確固たる意志の光が宿っている。

「だから、アリア特待生。……あなたを、利用させてもらうわ」

それは、交渉ではなかった。決定事項の通達だ。

「あなたが持つ、規格外の『力』と、エレクトラが持つ、規格外の『情報』。その二つを使って、私は黒木教授を、完全に排除する。そのための『刃』として、あなたに動いてもらうことになるわ」


彼女は、僕に反論の余地を与えない。

だが、不思議と、不快感はなかった。

彼女の瞳の奥に、僕と同じものを見たからだ。

この、学園という名の『日常』を、守りたいという、強い想い。

彼女の正義と、僕の正義。その形は違えど、向いている方向は、同じだった。


僕は、静かに頷いた。

「……わかりました。協力します」

「賢明な判断ね」

霧島校長は、満足げに微笑むと、一枚のカードキーをテーブルの上に置いた。

「これは、学園の全ての施設にアクセスできる、マスターキーよ。今後の活動に使いなさい。ただし……」

彼女は、人差し指を立て、僕に釘を刺した。

「私の知らないところで、事を起こすのは許さない。あなたの行動は、全て私の管理下に置かせてもらう。いいわね?」

「……了解した」


こうして、僕と、この学園の支配者との間に、奇妙な共闘関係が結ばれた。

彼女は、僕を駒として利用する。

僕は、彼女の力を利用して、黒木を叩く。

それぞれの思惑が交錯する、危険なゲーム。

だが、僕たちの目指す先は、同じはずだ。


僕は、差し出された紅茶を、一口だけ飲んだ。

それは、驚くほど、苦くて、そして深い味がした。

まるで、これからの僕たちの戦いを、暗示しているかのように。


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