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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第5章】 学園動乱編 ~黒きハイエナと勘違いの騎士団~

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第63話:ドキドキ身体測定・後編


防衛高校、第一訓練施設。

だだっ広い空間の中央に、最新鋭の身体能力測定ポッドが、無機質な光を放って鎮座している。その周囲は、ガラス張りの観覧スペースになっており、夜間部の生徒だけでなく、噂を聞きつけた昼間部の生徒たちも集まり、固唾を飲んで様子を見守っていた。

その異様な雰囲気は、まるで公開処刑場のようだった。


僕は、その中心で、一人ポツンと立っていた。心臓が、嫌な音を立てて早鐘を打っている。

目の前に立つのは、測定の担当官である黒木派の教師、鈴木だった。彼は、爬虫類のような冷たい目で僕をねめつけ、わざとらしく大きな声で言った。

「――では、これより、特待生アリアの身体組成スキャンを開始する。アリア、まずはその邪魔なパーカーとマスクを外し、指定の測定用スーツに着替えるように」

鈴木が指差した先には、身体のラインがくっきりと浮かび上がる、ぴっちりとした薄い生地のスーツが置かれていた。あれを着れば、僕の身体の秘密は、全て白日の下に晒される。


「……断る」

僕が、かろうじてそれだけを絞り出すと、鈴木は待ってましたとばかりに、口の端を吊り上げた。

「ほう? これは理事会で決定された公式な測定だ。正当な理由なく拒否することは、特待生の資格剥奪にも繋がりかねんぞ?」

「プライバシーの侵害だ」

「何を言うか。正確なデータを取るためには、当然の措置だ。それとも、何か、見られては困ることでもあるのかね?」

粘着質な追求。観覧スペースから「おいおい、可哀想だろ」「でも、ルールだしな…」という囁き声が聞こえる。

僕は、じりじりと壁際に追い詰められていく。


「――おい、お前たち。何をぼさっとしている。特待生様が、お着替えに手間取っているようだ。手伝って差し上げろ」

鈴木が顎でしゃくると、彼の息のかかった数人の男子生徒が、にやにやと下卑た笑みを浮かべて、僕を取り囲んだ。

「ひっ……!」

僕は、思わず後ずさる。

「まあまあ、アリアさん? 恥ずかしがらなくてもいいじゃないスか」

「俺たちが、優しく脱がせてあげますよ」

彼らの手が、僕のパーカーのフードに、そして肩に、乱暴にかかる。抵抗しようにも、多勢に無勢だ。


ビリッ!

パーカーの袖が、少しだけ破れる。白い肩が、あらわになった。

観覧スペースから、小さな悲鳴が上がる。

(……くっ。もう、いいか)

僕の心の中で、何かが、ぷつりと切れた。

特待生なんて地位、別に望んで手に入れたわけじゃない。こんな屈辱を受けるくらいなら、もう、全部捨ててしまっても――。


僕が、諦めて身体の力を抜こうとした、その瞬間だった。


「――そこまでよっ!!」


凛とした、しかし怒りに満ちた声が、訓練施設に響き渡った。

――バンッ!!

施設の扉が、凄まじい勢いで蹴破られる。

そこに立っていたのは、スマホをカメラモードで構え、そのレンズをまっすぐにこちらに向ける、仁王立ちの陽菜だった。

その後ろには、同じくスマホを構えたミカ、アヤ、ユキ――『銀の百合騎士団』の面々が、固い決意の表情で控えている。


「な、なんだ貴様ら! ここは関係者以外、立ち入り禁止だぞ!」

鈴木が狼狽するのを無視し、陽菜はゆっくりと、しかし確かな足取りで、僕と鈴木たちの間に進み出た。

「私たちは、この明らかな犯罪行為の現場を、記録・確保するために来ました」

「はっ、犯罪だと? 何を馬鹿なことを! これは、学園のルールに基づいた、正当な身体測定だ!」

鈴木の反論に、今度はミカが、冷たく言い放った。

「いいえ、鈴木先生。学園の校則よりも、この国の法律が優先されます。あなたの行為は、強制わいせつ未遂、暴行罪にあたる、れっきとした犯罪です」


彼女は、構えたスマホの画面を、観覧スペースの全員に見えるように、くるりと向けた。

「この映像は、現在、リアルタイムで外部サーバーに送信されています。たとえ、私たちのスマホを破壊しても、証拠が消えることはありません」

その冷静な言葉に、僕に手をかけていた男子生徒たちが、サッと顔を青くして手を離した。


「そ、そんなもので、我々を脅せると思うなよ!」

鈴木は、なおも強がる。

だが、その時、訓練施設に設置された巨大モニターが、突如として起動した。

そこに映し出されたのは、霧島校長の、氷のように冷たい表情だった。


『――鈴木先生。そして、そこにいる生徒諸君。あなた方の、あまりにも見苦しい行状、全て確認させてもらいました』

モニター越しの、静かな、しかし絶対零度の声に、鈴木たちの身体がびくりと震えた。

『これ以上、学園の名誉を汚すというのなら、私も相応の対応を取らざるを得ません。……あなた方は、それでも、まだ続けますか?』


それは、最後の通告だった。

鈴木は、わなわなと震えながら、その場に崩れ落ちた。

こうして、黒木教授の卑劣な企みは、少女たちの友情と勇気、そして電子の魔女と学園の支配者の介入によって、最も屈辱的な形で、完全に粉砕された。


僕は、僕を守るために壁となってくれた、陽菜たちの、頼もしい背中を見つめていた。

彼女たちの顔は、少しだけ赤くて、でも、とても誇らしげに見えた。

僕の最大のピンチだったはずの身体測定は、結果的に、『銀の百合騎士団』の、輝かしい武勇伝として、学園の歴史に刻まれることになったのだった。


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