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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第5章】 学園動乱編 ~黒きハイエナと勘違いの騎士団~

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第65話:魔女の囁き


身体測定事件から数日。

黒木教授は、苛立ちを隠せずにいた。自分の研究室で、彼はギリ、と奥歯を噛み締める。

手駒にしていた鈴木教師たちは、警察の取り調べを受けた後、学園からは懲戒免職。完全に切り捨てたが、それでも彼の周囲には、見えざる包囲網が着実に狭まってきているのを感じていた。

理事会の重鎮たちからの、あからさまに距離を置くような態度。

そして、彼の資金源の一つであった企業からの、突然の取引打ち切りの通達。その企業の背後に、エルロード商会の影がちらついていることに、黒木は気づいていた。

(……クリスティーナ・エルロード。あの小娘が、動き始めたか)

だが、まだだ。まだ、決定的な証拠はないはず。このまま嵐が過ぎ去るのを待てば、まだ立て直せる。

彼は、そう自分に言い聞かせていた。


その日の放課後。

僕は、夜間部の授業へ向かうため、夕暮れの渡り廊下を一人で歩いていた。

今日の昼間、陽菜の友人たちから「アリアさんのために!」と、手作りのクッキーを大量にもらった。その甘い匂いがする紙袋を、少し気恥ずかしい気持ちで抱えている。


その時、廊下の向こうから、見慣れない……いや、見慣れたような、奇妙な格好の生徒が、ふらふらとこちらへ歩いてくるのが見えた。

つばの広いとんがり帽子に、ダボダボの魔法使いローブ。

(……ケイか)

旧地下鉄以来の再会だった。


「あ、アリア様! こ、こんにちは!」

ケイは、僕の姿に気づくと、慌てて駆け寄ってきた。そして、僕の目の前で、すてんっ!と、見事なまでに何もないところで転んだ。

ばらばらばらっ!

彼女が抱えていた大量の教科書やノートが、派手に床に散らばる。


「だ、大丈夫か?」

僕が呆れて声をかけると、ケイは「だ、大丈夫です! ちょっとしたドジですので!」と顔を真っ赤にしながら、慌てて散らばった荷物を拾い集め始めた。

僕も、仕方なく手伝ってやる。

「……ったく。前見て歩けよ」

「は、はい! すみません!」

二人で教科書を拾い集め、立ち上がる。


「あ、あの! これ、お詫びと言ってはなんですが……」

ケイは、もじもじしながら、一冊のノートを僕に差し出してきた。

「え?」

「わ、私がまとめた、旧世界史のレポートなんです! きっと、アリア様のお勉強の、お役に立つかと!」

そう言って、彼女は僕が抱えていたクッキーの紙袋の中に、強引にノートをねじ込んできた。

そして、僕が何か言う前に、「で、では、私はこれで!」と一礼すると、再びふらふらとした足取りで、廊下の向こうへと去っていった。


「……なんだったんだ、今の」

僕は、紙袋の中を覗き込む。そこには、確かに一冊の大学ノートが入っていた。

だが、その表紙の隅に、小さく、クラゲのマークが描かれているのを、僕は見逃さなかった。


その夜。アパートに帰り、陽菜がシャワーを浴びている隙に、僕は自室で、こっそりとあのノートを開いた。

ノートの中身は、レポートではなかった。

そこに挟まれていたのは、一枚の、小さなUSBメモリだった。


僕は、ノートPCにUSBメモリを差し込む。

画面に表示されたのは、膨大な量のデータだった。

黒木教授の、過去の論文盗用疑惑に関する詳細な証拠。

学内の複数の企業との、不透明な金の流れを示す裏帳簿。

そして、彼が、伊集院権三から長年にわたり、多額の資金援助を受けていたことを示す、決定的な送金記録。

クリスティーナが掴んだ情報と、おそらく同質、あるいはそれ以上の、完璧な証拠の山だった。


そして、そのフォルダの最後に、一つのテキストファイルが添えられていた。

僕がファイルを開くと、画面には、クラゲのAAアスキーアートと共に、短いメッセージが表示された。


『このデータ、面白いんですけど、もっと面白く使ってくれる人がいると思うんですよねー。

例えば、正義感の強い校長先生とか?

彼女にこれを見せたら、一体どんな顔をするでしょうね?

ふふふ、楽しみです♪ by E』


「…………」

僕は、画面を食い入るように見つめた。

エレクトラの意図は、明らかだ。

クリスティーナは、「外」から圧力をかけている。だが、黒木を完全に排除するには、「内」からの決定打が必要だ。

その引き金を引けるのは、学園の最高責任者である、霧島校長ただ一人。

そして、その彼女を動かすための「弾丸」を、この魔女は、僕に託したのだ。


(……俺に、校長と交渉しろ、と)

それは、とてつもなく重い役割だった。

だが、このまま黒木を放置すれば、また陽菜や友人たちが危険な目に遭うかもしれない。

やるしかない。


僕は、USBメモリを、強く握りしめた。

魔女の囁きは、甘く、そして抗いがたい響きを持っていた。

僕は、この悪魔(あるいは女神?)の誘いに乗り、学園の支配者である霧島校長と、直接対峙することを、静かに決意した。

盤上の駒は、僕の手によって、大きく動かされようとしていた。


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